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■Bite me on the this world

 僕らは夜のローカル線に揺られていた。
「大丈夫かな。補導とか」
「まだ七時だから大丈夫さ」
「何時から始まるの?」
「八時半だよ」
 僕らはナコの兄、次郎さんのバンドのライブに招待された。というもののチケットが余ったらしい。
「……どうして、あの子も一緒に?」
 僕が指差したのは向かい側の座席に座り、制服姿でうとうとする宮田だった。僕もナコも着替えている。
「ヨータ。考えてみたまえ」
「なにを?」
「キミは一本釣りの漁師だ。今日は大物がかかったぞ。しかしその大物はあまりにも強い力で漁師を引っ張る。……すると、漁師はどうなるかな?」
「落ちるね」
「それが今の彼女の状態なのだよ」
「……うわあ……。可哀想」
 つまり無理矢理連れてきたって事か。帰ればいいのに。
「可哀想は女性にとってステータスだよ」
 ナコは偉そうに胸を張った。
「聞いたことねぇ!」
「さらに可哀想なポイントを教えてやろう。彼女は自転車を漕ぐ私の目の前に滑り込んできた。猛ダッシュで」
「猛ダッシュで?」
「猛ダッシュでだ」
 すごいな……。なんて言う体力なんだ。
「すると、どうなる?」
「……轢かれるね……。って、まさか……?」
「そう。ぶつかって気を失った彼女をそのまま連れてきたんだよ」
「許可無しかよ!」
 ナコとは電車の中で落ち合い、そのときは既に彼女が乗ってうとうとしていた。
「それより……、やばいんじゃない? それって」
「うむ。けど息はしていた」
「いやいや、そう言う問題じゃなくってね」
「ん、んん……」
 このタイミングで宮田が起きてしまった。
「……あぁーッ!」
「おいおい宮田君。電車の中では静かにしてくれたまえ」
 紳士のような大根芝居でナコが言う。
「……電車?」
 宮田が後を向くと、そこには走る風景があるはずだ。
「……拉致?」
「きみがその言い方で落ち着くのならそうだろう」
「えー……」
「驚くかい? そうだろうそうだろう」
「とりあえず、降ろして……」
「無理!」
 宮田は泣きそうだった。
「降ろした方が良いんじゃない……?」
「謝るから……、謝るから降ろして……」
 駅に着き、電車が止まった。
「降ろしてください……。お願いします……」
「宮田、降りて良いよ、もう」
「……そうだな。悪いことをした」
「お前ら早すぎだよ」
 聞き覚えのある声だった。金髪。ナコの兄、次郎さんである。楽器のケースを背負っていた。
「次郎さん?」
「俺はバイト帰りで行こうと思ってたんだけど……、その子なに? ……泣いてんじゃん! 渡辺くん何してんのさ」
「いや、これはナコが……って、宮田、はやく降りないと……」
 宮田の方を見ると、宮田の視線は次郎さんに釘付けだった。
「JIROだ! GLAYの!」
 宮田はGLAYファンだったらしい。たしかに、似ている。
「いやー、ちがうよ。似てるって言われるけど。あっちも金髪だしね。けど、あっちの方が格好いいよ」
「え? 違うんですか? でも楽器……」
「たしかにベースでポジションも一緒だけど、何ら接点無いよ、俺とは」
「そうなんですか……」
 というやり取りをしている内に電車の扉が閉まった。
「あ……」
 ついに帰るタイミングを宮田は逃してしまった。
「もしかして、降りるつもりだった? っていうか、なんで泣いてたの? 渡辺くんの浮気?」
「違いますよ!」
「んなワケないでしょう」
 一蹴だった。
「拉致られました」
 宮田の説明によって次郎さんの顔はどんどん深刻なものになっていった。
「……奈々子、集合」
「何かな?」
 次郎さんはナコを自分の膝の上に座らせると、ヘッドロックをした。
「いた、いたいいた……ッ、ギブ、ギブ……、ジロー、ぎぼぅ……」
 ナコの全身から力が抜け、それを次郎さんが支えた。
「これでチャラ! ごめんね。うちの妹が……」
「いえいえ……。次の駅で降ります」
「次もう終点だよ」
 宮田の顔が曇った。凄く可哀想だ。
「今日、都合は? 親とか大丈夫?」
 次郎さんが聞くと宮田はすぐ笑顔になった。
「大丈夫です。うち、親遅いんで……」
「じゃあ……、ライブ見に来れば?」
「良いんですか?」
「いいよ。チケットも余ってるし。でも、その格好を何とかしないとな。……でも、宇摩サンにきけば何とかなるよ。あ、宇摩サンって言うのはうちのドラマー。気むずかしい人だけど女性だから大丈夫だよ」
「じゃあ行きます」
 僕は宮田の手のひら返しようよりも、次郎さんのモテっぷりのほうが凄いと思った。
「……あの、私、宮田杏って言います。……お名前は?」
「名乗るほどの者でもない。……って言うのは嘘で、代田次郎。ちなみに長男だから。父さんが太郎なの」
「へぇ……」
 二人は他愛もない話をしていた。僕は次郎さんからナコを受け取り看病していた。ガクガク震えたかと思うと起き上がった。
「ふぉわああ!」
「……おはよう?」
「こら! ジロー! 落とす時は落とすと言いたまえよあぁもうビックリしたなあもう!」
「いったら落としていいのかよ」
 ナコの怒声にしかめっ面をしながら次郎さんは答えた。
「言えば落として構わないよ」
「どんなやつだよ」
 電車が終電に着いた。
「じゃあ行こうか」
 僕らは次郎さんの案内でライブハウスに入った。すぐに楽屋に入らされる。
「宇摩サン、服かしてあげてよ」
 楽屋には髭を剃る男と楽譜をずっと睨む男と、小説を読む金髪の女性が居た。
「あぁ?」
「いやさあ……」
 次郎さんは事情を説明した。髭を剃っていた男が爆笑し、楽譜を読む男は「シャレにならない」と言う顔をしていた。その女性は表情一つ変えずにバッグの中を漁り、Tシャツと黒いパンツを差し出した。
「右の廊下にトイレがあるからそこで着替えてきな。奈々子、知ってるだろ、お前。案内してやれ」
「宇摩さんの命令とあらば聞かねばなるまい」
「いやー、ばかばかしいな、相変わらずお前の妹はよ」
 髭を剃っていた男が顔を拭いてやって来た。
「代田さんに妹が居たなんて知らなかったですよ」
「だろ? こいつの妹濃いキャラしてるんだよ」
「私は昔、手を噛まれたけどな」
 僕はなんだかいたたまれなくなってその部屋を出ようとした。が肩を掴まれ、笑顔の次郎さんに紹介されてしまう。
「あの妹の彼氏……?」
「おまえ、あいつを手なずけたのか……」
「手なずけたって……」
 僕らはそのあと雑談をし、宮田が戻ってきて観客席に向かった。ステージは小さく、人も少なかった。けれど、楽しかった。とくに次郎さんのバンド、「LATE BLOOMERS」は凄かった。
 また来たい。そう思った。
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