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■Mo12・終日

You saved me the day you came alive(あの日、きみが救ってくれた)
(FOO FIGHTERS/COME ALIVE)




 僕は家で延々ギターの練習をしていた。高校時代の僕はめきめきと蘇ってくる。
「……」
 僕の家は奇妙な静けさに襲われていた。あいつはもう随分と出てこなくなったが、それでも部屋は暖かかった。けれど今は違う。冷たい。あの、名前も聞かなかったドラマーのせいなのか。
 彼女はポーリーに似ていた。どこがと言われれば、よくわからない。けれど雰囲気が似ていた。
 手を止めて考えているとニルヴァーナのスメルズライクティーンスピリットがかかる。つまり携帯電話が鳴った。
「もしもし?」
『おい、有川』
「なんですか」
『今から今さっき適当に録音したやつを流すから、勝手に入ってこい。いいな』
「え? いや」
『いいから。ギター持ったか?』
「まあ、はい」
『よし、流すぞ。3,2,1』
 ドラムスティック同士が打ち合う音。エレキベースの重低音。その後、際だつアコースティックギターのアルペジオが始まった。
 僕はギターの横に携帯電話を置き、その展開を見極めてベースの音に近い低音の単純なコード進行をした。ドラムの音が勢いを増し始める。心の中で三つ数え、この後来るであろうサビを支える音を出した。
 予想通りサビはアコギのくせに激しいサウンドで、僕とベースとドラムスがそれを支えた。
 曲が終わり、僕は携帯電話を取った。
「どうでした?」
『ほら、予想通りだろ。じゃじゃ馬よ』
「え? そこ誰か居るんですか?」
『今スタジオ。ほら、コンビニの裏にある』
「あー……」
 実を言うと僕は知っていた。
『お前、高校でもギターやってただろう。有川』
 声が変わった。女性の声だ。
「あ、ドラムの……」
『宇摩』
 彼女は淡々としていた。
「宇摩さん。……僕は、確かに、やってました」
『ニルヴァーナのダムとピロウズのブラックシープを弾いて学校中を哀しい気分にさせたと言う話は聞いている』
 知ってんのかよ。
『え? あの『狐田お通夜伝説』の? 有川が? マジか』
 山中の声が遠くから聞こえる。いつの間にか伝説になっていたようである。やめて。本当にやめて。
『あいつが? 技術のある根性無しだと思ってたけどやるねぇ』
 この声はたしか代田とか言う……、いやちょっとまて。誰が根性無しなんだ。
「で、僕を笑いに来たんですか」
『そうじゃない。……スタジオの場所は判るな。さっさと来い』
「え?」
 電話が切れた。と思うとまたかかり、僕は再び電話を取った。
『ギターももってこいよ』
 また切れた。僕はムスタングをソフトケースに入れて抱えると家を出た。
 スタジオまではすぐであっという間だった。スタジオの前には山中が居てずるずると引きずられるように僕は貸しスタジオの中に入った。
 中には代田と宇摩が居た。
「きたか」
「おぉー」
「早速だが、お前に頼みたいことがある」
 宇摩がやって来て僕に楽譜を渡す。
「……これは?」
 僕は楽譜を見ながらきいた。
「ギターが足りないんだ。歌詞もない。ギターは考えてあるが、歌詞がどうにも。……できるか」
 宇摩は僕に何かを求めていた。答えなんて決まっていた。
「わかりました」
「三人で録音したやつがあるんだ。聞いた方が良いか?」
「お願いします」
 宇摩は自分のポケットの中からアイポッドを取りだし、操作するとイヤホンに繋いで僕に渡した。すこし戸惑いながら僕はイヤホンをつけ、再生ボタンを押した。
「……」
 あの曲だ。彗星のような、一曲目。
「これ、ライブでは一回だけコーラスしてませんでした?」
「あぁ、あれか。……山中がボーカルを連れてくると言うからそのときだけだ。……英詩でも日本語でもどっちでもいい」
 つまり、僕のためだけに? 少しだけ嬉しかった。僕は眼を閉じて集中する。ソングライティングなんて、何年ぶりだろう。そうだ。ギターを辞めてから、もうそんなこともしなくなった。
 ふつふつと歌詞がわき出て僕はメモ帳に書き出す。
 何時間経ったのか、まだ数分なのか、僕の歌詞は完成した。
「……出来ました」
 曲の打ち合わせをしてい宇摩たちは驚いた顔をした。
「もっとかかると思ったぜ」
「今から弾く。お前は出来るだけ弾いて欲しいが……、とりあえず唄え」
「え?」
 歌詞を見せるだけだと思っていた僕は驚いた。いきなり唄わされるなんて。
「いくぞ!」
 彼女はドラムの前に立ち、山中はギターを抱えて肩をすくめた。代田は僕の前にマイクのついたスタンドを持ってきた。
 僕は慌てて持ってきたエレキギターにストラップをかけてアンプに繋いだ。
 ドラムスティック同士が打ち合う。1,2,3。

  サヨナラも言わず、彼女は消え去った
  さよなら彗星。明日には忘れるよ。
  こんにちはも言えない僕は消え去って
  夜明けの庭で遊びたい。

  けど何だっけ。
  あの星の名を教えてよ。

  やあやあ、皆さん。
  思ってもいない台詞。
  さよなら彗星。明日には忘れてよ。
  こんにちはも言えないあのころは
  夜明けの庭で遊んでた。

  それももう終わりさ。
  僕は大人になったんだった。

  今日も僕は思ってもいない台詞を吐いてる。
  あのころの僕はもう忘れてくれ。
  涙が出そうさ。

  君が現れるのはずっと先の話さ
  さよなら彗星。君は驚くよね。
  僕は変わりすぎた。裸足で出歩けなくなった。
  夜明けの庭で遊びたい。

  さよなら彗星。さよなら。

  今日も僕は思ってもいない台詞を吐いてる。
  あのころの僕は忘れてくれ。
  涙が出そうさ。

 ディストーションサウンド。間奏に入った。僕も気づけばギターを掻き鳴らしていた。
 間奏が開ける。

  こんにちはも言えない僕は忘れられ
  消え去った彗星も忘れたころ
  こんにちは彗星。
  夜明けの庭で誘ってくれ。

  言葉が詰まって何も言えないよ。
  そうして僕は庭に飛び出すのさ。

  今日だけ僕は靴を脱いで
  夜明けの庭で遊ぶんだ。
  久しぶりだね。僕も着いて行っていいかい?
  いいよね。

 千切れるようにして音が鳴り止む。曲が終わった。気が付けばもう星が出る頃だった。
「……もう夜なんだ……」
 後ろの方では膨れあがったスタジオのレンタル料金を巡って山中と代田が言い争っている。
「有川……」
 隣で宇摩が星を眺めている。
「なんですか?」
「ボーカルギター、やらないか?」
 結局割り勘で落ち着いた二人の馬鹿騒ぎが自然と静まった。
「……僕は、高校生の時、弾き語りをしました。けど本当はちゃんとバンドのメンバーが居て、ちゃんとした曲をやる予定でした。……けど彼らは現れなかった。もう、ギターなんて、バンドなんてって思ってたけど……。なんだかんだでここまで……」
「で、やるのか」
 宇摩は僕の言葉を切っていった。後ろで山中と代田が目頭に指を当てて首を横に振っている。
「やります」
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