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■掌編小説「蛾」

 山奥に住む父が倒れたと連絡が来たのはとある梅雨の時期だった。私は仕事を早退して父の元へ向かった。ところが山の麓にある駅を出た途端、それまで湿度を高めるだけだった雨は一層強まり私は少しだけ不安になった。それでも危篤した父の元に向かわない理由にはならないので、山中を走るバスに乗った。その頃にはもう雨は霧のように視界を覆う豪雨になっていた。
 バスが停留所にとまると、雨に濡れた学生達と共に一匹の虫が入ってきた。大きな蛾である。蛾は私の方へ一直線に飛び、Yシャツのボタンにひっしとしがみついた。そのさまに私は同情を憶え、少しの間ならと見て見ぬふりをした。
 窓から土色に染まる道路を眺め、一つ二つと停留所を過ぎた。三つめの停留所で止まったとき、私はふと蛾のことを思い出してYシャツのボタンを見てみた。蛾はまだボタンに泊まっていた。その蛾は改めて見ると以外に小さく、雨に打たれたせいか羽がぼろぼろにひしゃげていた。
 再び外を眺めると、そこには懐かしい田畑が広がっていた。父の田んぼもその中にあり、まだ私が中学生だった頃、同じような雨によって起きた土砂崩れでその田んぼが潰れてしまった事を思い出した。私は、そのときに父と大喧嘩をしたのだった。
 原因は些細なもので、毎日田んぼを掘り返す父が「どうせ俺の跡を継ぐんだから、学校なんて行かずに俺の手伝いをしろ」と言った事にあった。
 私はその「どうせ」と言うのが馬鹿にされているようで気に食わず、父を見返そうと毎日毎日机に向かった。机に向かう時間が長引く分、父と話す時間は減っていった。そのおかげで私は一流とは言えないが、実家の周りでは十分だろうというくらい良い高校に入り、大学へ行って就職することが出来た。
 実家の前にある停留所にバスが止まり、私は運賃を払ってすぐ飛び出した。雨は弱まり、家の玄関を開けるまで殆ど濡れなかった。家にはいると、右手の障子を開けた。そこには布団の上で父が寝かせられていた。隣には初老の白衣を着た医者らしい男が常に父の容態を確認している。
「あんた、なんでもっと早く帰ってこなかったんだい」
 医者の隣に座る母が怒鳴った。
「これが精一杯なんだ」
 私は短く返すと、数十年ぶりに帰ってきた家がかなり寂れていることが気になったが、何も聞かずに父より一歩離れ、立ったまま父を見下ろした。その身体は思っていた以上に小さく、硬く、大きかった手も皮膚がひび割れぼろぼろに見えた。
「あんた、洋ちゃんが帰ってきたよ」
 母は父の肩を叩いたが、父は目を開けようとしなかった。
「あんたも、お父さんに何か言いなさいよ」
 次に母は涙声で私に訴えたが、父の顔を正面から見るのはいつぶりかわからず、声が出なかった。
 ふいに医者が立ち上がり、脈拍を図る機材を見ながら大きな声で父の名前を呼んだ。母も同じように肩を叩きながら父の名前を呼んだ。私は呆然と立ちつくしながら、それがゆっくりと静まるさまを見ていた。と、同時に、ぼとりという音とともにボタンに泊まっていた蛾が落ち、畳の上に転がった。死んだ。
 ぶわっと私の視界は滲み、脚から力が抜けた。喉と眼がからからになるまで。涙が止まらなかった。
 父の手は、私の学費ために雨に打たれ、ぼろぼろになったのだ。



純文学っぽい物を書こうとしてこの有様。
あぁ何てむつかしい。

この元ネタは僕の家の駐車場に泊まっていた巨大な蛾。五センチくらいあったこの蛾は豪雨のあとにやって来て、「こわいなー」とか思いながらその蛾の横を毎日僕は自転車片手に見ていたんだけど、ある時ぱたりと居なくなって、よく見ると死んで地面に落ちていた。
そのが蛾いつ死んだかは判らないけどなんだか儚さのようなそんな物を感じた。
と、いうわけで生まれたのがこの作品である。
雰囲気がラノベっぽい物ではなかったからショートショートではなく「掌編小説」。名前を「蛾」にした。
いやあ、それっぽいですなあ。それっぽさだけなら最強(黙
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