■スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

■レッツ シー イフ ザッツ トゥルー オア ノット第四章・1


第四章

 ニニーと子供達に二つあるベッドを両方奪われた僕は二階の廊下で目覚めた。
「……」
 伸びをして一階に下りた。まだ誰も起きていない。僕は火種入れから火種を入れて火を焚き、外の井戸から水を汲んできてやかんにお湯を沸かした。戸棚から茶葉を持ってきて茶出しに入れた。
 お湯が沸き、茶出しの中にお湯を注いでから少し待つ。後ろの方から物音が聞こえ、僕はふり返った。
「ニニー」
 寝ぼけた顔の少女は頭を掻きながら僕に近づいた。
「……いい香りだ。なんて言う茶葉だ?」
「キームンだよ」
「あぁ……。ロッキーが好きだったやつか……。エニモル」
 いきなり寝ぼけた口調ではなくきりっとした口調になったニニーが言った。
「なに?」
「きみは、テレフォーン=パピーアを救うために、その情報を知るために、私の仲間になったんだろう?」
 そうだ。その気持ちは今でも変わっていない。
「そうか。……一応伝えておく。テレフォーン=パピーアは、おそらく、きみへの負い目があってきみから去った」
 首肯した僕にニニーが言った。
「え?」
「おそらく、ワン=ケーニヒに刷り込まれたか、それとも元々抱いていたか」
「ちょっと、どういうこと?」
「聞け。彼女と、きみの違いはなんだ?」
「……見た目?」
 恐る恐る僕は口にした。
「差別的発言だが、その通りだ。それは、きみにとって魅力でもあった。違うか?」
 ふふん、とニニーは笑った。まるで「きみのことは何でも判る」と言うように。
「それは、相手にとっても同じ事だ」
 僕が押し黙っていると、ニニーは言った。僕は思わずニニーの顔を見た。
「テレフォーン=パピーアは、何かしらの脅しをかけられた。『ライゼを退職させる』と言った類の事かも知れない。そこは判らない。けれど、彼女は、きみを思ってきみのもとを去った……。この話は真実かはわからない、ただの空想だ。けれど、きみはテレフォーン=パピーアに会って話す必要が、訊く必要がある……。それはそうと、紅茶の蒸らし過ぎじゃないか?」
 慌てて紅茶をカップに注ぐ僕に、ニニーはいつの間に取ったのかずいっともう一個カップを差し出した。
「渋いのが好きなんだ」
 と言って笑った。
 僕がニニーの分まで紅茶を注ぐと、ふらふらとマーニとソールがやって来た。二人の分まで注ぐと、ちょうど紅茶はなくなった。
「で、そのヘルセイって人は協力してくれそうなのか?」
 長机を囲んでからニニーが言った。
「たぶん、大丈夫と思う」
「へえ……」
 ニニーは紅茶をすすった。  
 隣ではソールとマーニが仲良くバスケットからパンを取り出して囓っている。
「二人とも、無茶するなよ」
 マーニが呟いた。となりにいたニニーが彼の頭に手を置き自慢げに、にやっと笑っていった。
「大丈夫だ。エニモルがついてるからね」
 快晴のような美しい瞳が僕を見ていた。気恥ずかしさについ目をそらしてしまう。
「さあ、のんびり飯を食っている時間はないぞ。エニモル。出かけよう」
 ニニーは勢いよく立ち上がって言った。
「わかったよ」
 僕は食べかけていたパンを全て口の中に入れて頬張り、出かける準備をした。防風眼鏡、薄い牛皮の手袋、長いマフラー。帽子を被ろうとして、それをニニーに預けたままだと思い出してまあ良いかとどうでも良くなった。
 僕が部屋の隅で準備をしていると、ニニーがマーニに物騒な話をしていた。断片的だが、どうやら、シューターの使い方を教えているようだった。
「……なんてもん教えてるんだよ」
 腰の左右に祖父の形見である剣をぶら下げた僕は言った。
「私達の留守中に、この子達が闇へと消えていたら、きみもわたしも、普通でいられなくなるだろう? どちらかが残るにしても、エニモルが居なければ本末転倒だし、エニモルだけだと何も出来ずに帰ってくるのがおちだからね」
 僕はそれを聞いて、なぜか哀しい気分になりながらもそれを見過ごした。
「……」
 僕が階段に腰掛けてその様子を眺めていると、ソールが横に座った。
「いやなら、やめさせれば良いんじゃない?」
「そうだけど、僕も、君たちが気がついたらどこかに連れ去られてるのは辛いよ」
 ソールが押し黙るので不審に思って、僕は彼女の方を見た。ソールは、耳まで真っ赤にしてなにかを言おうとしているようだった。
「そんなに私達が大切なの?」
 奇妙な沈黙の末に返ってきた答えはそれだった。
 僕は困ってしまった。頭を掻いて少し考えて、それに答えた。
「大切だよ」
「みんな、私を殴ったのに? あの子も……マーニも、沢山ぶたれてた」
 僕らの世界を回す歯車。その大きな歯車の一部となって、この間まで回っていた少女と少年。名前も、与えられず。
「今まできみが殴られてたなんて僕には関係ないよ。ここは違う世界だし、君たちのいた世界も、誰も殴られないような世界にしてみせるよ」
 ソールは立ち上がって、僕を見た。
「……全部が終わったら、私に、戦う術を、教えてくれますか?」
 強い意志を宿した眼が僕を見た。ニニーの空のような瞳とは違う、燃えるような瞳だった。
「全部、終わったら、そうする。約束する」
 そんな約束を取り付けて、外に出た僕はニニーと一緒にリーフェルングに乗った。
「……エニモル、こいつは、ロッキーが使っていた奴だろう?」
 リーフェルングの赤銅色の流れるような形の胴を撫でながら、僕の帽子を被ったニニーが言った。
「うん。アートムングっていう、僕の先輩が、預かっていたものだって」
 僕はマフラーを巻き直し、防風眼鏡をつけた。
「アートムングか……。まだ生きてるの、っかッ、――え、エニモル! 走らせるときは何か言えと言っただろ!」
 ニニーが喋っている途中を狙ってリーフェルングを発進させた僕に、ニニーから避難の嵐が聞こえる。
「あはは、動かすよ。気をつけてね。ニニー」
「もう遅いッ!」
 僕が速度を上げると、ニニーが腰にぎゅっとしがみついてきたのが判った。
「ニニー、ゆっくり走らせようか?」
「そう言う気遣いは動かすときに頼む」
 ニニーは震える声で言った。
 僕が通っていたライゼを育成する学園から右に曲がってすぐの所に、王立図書館はあった。噂では、地下で色んな物と通じているらしい。
 王立図書館の前にリーフェルングを止め、僕らは中に入った。すぐに紙とインクの香りがした。
「うん、いい匂いだ」
 と言いつつもニニーは涙目である。どうやら僕が急発進させたときに座席から落ちかけ、王立図書館に着くまで不安定な姿勢で居たらしい。
「ニニー……ごめん……」
「今さら謝られても困るね。次からの行動にいかしてくれ」
 言葉だけ聞くと寛大だが、冷たくこちらを見ずに言うので、どうしようもない。
「本当にごめん……」
「もう、うるさいな。次から気をつけろと寛大な私が言っているのだからきみは私を信じてその友人の所に連れて行けば良いんだ」
 これはもうだめだ。そう思った僕は早くヘルセイの所に連れて行こうと思った。
 忙しそうに動き回る司書の中から、見慣れた眼鏡の女性を見つけ、声をかけた。
「ヘルセイ」
「エニモル? ……あぁ……。その子が……ニニー……さん?」
 ニニーが少女なのに驚いたようだった。
「私のことまで喋ってるのか。とんだおしゃべりだ」
 気にした様子もなくニニーが言った。
「エニモル、大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ。きっと」
「……『きっと』って……」
 ヘルセイが不安そうに言った。
「大丈夫だ。いざとなったらきみはエニモルに脅されたと言うことにすればいい」
 ニニーが言った。僕は後ろにいるニニーの方を向いた。
「そうなったら本格的に僕は犯罪者じゃないか?」
 ここまで言ってそもそもの論点がずれているような気がした。
「そしてきみは私に脅されたと言うことにすればいい」
「誰も信じないよ。少女に脅されてやったなんて」
「売春でもしてそのネタで私に脅された事にしよう」
「きみの言うことはいつも意味不明で難解だな」
 すると隣で、ヘルセイがぷぷ、と笑った。
「判りました。私は脅されて、見せてはいけないものをあなた方に見せます」
 両手を上げて彼女は言った。
 僕らはヘルセイが案内する先に向かった。目の前にある分厚い辞書の載った本棚を横にずらすと、扉が現れた。その扉をヘルセイが開くと、辺りが妙に騒がしくなった。
「え?」
 ヘルセイが動揺した。騒ぎの原因はすぐにわかった。図書館の天井に煙がたちこめているのだ。
「ヘルセイさん、消火に行ってきたら?」
 ニニーが言うと、ヘルセイは頷いてその場を去った。
 僕らがヘルセイから案内された扉の中にはいると、扉は独りでに閉まり、勝手に明かりがついた。
「最悪壊す」
 ニニーが物騒なことを言った。おそらく、もしも扉が開かなければの話だろう。
 目的の本はなく、目の前にある薄暗く細い通路を一列になって歩いた。ニニーが僕の後ろにいた。
「さっきの火事、どうなったのかな?」
「煙だけだ。小火だよ」
「どうして判るんだ?」
 後ろにいるニニーが何かを耳の後ろからさしだした。それを受け取って眺めると、小さい箱のような物で、箱の側面にはざらざらした物が着いている。
「マッチ?」
「そう」
 ニニーが後ろで意地の悪い笑みを浮かべるのが見えた気がした。
 強い明かりが見えると、数々の本棚があった。その中には色んな本がおさまっている。
 ニニーは僕をはね飛ばし、どこからだしたのか大きな鞄に本を選んでは入れていった。
「何か手伝おうか?」
「きみに読める文字は一つもないだろう」
 ニニーは僕すら見ず、本を盗んでいるようだった。なんだかやるせない気持ちになった僕は床に寝転がった。埃とカビの臭いがした。もう何十年と人が訪れていないらしい。
「ニニー」
「なんだ? 眠くなったら寝て良いぞ。置いていくが」
「僕のお爺ちゃんは……、知りすぎたから、死んだのか?」
 ニニーの手が止まった気がした。少ししてまた動き出す音がした。
「そうだ……。ロッキー=ティアはそれを悟っていた。そしてお前に全てを託した」
「僕が、今、ここできみとこんな事をしているのも、知っている?」
「そうだろうね。彼には、そんな確信があったらしい」
 ニニーの声が急に哀しそうなものになった。
「エニモル、私はね、死ねないんだよ」
 そのときは、ただの冗談だと思った。
 僕がうとうとしていると、脇腹を思いっきり蹴られた。
「ぐふッ」
 自分でも情けない声が出た。
「いつまで寝てるんだ。行くぞ」
「はい……」
 僕は起きあがり、ニニーの後を着いていった。
「エニモル、ここ、お前の愛車は進めそうか?」
 図書館へ戻る途中、ニニーが言った。
 僕は周りを見渡し、
「大丈夫だと思う」
 と答えた。
「よし」
 なぜか満足そうにニニーが言った。
「もうすぐだ。エニモル」
 ニニーは本当に嬉しそうに言った。
 扉が開かなかった何てこともなく図書館に戻るとがらんとしていた。火は止まったらしい。
 僕は扉代わりの本棚を閉ざした。
「火事のせいで臨時休業にでもなったか。さあ帰るぞ、エニモル」
 図書館を出てリーフェルングに跨った。
「エニモル、憶えているだろうな?」
 僕がマフラーを首に巻き直したりしているとニニーが言った。
「判ってるよ」
 防風眼鏡をおろしながら言った。
「……、……、……、……速く出したらどうだい?」
 ニニーもリーフェルングに乗ったようだった。
「え? あぁ、なんて声をかけようか迷ってたんだよ」
「まったく、そう言うのは良いから――ッ! エニモル! 後でお、憶えてろよ!」
 僕がわざとニニーの話している途中でリーフェルングを発進させた。
「え? なんだって?」
 僕は大通りを文字通り右往左往した。後ろでニニーが奇声を発しながらしがみついてくる。
「え、えに、エニモル! あんぜ、安全に、う、んん、うぅ、運転――」
 ニニーの言葉が尻すぼみに消えていった。少しやりすぎたか。僕は声をかける。
「ニニー? 大丈夫?」
 僕はもう道の真ん中をゆっくりまっすぐ走っている。
「――ろす」
 ニニーが言った。ぞくりと背筋が冷たくなる。
「――後で、殺す」
 僕は相手の気を紛らわすために訊いた。
「な、何で今じゃないの?」
「い、今は……、む、り」
 力無くニニーは言った。僕はその後の液体が道路に叩きつけられる音とか「おぇぇえ」とか言う声は聞こえなかったし聞かなかった。
 家に着いて、リーフェルングから降りようとするとニニーが首に手を回してきた。
「な、なんだよ」
 少しどきっとした。だがそれはニニーから漂う酸っぱいにおいにかき消された。
「……ほんとごめん」
 ニニーは答えない。僕はニニーをおぶって家の中に入った。ドアを閉めた瞬間、誰かの怒声が聞こえてきた。
「出ていけッ! 出てけよ!」
 すぐにマーニの声だと判った。
 ニニーもそれに気づいたのか僕の肩を踏んで前に跳躍した。その両手にはシューターが握られている。何丁持ってるんだろうかと思いながら僕もそれを追った。
 居間には見覚えのある女性と、部屋の隅でシューターを構えるマーニと怯えるソールが居た。
「ニニー! エニモル!」
 マーニとソールがニニーを見、その後僕を見て嬉しそうな歓声を上げた。
「……エスタ」
 マーニに近づく女性、エスタはゆっくりと僕の方をふり返った。
「エニモル……」
「何をしに来たんだ」
 エスタは目を伏せた。
「私、今、犯罪者なんだよね?」
「もちろんだとも。この都市のライゼは『面白そう』な顔をして猟犬の如くお前を捜し回っている」
 ニニーが答えた。ニニーの眼は燃えるように輝いている。
「……そっか……。本当は、さぁ、子供達を救いたかった。でも……、もう、手遅れだよね……。みんなみたいに、なれなかったよ……」
 エスタがぽろぽろと涙を流した。
 不意にドアがノックされた。どうやら、この町のライゼが来たらしかった。
「本当は、こんなこと……」
 エスタはうつむいてうわごとのように呟いた。だとしても――。
「だとしても、僕は、きみをゆるせないよ」
 彼女は雷に打たれたように顔を上げ、顔をくしゃくしゃに歪ませた。
「……ぁ」
「この町のライゼが来てるんだ。ニニー、ドアを開けてきて」
 エスタが何かを言おうとしたとき、僕はそれをさえぎった。
 ライゼはニニーと共に早足でやって来て、エスタの両手を前に持ってきて木製の手錠をした。エスタは泣くのをやめ、眉間に皺を寄せて僕を睨んでいる。その視線が、何かに突き刺さった。
「ご協力、感謝します」
 壮年のライゼが言った。

page5.jpg


「……いえ」
「隣の家の人が、家に入っていくあの子を見たんだって、さ」
「へぇ」
 ニニーの報告を、僕は聞き流した。
「……ニニー。僕は、友人を売った。正しい事をやったと思う?」
 ニニーは黙っている。
 すると、目の前の景色が歪み、僕は床に転がったのだと判った。顎が痛い。
 目の前がぐらぐらしていると、目の前に二人の少年と少女が立った。二人とも、僕に向かって手をさしのべている。
「お前はこの子達を救った。それは正しいことだ。違うか?」
「……」
 急に視界が滲んだ。
「例え相手が友人であろうと、お前の行動は正しいよ」
 僕は、嗚咽を漏らしながら泣いた。
関連記事
スポンサーサイト

■コメント

■コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

 

プロフィール

KANTA

Author:KANTA
Are you alien?

最近のトラックバック

ブロとも申請フォーム

ブログ内検索

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。