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■レッツ シー イフ ザッツ トゥルー オア ノット第三章・2


       2


 少しして、僕は料理を完成させた。
「お手並み拝見、と」
 マックが小皿に少し注いでそれを舐めるようにして味を確認した。彼女は眼を大きく見開くと、脱力したかのように床にへたり込んだ。
「どうかした?」
「はったりかと思ったのに」
 マックが呟いた。どうやら上手に出来ていたらしい。
「ん、マックのよりも美味しいね」
 ニニーもひょいと口に入れ、呟いた。
「……エニモルに負けた……」
「私が教えるから元気だしなよ」
 ニニーはマックを慰めながら言った。
「もう、こんな時間か」
 ニニーは外の景色を見ながら言った。確かになかなかの暗さだった。
「じゃあ、私はもう帰ります」
 マックは相当落ち込んでいるのか生返事をしている。
「……ニニー=サリヴァン」
 もうライゼエスィヒを出ようとするニニーに声をかけた。
「何です?」
 車いすの少女はふり返った。本当に同一人物とはおもえない可憐な微笑みで。
「もう遅いから、リーフェルングでおくるよ」
 リーフェルングに車いすを括りつけるまでのあいだ、ニニーはライゼエスィヒの階段に腰掛けていた。
「よし」
 車いすを固定し終わった僕はニニーに近づいた。
「エニモル、向こうむいて、しゃがんで」
 僕は言われたとおりにした。背中に何かがぶら下がるような重みがあった。
「はい、出発」
 耳の後ろから声が聞こえた。どうやらおぶさられているらしかった。
 僕はリーフェルングに跨り発進させる。
「落ちるなよ」
 僕は記憶を頼りにニニーの家へ走る。見覚えのある景色を見て、僕は少し安心した。
 僕はニニーをしょって店の中に入り、椅子に座らせ、リーフェルングに括りつけてあった車いすを取り出してニニーの所まで持っていった。
「乗せるところまでしてくれないの?」
 僕はため息をついて頭を掻き、ライゼエスィヒでやったようにニニーをおぶって、車いすの上にのせた。
「本当は歩けるんだろ? 自分でやれよ」
 車いすに乗せてから僕は言った。
「今の私はただのニニー=サリヴァンなのです」
「なんだよ、それ」
 僕が店から出ようとすると、ニニーは言った。
「なんで色々聞かないんだい? 普通、聞くだろう?」
「……きみはニニー=サリヴァンか?」
 彼女は肩をすくめ、馬鹿にするように言った。
「決まってるだろう。きみは阿呆か」
 僕は何も言わずにドアノブに手をかけた。
「ちゃんと、明日の夜、きなよ」
 僕は何も答えず、ニニーの店を出た。
 次の日、前の夜になかなか寝付けなかったせいで、僕は昼を大きく上回る時間に目を覚ましてしまった。ベッドから起き、右手の痛みがないことに気がついてつけっぱなしの包帯を外した。
「お、起きたか」
 帽子を被りながら広間に出ると、ソファの上で寝転がるメーレンがけだるそうに言った。その横にある机ではマックとヴェンディがチェスをしていた。ヴェンディが遊んでいるのを見るのは初めてだ。
「チェック」
 マックが言うとヴェンディは頭を抱えながらこつこつと机を叩いている。みんな仕事がなくって暇なのだ。
「ちょっと、出かけてきますけど」
「行ってこい」
 僕が言うと、メーレンは立ち上がって面倒臭そうに頭を掻きながらも見送ってくれた。
 リーフェルングに向かって、ある人の家へと向かう。結局、アートムングのいえには最近行ってなかったからだ。とくに用事もないのだが。
 アートムングが今住んでいる家はヴェステン領の町外れにある少し大きな家だった。ライゼを引退してから建てたらしかった。
「アートムングさん、エニモルですけど」
 僕はドアをノックした。
「おぉ……」
 中からアートムングのしゃがれた声が帰ってきた。僕はドアを開けて中に入る。家の中を歩き、寝室にはいると弱々しい老人がベッドの上で寝ていた。アートムングである。
「アートムングさん、大丈夫ですか?」
 ベッドの側に行って話しかけた。
「んん、この年になると色んな事がしんどいのだ。それで、今日はどういう用件で来たんだ?」
「えぇ、とくに理由もないんですが……祖父のことを」
 アートムングは聞いて二、三度頷いた。
「なるほど……だが、おれの知っていることはもう無い。お前が腰に下げているヘビー・ザ・サンはこの世に一対しかない業物であり、お前の祖父が愛した剣だ。誇りにもて」
 僕の頭はうなだれていた。頬に、アートムングのかさかさの手が触れた。固くしわしわで武器を握り続けた手のひらだった。
「お前の意志は、世界を変える」
 僕は顔を上げた。するとアートムングの手も放れた。
「あと、最近噂されている反政府組織を知っていますか?」
「あぁ、アウフ・エア・シューティングとか言う団体か。調査の話か?」
「いえ……。ニニー=サリヴァンと名乗る少女が、自分がそれの首領だと……」
 アートムングの顔に驚きの色が出た。だがそれはすぐに隠された。
「アウフ・エア・シューティングは何十年も前からある組織だ。だが最近活発化してきた。と、言うことはその少女は過激な思想の持ち主なのだろうな……。信じられない話だが……。だが、エニモル」
「はい」
「その少女から離れるな。監視しろ。協力者を装え」
 はっきりとアートムングは言った。強い口調で、確信があるようだった。
「協力者を? そんな簡単に騙されるでしょうか」
「協力者になりうるという自覚があってその子はお前に近づいたんだろう」
「僕が騙されていた場合は?」
「山賊あがりにお前は負けるのか?」
 アートムングが馬鹿にするように言った。僕はアートムング見て、頷いた。
「それでは、仕事があるので」
 たった今できた仕事を完遂するために、僕はアートムング家を出た。
 外はもう夕暮れ時で、ライゼエスィヒにつく頃はなかなか暗くなっているはずだ。僕はリーフェルングに跨ってそれを発進させた。
 リーフェルングをゆっくり走らせたせいもあるだろう。案の定ライゼエスィヒについたときはもう真っ暗だった。ライゼエスィヒの窓から中を覗いた。中の様子は出てきたときと何ら変わっていなかった。
 僕はそれだけ確認すると、リーフェルングに跨り、廃墟を目指す。
 かちゃかちゃと、祖父の剣が鳴った。
 廃墟は薄暗い雰囲気と共にわずかな熱気を放っているのが判った。明らかに昨日と違う。廃墟の扉を開けて、中にはいると、床に大きな穴が空いていた。
 近づいて確認すると、それは地下へ続く階段だった。道理で、判らないわけだ。地下に続く道があるとは。
 階段を駆け下りると、廃墟の中よりも巨大な空間があった。その中に何百もの人が居る。巨大な石の柱が天井を支えている。その奥に演壇がある。その上には、小柄な、見覚えのある少女が居た。ニニーだ。
 ニニーは拡声器を持って演説をしている。やはり、彼女がアウフ・エア・シューティングの首領なのだ。
「我々は、アウフ・エア・シューティング!」
 ニニーが叫ぶと、集まっている人々が叫んだ。
「アウフを打ち落とせ!」
「殺せ!」
 何とも殺伐としているな。僕の呟きはあっという間にかき消された。そして、冷たい何かが僕の身体にはいってきた。身震いして、僕は柱によっかかった。
 もう一度ニニーを見ると、その姿は一人の老人に変わっていた。色あせた長い赤毛。皺だらけの顔。ぼうぼうの眉毛。空色の優しい瞳が、今は強い意志を持つ何かに変わっていた。
「爺ちゃん……?」
 その呟きも、すぐに他の叫びにかき消された。
「ライゼだ! ライゼが居る!」
 誰だろうと思って、すぐに自分のことだと気がついた。僕は、制服のままでここに来ていたのだった。
「……」
 僕は自分でもなぜか判らないほどよろよろ体制を整えた。両手はそれぞれ剣の柄に届いている。いつでも、殺せる。
「やるきか、この――」
 右側の男が懐から何かを取り出そうとする。その前に僕は右腕で剣を抜いてその男を斬りつけていた。自分から見て左下から右腕への一閃。男は叫びながら床に伏した。
「こいつッ!」
 左側の男が叫んだ。その男は右手に剣を構えている。
 左肩から斜めに切り裂いた。剣は折れ、男は肩を押さえながら倒れた。
 何て冷たいんだ。僕は。
 全てが他人事のように思えてきた。

「そこまでだ。エニモル=ティア!」
 ニニーの声だった。壇上の祖父は消え、ニニーがこちらをみていた。
「……」
 僕の視界はぴたりととまっていた。僕の周りだけ人が居ない事に今気がついた。
「そのまま皆殺しにする気か? エニモル」
 なぜ人居ないのか皆血だまりを避けていたらしかった。誰のか判らない血だまりの上に、僕は居た。
「みんな、彼が通る道をあけてやれ」
 ニニーの一声で、群衆がざあっと二分した。出来た道はまっすぐニニーの居る演壇に向かっている。
 僕はゆっくりそこに向かう。誰かの歯ぎしりの音が聞こえると思っていたら、自分が歩く音だった。
「ふふ、来い。エニモル」
 僕は演壇の舞台裏へと導かれた。そこには、テーブルの上に二杯の水と、椅子があった。ニニーはその椅子に座った。
「座れ。エニモル」
 ニニーは水を飲みながら言った。けど僕は座らなかった。
「……十人ほどお前に斬られたが全員命に別状はないようだ。どうした? いつもと違うな。全てが――」
「ニニー」
 これが僕の声だったのか。
 ニニーは肩を振るわせ、ゆっくりと杯を机の上に置いた。その手はなぜか震えていた。
「な、なんだい?」
 引きつった笑みで彼女は答えた。
「僕の祖父は、この組織と関係があるんだな?」
 右手は自然と剣の柄に触れていた。
「アウフ・エア・シューティング、初代の首領だ。お前を育てた養父、ロッキー=ティアは……」
「お前は、何を知っている?」
 ニニーはぐいっと水を飲み干すと、笑った。やはり引きつっている。
「仲間になったら教えてやる。知りたいだろ? ロッキーがなぜこんな組織を作ったのか、なぜ、テレフォーンがお前から離れたのか」
 僕の右腕は剣の柄から離れ、ニニーの胸ぐらを掴んでいた。
「いいのか? 私が死ねば、全ての情報は消え失せる」
 僕の身体から力が抜けていく。わからない。ニニーは不敵な笑みを浮かべていった。
「私の犬になるか? エニモル=ティア」
「……僕は、何を、すればいい?」
「私の言うことに、『ワン』と言って従え」
「それは……いやだな」
 ニニーはフフと笑った。
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