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■Shot me! Sight me!

 授業が終わり、強制的な補習の前の出来事。
 僕が秋を感じつつもうたた寝に更けようとしたとき、教室のドアが勢いよく開かれた。
「ヨータ! カートが、私のカートがぬすまれたッ!」
 沈黙の教室。
 そしてざわめき。
「ヨータ?」「渡辺のことじゃね?」「っていうかなんでミス狐田?」「おい渡辺、紹介してくれよ」「カートって誰?」「ほら、スーパーマーケットに置いてあるアレだろ」「あぁアレか」「いや、ニルヴァーナのカートコバーンだろ」「洋楽バカは黙ってろよ」
「ヨータ! 聞いているのか?」
 僕は周りの視線に耐えながら彼女に駆け寄った。
「……なんで、来るの?」
「来ちゃダメなのか?」
 彼女は首を傾げた。その首にはカーゼが貼ってあり、僕の歯形を隠している。
「いや、僕にも世間体というものが……」
「いいから、私のカートが盗まれた!」
 彼女は僕の制服の裾を引っ張り、自転車置き場まで連れて行った。
「私のカートを探してくれ!」
「この自転車の中から?」
 カートとは彼女の自転車の名前である。
 山積みにされた自転車。ここの学校の生徒は僕も含めて自転車での通学生が多いのだが駐輪場が一個しかないので飽和状態なのである。
「そういえば、なんでカートなの?」
「何が?」
「名前」
「ニルヴァーナという伝説的ロックバンド、そのギターボーカルの名前だ。カート・コバーン。発音的にはコベインが正しい」
 彼女は自慢げに言った。
「へえ」
「なんだ、その反応は」
 ふて腐れた彼女をなだめていると、どこからかシャッターを切る音が聞こえた。
「なんだろう」
「写真部の人間だろう。さあ、捜せ」
「なんでそんな偉そうなの……?」
「酷い! 私の初めてを奪っておいて!」
「誤解を生むような言い方はやめてくれ!」
 僕が自転車の海をかき分けながら言うと、彼女のかすかな笑い声が聞こえてきた。
「……なに?」
「いいや、いつの間にか敬語を辞めてくれたんだな、と思ってさ」
「そりゃあ、毎日夕飯作りに行ってたらそうなりますよー」
「ふふふ」
 彼女の笑い声。自然と腕に力が入った。
「あったよ。これだろ?」
 僕は持ち上げ、自転車の川を渡りながら彼女の元にたどり着いた。
「おぉ! カート! 帰ってきたのね! 嬉しい!」
 こんな大根芝居見たことがない。
「まあ、見つかって良かったね」
「よかった。さあ、帰るぞ。キミ」
「僕、補習があるんだけどな」
「しらん!」
「マジですか……」
 と言いつつ僕も自転車を引きずり出した。
「フフフ。キミも帰る気マンマンじゃないか」
「……まあね」
「『ばあちゃん、俺を家まで連れて行ってくれ』!」
「なにそれ?」
「ふふ、キミには判るまいよ、っと」 
 彼女は真っ赤な自転車に乗った。
「だから、僕には補習が……」
「いいじゃんそんなのー」
 遠くからそんな痴話喧嘩をしてやって来たのは一組の男女だった。
「おぉ、親近感」
「そんなの憶えないで良いよ……」
 向こうの男女はこっちを見た。そして女の方が言う。
「あっ、ミス狐田」
 黒髪の女性が指差して言う。
「むむ? 私のファンかな?」
「わーい、握手してください」
 女の子は彼女に駆け寄り、勝手に手を掴むとぶんぶん振った。
「なかなか強引な子だね」
 彼女は僕の方を向いて苦笑した。僕も苦笑でかえす。
「レイジ、写真撮ってよ」
「イブキ……」
 レイジと呼ばれた男の方は困ったように言った。
「私はいっこうにかまわんよ。レイジくん」
「じゃあ、一枚だけ」
 レイジはカメラを掲げ、シャッターを切った。
「ありがとうございます」
「かまわんよイブキ君」
 彼女は僕に目配せし、僕も自転車に乗ると、ペダルをこぎ出した。
 学校の前にある坂を下っていると彼女が隣に来た。
「へんなやつらだったな」
「あなたがソレをいいますか」
「ふふふふふ」
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