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■ゼロッキーからのお題で「Kiss me! or bite me!」

 正直、現実の高校には「ミス狐田高校」なんてもの存在しないと思っていた。
 だいたいそんなものがあったとして出る女もどうかしていると思う。何というか、言い方は悪いがそう言うのって自分の身体を売り物にしていることなんじゃないか? 娼婦とおなじものを感じる。
 だから僕がいまソレの会場にいるのは友達づきあいのためであって別に美人さんを見たいとか健全な理由ではなく、ただ単に友達づきあいのためなのだ。そうだ。友達付きあいは大切だ。
『優勝は、ナンバー17。代田 奈々子さん』
 一人の女性が立ち上がる。
「代田奈々子 二年 趣味:サイクリング」と書かれたプレートを胸につけた女性。年齢的には一つしか変わらないのに、洗練された女性らしさをその全身から感じる。
 長い黒髪や白い肌。奥深く、何を考えているのか判らない真っ黒な瞳が僕を見た。
 そして、微笑む。つい、はにかんでしまう。
 一目惚れした。
 高校の自転車乗り場から自分の自転車を引きずり出してまたがり、バッグからウォークマンを取り出した。イヤホンを耳に付け、再生ボタンを押してペダルを踏もうとした瞬間、誰かが僕を呼んでいるような気がした。
 イヤホンをとってふり返ると、そこには一人の女性が居た。
 黒くまっすぐ長い髪。透き通るように白い肌。
「気づいてくれたか。キミ、ちょっと手伝っておくれよ。私のカートが沈んでいる」
 深く黒い瞳がまっすぐに僕を見た。
「……カート?」
 最初はスーパーマーケット何かにある買い物かごかと思った。
「あぁ、私の愛機だ。ほら、そこにある真っ赤なヤツ」
 自転車置き場の最奥。そこに真っ赤な自転車があった。つややかなレッド。濁りも軽さも感じられない真っ赤な自転車だった。
 後ろの方に自転車が置いてあるので確かに取りづらそうだった。
「ささ、私のカートを救ってくれ給えよ」
「……」
 僕はこの人はこんな性格なのかと思いながら自転車を担ぎ、出してやった。
「ありがとう。……そういえばキミ、今日は前の方で見てくれていたね」
 ビックリした。まさか見えているとは。
「まあ、ハイ」
「そうだろう、そうだろう」
 彼女は腕を組んで頷いている。変な人だなぁと思いながら自分の自転車に跨った。
「それでは」
 僕はイヤホンをつけ、自転車をこぎ出した。
 幻想のままで終わらせておいた方が良かったかなぁと思いながら自転車を漕ぐ。彼女にはどこか幻滅してしまった自分が居た。
 偶像は偶像のままで置いておいた方が良かったかも知れない。
 今の自分の入ってくるのは視界の情報だけだった。それも考え事で殆どふさがれつつある。
 青信号に変わったのを確認してから自転車をこぎ出そうとしたとき、首がぐいっと引っ張られるのが判った。
 それと同時に、前をトラックが凄いスピードで通り抜けた。信号無視だった。
「……」
 このまま踏み出していたら、僕は……。
 不意に、イヤホンが外された。
 後ろをふり返ると代田奈々子が居た。
「キミ、自転車に乗っているときに音楽を聴くのはやめたまえよ」
「え、あ……」
「まあ、何もなくて良かった」
 と彼女は微笑んだ。
「あ、ありがとうございます」
「うむ、本来はそれで許してあげるが、今日の私は少し機嫌が悪くってね。なんせ、今日両親がいなくって料理を自分で作らなければならないのだよ」
「はぁ……」
 そうですか! それじゃあ! といって去れれば良かったもののそうはいかなかった。彼女は今も僕の襟をぎっちり掴んでいる。
「もっと残念なことに、私はそう言うのに疎いのだ。……命を助けたのだから、それくらいしてくれるよね?」
 頷くしかなかった。
 夕暮れ時に彼女の自転車の後ろについて行き、スーパーマーケットに向かった。幸い割と家からは遠くない位置だったし、父親が単身赴任でそれを良いことに家に帰ってこない母親しか家には居ないんだから心配何てしてくれないし、どうせ今頃知らない男の腕の中だろう。
「さあ、買い出しだよ」
 彼女は僕に買い物かごを持たせ背中を押す。
「さあ、キミ、私はカレーが食べたいぞ」
 何て図々しいんだ。
 僕がジャガイモを手に取ると、彼女が声を上げた。
「あぁ、キミ、芋は嫌いだから辞めてくれ」
 変わりにカボチャを手に取った。
 買い物を済ませ、スーパーマーケットのひとけのない駐車場で、買った物を彼女に渡すと、彼女はきょとんとした顔をした。
「なに?」
「……まさか、作るところまでやれ、なんていいませんよね?」
「言うが?」
 僕はため息をついた。
「ふつう、見ず知らずの男にそこまでさせますか?」
「見ず知らず?」
「えぇ」
「私とキミが? 見ず知らずだって?」
 僕はためらわず頷いた。
「……本当に、そう思っているのかい?」
「だって、そうでしょう?」
「私はずっと前からキミに目をつけていたよ」
「え?」
「入学式の時私があいさつをしたね。そのとき唯一寝ていたのがキミだ」
 そう言えば入学式の記憶はない。それにしても、見えていたのか。
「キミは最前線だったじゃないか」
 彼女は苦笑した。
「途中でキミは目を覚まして、きょろきょろしていたね。そのとき、キミの白い歯がみえたのさ」
 彼女が僕の頬に触れた。唇の端に触れ、にいっと伸ばした。彼女はまっすぐ僕を見ている。
「なあ、キミ」
「……なん、でしょう」
「キス・ミー・オア・バイト・ミー」
「……へ?」
 彼女は言った。なんだかマズイ空気のような気がした。彼女がじりじり近づいてくる。
「そ、それより、はやくしないと、日が暮れますよ」
 僕が言うと、彼女はにやりと笑った。ちくしょう、確信犯か。
 彼女の家は巨大な分譲マンションのワンフロアぶち抜きだった。
「……でけぇ」
 のこのこ女性の部屋に上がる僕は何とも間抜けだと思う。
「キミキミ、人の家なんて見たって面白くないだろう。台所はこっちだよ」
 僕は彼女からエプロンを渡され、ため息をつきながらそれをつけた。
 カレーを作る間、彼女は横に来ていろんな事を聞いてきた。主にカレーの作り方だったが、どんどん僕の話にすり替わっていた。
「キミは料理が上手いねぇ」
「まあ、両親がそう言う事しないから……」
「……どうして? って、訊いていいかい?」
「父親がずっと単身赴任なんだ」
「うん……」
「母親は、それを良いことに家に居ないんだ」
「うん……」
「それで、家にはずっとおばあちゃんが居てくれた。けど、去年死んでしまった」
「うん……」
「ホント、酷い親だよ」
「うん……」
「月命日にも帰って来ないし、おばあちゃんの遺産で遊んでるんだ」
「……つらいかい?」
 辛くなんか無い。そう言い返そうとしたとき、泣きそうになった。今までそんなことはなかった。ずっと一人で、上手くやってきたつもりだった。
「……、タマネギが、目にしみたんだね」 
 彼女はそう言ってくれた。
 タマネギによる謎の涙腺崩壊がおさまってきた頃、カレーが完成した。泣きながらもカレーを作るんだから我ながらひどい。
「よし、後はご飯だけだな」
 彼女は電子レンジにパックのご飯を入れ、暖めた。
「時代の進歩というモノは凄いな」
「……ジャーの使い方くらい憶えません?」
「キミが手取り足取り教えてくれるというのなら」
「じゃあ遠慮します」
 彼女は苦笑した。丁度ご飯が暖め終わった。レンジから出されたご飯パックは二個だった。二個?
「皿を出してくれ」
 僕は戸棚から一枚だけお皿をだした。
「一枚? 一枚で二人分か。キミがそんなに積極的とは思わなかった」
「いや、ちょっと待ってくださいよ。何で僕も一緒に食べることになってるんです?」
「私の両親も今仕事で海外だ。兄も居るが音楽関係で帰ってこない。孤独な者同士、一緒に夕餉を共にしようと思ったんだが、迷惑か?」
「いや、でも、その、マズイでしょ……?」
 彼女はまたもや苦笑した。
「知っているかい? 夫婦というものが離婚しない理由は、子供が居るからだそうだよ」
「?」
「子供が居ると離婚したくてもその子供のことを考えてしまって、そうはしたくないだろう。腐っても親。子供の幸せを第一に考えるんだよ」
「だから離婚しない。けどね、私はもっと簡単な方法があると思うんだ」
 彼女は哀しそうな顔で言った。
「……これ以上は言わないことにするよ。……おやすみ。私の我が儘に付き合わせて悪かったね。……今日はカレーを二人分食べることにする」
 そうは言われたものの、引き下がれなかった。どうしてだろう。このまま引き下がって互いに忘れてしまえばいい。けれど、帰ろうとすると、彼女の俯いた哀しげな顔がちらついた。
「話してください」
「キミには、関係ないだろう」
「有ります。孤独な者同士でしょう?」
 彼女は哀しげな顔のまま笑った。
「この話をすると、みんな私の元から去ってしまうんだよ」
「それでも、してください」
「……でも、やっぱり……」
「僕たち、同類でしょう?」
 彼女が顔を上げた。涙目だ。
「……噛んでくれ。跡が残るくらい」
 彼女は顔を真っ赤にしていった。
「噛めば、良いんですね?」
「え?」
「今言ったじゃないですか。『噛んでくれ』って」
 初めて彼女の引きつった顔を見た。
「本気か?」
「マジです」
 彼女の手を取り、引っ張った。
 彼女を抱きしめ、その白い首に噛みついた。さらさらな膚。青い静脈が見える。
「んっ……」
 跡が残るくらい、強く噛みついた。
 口を離すと唾液が糸を引いた。
 彼女の首にはしっかり僕の歯形がついていた。
 彼女は自らの首を撫でて、微笑んだ。
「しっかりつけたな」
「あなたには、哀しい顔よりも人を小馬鹿にするような顔の方が似合ってます」
 彼女は笑った。
「この歯形は、私達にとって子供の替わりだよ」
「え?」
「そう言ったじゃないか。私は子供によって夫婦間の仲を保つよりも、もっと簡単な方法があると言っただろう?」
「まあ、はい」
「歯形というのは目印だよ。キミの歯形は私だけのものだ」
 ちゃんと話を聞いてから大胆なことをするべきだと思う。
 彼女は自分の腕と僕の腕を絡めた。
「えっ……」
「ふふふ」
「あの……」
「これで堂々とキミを家に呼べるな。……そう言えば、キミの名前を知らないな」
 僕はあとちょっとで芸人的なズッコケをかます所だった。
 彼女はカレーに火をつけ、ご飯を温めなおす。
「知らないんですか?」
「うん。しらん」
「……」
 僕は自分の名前を告げた。
「ほう。素敵な名前だな。と、いうことは将来的に私は渡辺を名乗ることになるのか」
「……それって、決定なんですか?」 
 彼女はご飯を皿に盛り、カレーをかけた。
「ひどいわたしのはじめてをうばっておいて」
 明らかな棒読みだった。
「血こそ出てないが、この歯形は一生モノだな」
 彼女はにやりと笑った。全てに置いて嵌められた気がする。
「どうして、僕なんです?」
 男なんて星の数ほど居るのに。
「私の一目惚れだ」
「キミのその白い歯と、困ったような笑みが好きになった。あと、その大胆さも好きだよ」
 目の前で堂々とそんなことを言われると困る。
「……」
 カレーを食べている間も、他愛の無い会話をした。
「美味しかったよ」
「ありがとうございます」
「なんだ。怒っているのかい?」
「そういうわけじゃあ……」
「私に歯形をつけたんだ。責任は取ってくれよ?」 
 人を食うような笑み。なんか色々と嵌められた気がする。
「やっぱり、僕を嵌めました?」
 皿を乾燥棚に入れた。
「うん? もっとじっくり私のものにする予定だったよ。キミのことは」
 やっぱり嵌める予定だったのだ。
「けどどんどん口を滑らせる自分を止められなかった。スキー場を転がる雪玉のようだったよ。どんどん太っていくんだ。けどキミは受け止めてくれたね」
 彼女はそう言って微笑む。
「……まあ、同類だし」
 完全に片づけ終わった僕は手を拭いた。
「コレからも頼むよ? キミ」
 彼女は首の歯形をちらつかせながら言った。
「わかりましたよ……」
 彼女は台所の冷凍庫からアイスクリームを取り出した。紫芋味だ。やはり、変わってる。
「まあこのアイスは駄賃がわりさ」
「安い駄賃……」
「人の首に歯形を付けておいてよくいう」
 それを言われると何も言えない。
「明日はオムライスが良いぞ」
「わかりましたよ」
「ライスはチキンライスね」
「どうせ一緒に買いに行かせるんでしょう?」
「おぉ、自主的だな。と、いうか誘っている?」
 彼女はどこかウキウキしているようだった。
「まあ、僕も、一人じゃ寂しいですからね」
 半分嘘だったけれど、このまま家に帰るのもどこか寂しい。だから、約束を取り付けようと思った。
「ふふ。そうかそうか」
 彼女は本当に嬉しそうだった。
 本当に、笑っている顔がよく似合うと思う。
「……あなたの、哀しい顔なんて見たくないですから」
 呟いてしまった。彼女は固まり、そして微笑んだ。
「ありがとう」
 眩しくて見ちゃいられないな。僕は強がってそんなことを思った。
「なあ、キミ」
「なんですか?」
 ソファに座って一緒にテレビを見ていると、彼女が言った。
「私のことは好きか?」
「え……?」
 彼女はまっすぐ僕を見つめてきた。
「……嫌い、だったら、あんな事しないでしょう」
「フフ、そうか……」
 彼女は微笑んだ。
「ありがとう」
 彼女の頭が僕の左肩に乗った。
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