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■レッツ シー イフ ザッツ トゥルー オア ノット第二章・4





 僕は朝、目覚めると着替えるための服を持って外に出た。井戸の水を桶に汲んで制服を脱ぎ、下着だけになると桶の水を頭から被った。寒さで手足が震えるなか、持ってきた服に着替えた。久しぶりの私服だ。
 帽子以外の制服を部屋に持っていったあと手袋とマフラー、防風眼鏡を身につけ、 帽子を被った。
 リーフェルングに跨って発進させようとしたとき、声がかかった。
「本当に行くんだ」
 マックだった。僕は防風眼鏡を上にずらした。
「ついてきたいなんて言うんじゃないだろうな」
「いわないよ。ニニーの世話もあるし」
「じゃあ、僕はもう行くぞ」
 僕は防風眼鏡をつけた。
「頑張ってね」
 僕は何も言わず、リーフェルングは発進した。
 途中で馬車を追い越したりしながら、昼前にアウフに到着した。
 僕は真っ先に祖父の家。ライゼになるまで住んでいた家に向かった。殆どの荷物はベイビーにヴェステンのライゼエスィヒへ送ってもらったが、あの家には祖父との思い出が詰まっているからだ。
 祖父の家に行くと、当たり前だが何もなかった。ただ一つ、ベッドが僕の帰りを迎えてくれた。そのベッドに横たわり、目を瞑ってからあることに気がついた。
 埃が無い。五年も放置していたのだから、たつはずの埃が一つも立たないし、そんな臭いもしない。
 おかしいな。僕は呟いて体を起こした。テレフォーンだろうか。しかし、彼女ならとっくの昔に僕の居るヴェステンまで来るはずだ。それをしないと言うことは、何か理由があるのだろうか。どちらにしろ、夜まで待とう。そう思ってまたまた身体をベッドに寝かせた。
 見知らぬ人の骨のようなベッドでいつの間にか眠ってしまった僕は外を確認し、夜になったと確信した。
 そして外に出て行き慣れたあの道を辿り、見慣れた木製のドアを開けた。バックシートドッグの、扉だった。
「……」
 あの暖かな人たちを捜す。けど、見慣れた酒場の中、見慣れた人間は誰も居なかった。
「……」
 いつもみんなで座っていた円卓を一人で囲む。円卓の上に頬杖をついていると、僕はだんだんうとうとしてきた。
 暖かな時間があった。暖かな人々が居た。今では、もう居ないのか。僕は色んなものを失ってしまったのか。視界が薄く滲むなか、誰かが僕に声をかけた。
「エニモル?」
 入り口に立つ男。長身の男が居た。細身だがしなやかな筋肉を持っているそれは、ベイビーだった。甘さを捨てきったような精悍な顔立ちの青年、ベイビーがそこにいた。
「……ベイビー?」
「やっぱり、やっぱりエニモルか! はは。身長のびたな。お前」
 開口一番がそれとは、ベイビーらしいと思った。
 ベイビーは僕のとなりに座った。
「ライゼはどうだ? 休暇でも取ったのか?」
「うん。そんな感じ。みんなは? やっぱり、もう集まり悪いの?」
 待ち合わせても待ち合わせなくても集まっていたあのころのことを思い出す。ベイビーは哀しそうな顔を隠すように微笑した。それが答えだった。
「全然会えないわけじゃないんだけど、……もう一年は全員集まってないな。みんな仕事してるし、忙しいんだろうな」
「そっか……。ベイビーは? 何してるの?」
「ん? 実家の手伝い。これが結構肉体労働多くってさ……。もう、全然酒がのめねえ。お陰ですっかり呑まなくなった」
 ベイビーはいつもの、冗談でもかますような調子で言った。
「他のみんなは?」
「ん。エスタは養子案内所の役員。ヘルセイは、国立図書館の司書って言ってたかな。他は、よくわからん。そうだ。やっぱ、大変か? ライゼって」
 僕が答えようとすると、いきなり叫び声が聞こえた。
「あーっ!」
 僕は肩をすくめてしまった。その間に懐かしい影が二つ僕らの座る円卓に近寄ってきた。
「エニモル君?」
「ほんとだ。エニモルとベイビーが何も呑まずに居る。珍しい」
 エスタとヘルセイだった。学生時代親友同士だった二人は、今でも親友らしい。二人とも随分と大人びたが雰囲気は変わっていない。
「ベイビー、お酒やめたんだって」
「それ、本当に?」
 エスタの言葉を聞いてヘルセイが目を丸くする。
「まあ、座れ、二人とも」
 ベイビーが二人を椅子に座らせた。
「何呑む?」
 エスタが聞いた。これも懐かしい。彼女はよくこうやって全員の注文を聞いて店の従業員に伝えていた。
「リンゴ酒」
 ヘルセイが言った。
「黒ビール」
 ベイビーが言ってすかさずヘルセイが聞く。
「辞めたんじゃないの?」
「一杯くらい大丈夫だよ」
「エニモルは?」
 エスタが言った。
「じゃあ、僕はキュラソー」
「好きだなぁ」
「エニモルは割とそう言うの好きだったよね」
 ヘルセイとベイビーがもう酔ってるかのように絡む。これも懐かしかった。
「すいません、リンゴ酒と黒ビール、キュラソーを二つお願いします」
 エスタが店員に向かって叫んだ。
「エスタは、いっつもエニモルと同じもの頼むよねぇ」
 円卓に置かれたそれぞれの酒杯を全員が一口呑んでから、ヘルセイが言った。
「へ、ヘルセイ!」
 もう酔いが回ったのかエスタの顔は真っ赤になっていた。
「そうだったっけ?」
 僕がエスタに聞くと、エスタは顔を逸らしてから、
「ぐうぜんだよ」
 と言った。
「偶然ねぇ」
 久々のお酒を嗜んでいるらしいベイビーが言った。ベイビーはお酒をあまり呑むことが出来なくなったせいか、量を呑むタイプから味を楽しむタイプになったようだった。五年前のベイビーが見れば間違いなく「じれったい」という飲み方を今の彼はしている。
「偶然かぁ……」
 ヘルセイもベイビーににやにやしながら同調した。彼女は元々味や香りを楽しむ飲み方をする人で、お酒の減りは遅い。
「え? 違うの?」
 そんな二人と同じような飲み方を僕もしてみる。いつかヘルセイが話していた、香りを楽しみ、味を楽しみ、喉越しを楽しむとか何とか。
「……違うよ! 偶然だよ。偶然!」
 エスタは円卓をばしばし叩いた。
「それより、どう? ライゼの仕事は」
 エスタが言った。
「『どう?』って聞かれてもなぁ。でも、楽しい所ではあるよ」
 僕は一口酒を呑んだ。
「どんな人が居るの?」
「最近引退しちゃったんだけど、アートムングさんって言うお爺ちゃんや、色々指示を出すヴェンディさん。けんかっ早いメーレンさんに、色々雑用をしてるマック」
「それだけ? ヴェステンのライゼエスィヒはだだっ広いってきいたけど」
 それを聞いて僕の顔が苦笑するのが判った。
「うん。広すぎて、使ってないところがあるくらいだよ」
 事実二、三階あるうちの三階は殆ど使っていない上に二階はただの居住スペースである。あの人数であの広さはただの無駄だ。
「今度、いってみようかな……」
 エスタが呟いた。
「おぉ、名案じゃねえ? 今度行こうぜ。案内してくれよ」
「いいですね。みんなで行きましょう」
「いいけど、本当になにもないよ」
 そこには、人数は揃っていなくても暖かいあのころの空間があった。
「エニモルは、どこかに泊まるの?」
 もうすぐお開きになるとき、エスタが僕に聞いた。残りの二人はもう夢の中だ。僕らは途中から酒を呑まなかったので酔いつぶれることはなかった。
「昔の家に泊まるよ。あ……、もしかして、テレフォーン帰ってきてる?」
 エスタの柔和な微笑が凍り付くのが判った。
「どうしたの?」
「い、いや。何でもない。……どうしてそう思ったの?」
「家がやけに綺麗だったから、帰ってきてるのかな、って」
「ごめんなさい、それ、わたしなの」
 エスタは申し訳なさそうに言った。
 僕は聞き返した。
「きみ? きみだったの? でもどうして?」
「えっと、エニモルがいつ帰ってきてもいいように綺麗にしておこうかなって」
 僕は納得して一、二回頷いた。
「ありがとう、エスタ」
 酒で赤いエスタの頬がさらに紅潮した気がした。
「じゃあ、みんな明日も仕事があるんだろ? そろそろ二人とも起こそう」
 エスタも頷いた。僕はベイビーを、エスタはヘルセイを起こした。
 ベイビーは二、三度身体を揺さぶられて目を覚ました。
「エニモル? どうした?」
 ベイビーはかなり寝ぼけているようだった
「起きないと。明日も仕事あるだろ?」
 僕がそう言うと、ベイビーはすっくと立ち上がった。
「そ、そうだった。じゃあ、俺、帰るわ」
 ベイビーは酔っていておぼつかない足取りで酒場の扉を開けて出ていった。
「じゃあ、私も。あしたは蔵書点検なの。じゃあね」
 ヘルセイは平静を装いたかったようだが、やはりふらふらしながら壁にぶつかり、早足で酒場から出ていった。
「僕が払うから、エスタももう帰ったら?」
「え、あ、えぇと」
 エスタは迷ったようだったが、酒場の機械時計を確認して時間が相当遅いことを確認すると、頷いた。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
 エスタを見送ってから机の上に残った紅茶を飲み干して、僕は席を立った。
 外は想像以上に寒く、僕は身震いしながら家に帰った。祖父と僕。僕とテレフォーンのいた家へ。
 今、彼女はどこにいるのだろうか。
 寒空へ、白い息と共に呟きを送った。

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