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■レッツシーイフザッツトゥルーオアノット・第一章・5(6、7)

夜になってから首都行きの馬車に乗り、動き出した馬車の中から見送ってくれたヴェンディとマックに手を振った。
「あっというまだったね」
「……そうだな」
「ライゼになったんだ。だからさ」
 テレフォーンの視線を感じた。表情は暗くてよく見えない。
「ずっと、遠くまで、一緒に行こう。この世の果てまで」
 馬車の中がしんとなった。僕は何か変なことでも言ったのだろうか。
「馬鹿なこと言ってないでさっさと寝ろ!」
 テレフォーンは叫んだ。





 早朝、首都に到着した。
 行き慣れた坂道を登って学校の中庭に回ると、もうみんな集まって、試験官までいた。
「来たな」
 試験官の肩には鷹がとまっていて、鷹の足には紙が括りつけてあった。
「全員そろったところで、結果発表を行う」
 なぜかどんよりとした空気を無視して試験官は鷹の足に括ってあった紙をほどいて結果を述べた。
「合格、エニモル=ティア、テレフォーン=パピーアのみ。他の者は不合格となった」
「不合格? みんなが?」
 僕はつい言ってしまった。
「そうだ。エニモル」
 初老の試験官は厳かに言った。
「うそだ! 何かの間違いです!」
 僕は叫ぶが、眼のあったベイビーが静かに首を横に振るので、僕は黙りこくってしまう。
「両名に関しては、これから王への謁見を開始する」
「王への?」
「そうだ。一度の試験に二人も通るのは希だからな」
 試験官は言った。
「エニモル、また、いつものとこでな」
 顔に生気のないサイモンが僕に声をかけ、みんな中庭から出るのが見えた。いつものところ。つまり僕らの集まる酒場、バックシートドッグで会おう、と言うことだ。
「それでは、いこう」
 試験官が僕に言った。僕はただ試験官の後ろについて行った。
 王城は首都のちょうど真ん中に位置する巨大な建物で、中には貴族や王族が住んでいるという口承だが、実際のところ住んでいるのは王族だけで貴族は存在しないと言う。王族はまつりごとを仕切りこの国を良い方向へ導いているという。しかしその情報がこちらに入ってくることはなく、そのせいか悪い噂ばかりが立ってしまう。今から謁見するという国王、ワン=ケーニヒも悪い噂が絶えない。かなりの高齢にして女遊びが激しい、とか。
 王城の最上階、階段を上った廊下の突き当たり、黄金で縁取られた真紅の扉が僕らを迎えた。
「ライゼを連れてきました」
 先頭に立った試験官は扉に向かって言った。すると、扉が一人でに開いた。
 試験官は気にした様子もなく入っていき、僕はとなりにいるテレフォーンの手を引いて入った。入ってみてわかったが、どうやら侍女が扉を開けてくれたらしかった。
「リーベフントか」
 巨大な玉座に座る端整な顔立ちの老人が言った。頭に掲げられた王冠を見て、彼が王だとわかった。彼がワン=ケーニヒだ。
「はい」
 試験官が片膝をつくので、僕らもそれに倣った。
「二人か……。今年は多いな」
「アートムングからの推薦状も添えられていました。エレクトルプッペを倒す学生を不合格にする理由がない。と」
 あのぼんやりした老人の顔が浮かんだ。きっと推薦状を書いたのはヴェンディではないだろうか。
「アートムングか。また懐かしい名前だ。先代にあいさつをしに来ていたあの男も、今では立派な老人か……」
 国王は腕を組みながらうんうんと頷いた。アートムングと国王とではどちらが老けているのだろうか。
「おい、……エニモルと言ったか」
 急に話をこちらに向けられて、うつむきかけていた顔を咄嗟に上げた。
「はい」
「良いところに送られたな。少年よ」
 僕は縮こまって頷くことしかできなかった。
「ロッキーの養子か……」
 呟く声が聞こえた。きっと国王の声だ。
「きみ、もう下がって良いぞ」
 そう言われたので僕は立ち上がり、一礼してからテレフォーンに声をかけた。
「行こう。テレフォーン」
「いや、まて!」
 王が力強く言った。
「その少女は残れ」
 なぜテレフォーンだけ残すのだろう。その疑問は口に出すことなく消えてしまった。
「じゃあ、テレフォーン、バックシートドッグでね」
 それでもテレフォーンは顔を上げなかった。
 廊下に出てから扉を閉めようとしたとき、テレフォーンの黒真珠のような瞳と視線がぶつかった。彼女はこちらを見ていた。助けを求めるように。
 それなのに、僕は扉を閉めた。
 なぜ、国王はテレフォーンを残したのだろうか。
 そう思いながら馴染みの扉を開けた。バックシートドッグの扉だ。
 扉を開けた瞬間、きつい酒の匂いがした。まだ昼前なのに。
 従業員はしかめっ面をしながら給仕しているのを見て、僕は一瞬帰ろうかと迷った。だが、べろんべろんに酔ったベイビーやサイモン達に見つかり、むりやり座らせられた。
「まさか、落ちるとは思わなかったよ……」
 サイモンが言った。顔が真っ赤である。
 そこまで言われてやっと、これがやけ酒だとわかった。
「ほんと、何がいけなかったのかな……」
 ベイビーが言った。僕も酒杯を受け取りながら、その愚痴に付き合った。
「ベイビーはどうせ酒でも呑んだんれしょ」
 エスタが言った。珍しくエスタ、ヘルセイも呑んでいる。いつも酒は呑まないのに。
「呑んでねぇよ。ちょっと呑んだけど」
 ヘルセイが「それよ! それ」と言った。あたたかな空気に見えるだろう。それが僕には、酷く冷たいものにみえた。僕だけ合格したんだ。僕とテレフォーンだけ。
「くそう、こんな事なら真面目にやっとくんだった」
「なんで落ちたのかな……」
 いつもは喋らないホイテさえもぶつぶつと愚痴を言う。
「エニモル!」
 ベイビーが立ち上がった。それにつられて僕も立ち上がってしまう。
「頼む!」
 そう言って彼は僕の右手を掴んで両手で握った。
「俺は、俺を育ててくれた両親のためにライゼになろうと思ったんだ……。お前は、お前は、俺たちの、希望なんだ」
 気がつくとみんな立ち上がっていた。そして僕の手を握った。
「ライゼ、頑張れよ」
 視界がぼやけた。左手で涙をぬぐいながらみんなの手を握った。
「なります。ぼぐは、りっぱな、らいぜに、なります! かならず、みんなが、むねをはれるような、ライゼに、なります! ……必ず……!」
 もう何も見えなかった。ずっと、頬を涙がつたっていた。





 気がつくと、朝だった。円卓を囲むメンバーは一人かけたまま全員が突っ伏している。
「……テレフォーン……」
 僕は上手く動かない体を引きずって家まで行った。家にも、テレフォーンはいなかった。町中を歩き回ってバックシートドッグに戻ると、みんなが円卓を囲んでいた。今度は酒を呑んだりはしていないようだった。
「居たか? テレフォーン」
 どうやら筒抜けだったらしい。僕は首を横に振った。
「そっか……」
 ベイビーは哀しげな顔をした。彼女も、彼らにとって希望なのだ。
「おまえ、あいつが居ないとダメだからな……」
 一言余計だ。
「いつ、正式にライゼになるんだ?」
「えっと、さっき家に帰ったらヴェステンの方から手紙が来ていて、明々後日ごろには来て欲しいんだって」
 テレフォーンを探して家に帰ると、手紙が届いていたのだ。合格届と同時に速達で出したようだった。
「やったな。ライゼの試験に合格しても雇ってくれるところはそう見つからないらしいじゃないか」
 それはヴェンディからも聞いた話だった。
「……俺たちに、任せとけ」
「え?」
「テレフォーンは、俺たちが探してやる。だからお前は、家で準備してろ」
「でも」
「心配すんな」
 ベイビーはぽんと僕の肩を叩いた。
「おまえは、どんと構えとけばいいんだよ」
 僕は頷くしかなかった。
 結局、テレフォーンは現れなかった。

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