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■レッツシーイフザッツトゥルーオアノット 第一章・二





 試験当日、僕らはライゼを育成する学校に通っていて、そこの中庭に集められた。椅子が列状に並べられていて、僕らはそこに座らせられた。僕の座席は前列の左端だった
「ライゼとは世界全体の治安を守るものである。よって各地領を無断で行き来することを許可された――」
 試験官は今さらな事をだらだら話した。しかしライゼには強靭な肉体と精神が必要でありよってこの学校が存在する。聞きすぎて暗記してしまった。
「――君たちはこのことを名誉に思い――」
 あまりに長いので、後ろで椅子に座っているテレフォーンの頭が背中にもたれかかってきて、寝息まで聞こえてきた。僕は苦笑しながら試験官の話が終わるのを待っていた。
「それでは、それぞれの試験会場を発表する。エニモル、テレフォーンはヴェステン領、中央ライゼエスィヒ――」
 それぞれの試験会場が発表され、僕らは学校を出た。
「馬車、あるかな」
 試験は二人一組で行われるらしく、僕はテレフォーンと一緒にヴェステン領に向かう馬車を探した。学校は中央街道の行き止まりにあり、中央街道を歩き、広場に向かった。噴水のある広場には、五、六台の一頭立て馬車がとまっており、それに乗り込むサイモン達の姿も見えた。
 ヴェステン領行きの馬車に乗り込むと、間もなくして馬車はゆっくりと進み出した。
「何時頃、ヴェステン領に着きますか?」
 馬車の手綱を引く男に聞いた。
「晴れてるから速いと思うよ。半日くらいかな」
 そんなにかかるのか。今は昼前だから、深夜に着くことになる。
「なんせ、ヴェステンと言えば、レヒヌングよりも遠い西の辺境じゃないか。きみはまだ運がいいよ。この間の『ローゼンコールの大泣き』で着くのが一週間遅れたんだ」
 ローゼンコールの大泣きというのは季節の変わり目になると降る長い雨のことだ。
「あの時はもう地面がぬかるんでて、本当に酷かったよ」
 僕は適当に相づちを打った。
「だってさ、テレフォーン」
「……」
 テレフォーンは何も言わずに窓の外を眺めていた。そう言えば、僕はこの町から出たことないなと思いながら馬車の外に広がる景色を眺めた。
 閑散とした道路の上を馬車は走る。地平線の向こうには天を支える壁が見えた。この世界は壁で囲まれている。世界から出ることが出来ない。壁の外には何があるのだろうか。
 それを知っているのは、テレフォーンだけだ。



 祖父が死んで僕が一人で暮らしていたとき、彼女は現れた。家の近くにある巨大な壁。そこの排水溝の中に入る勇気の無かった僕は手を突っ込んだり中を覗いてみるが、ぬめぬめした苔以外は何もないし何も見えなかった。
「どうしてかべなんかあるんだろう」
 僕は薄汚れた灰色の壁を叩きながら言った。僕の真っ白い手に少し汚れが付いた。
 ある人はこれを護るものだといい、ある人は隠す物だと言った。だけど僕は納得していなかった。これは檻だ。僕達を閉じこめる檻だ。外には何もない。ただの檻。
 それを祖父が生きていた頃言うと、彼は優しく言ったのを憶えている。
「首の鎖を要らないと思えるのは、本当つよい人か、ただの馬鹿だ」
 僕はそれを思い出しながら、壁の前に膝を抱えて座った。
「さびしいな……」
 祖父が居なくなってからもう何年も経っていた。
「『だれか、いるのか?』」
 壁が喋った。残響のきいた声だった。
 僕はおののいて後ずさる。
「……な、なに? か、壁が喋った?」
「『壁……? 穴の中だ。ここは暗くって、よく見えない』」
 そう言われて排水溝の中に声の主はいるのだと気がついた。
「いま、引っぱり出します」
 僕は排水溝に手を入れ、精一杯伸ばした。
「『手……?』」
 手に何かが触る感覚があった。ざらざらの硬い手だった。
「『これか』」
「はい。引っ張りますよ」
 僕は精一杯引っ張った。以外と軽い。
 引っ張っていた何かが急にどこかへ居なくなった感覚がして、僕は尻餅をついた。頭上。烏羽色の長い髪を振り回し、黒真珠のような目と視線がぶつかった。間もなくして、彼女は僕の頭をお尻で踏みつけた。



「エニモル」
 テレフォーンの声で僕は目覚めた。どうやら眠っていたらしい。そう言えば外はもう真っ暗だった。
「ライゼエスィヒはどこですか?」
 馬車の運転手に聞くと、右の方を指差した。
「あそこにあるでかくて黒い奴だよ」
「ありがとうございます」
 僕らは大きな広場にいた。その円形の広場からは放射線状に道路がのびている。広場の中央に噴水はないが、変わりに巨大な女神象が立っていた。空気はかなり乾燥していて、きっと外は荒野だろうと予想した
「ライゼトゥディの方ですか?」
 景色の観賞に浸っていると、声がかかった。銀髪の少女だった。
「はい」
 テレフォーンが答えた。ライゼトゥディとは見習いという意味だったと思い出す。
「わたしはライゼエスィヒで雑用をしているマック=シェイカーと言います。こちらの馬車にどうぞ」
 さっき僕らが乗っていた物とは違い、屋根のない形状の馬車だった。
 僕らはその黒い一頭立ての馬車に乗ると、マックは馬車を進めた。
「僕は、エニモル=ティアです。こっちはテレフォーン=パピーア」
 マックが少しふり返ったので僕は小さくお辞儀した。
「……小さい……」
 テレフォーンが小さく呟いた。僕は聞こえてないと思ったが、マックが後を向いて睨んだと言うことは気にしているようだ。
「前見なくって大丈夫なの?」
「わたしは十三ですから。子供扱いしないでください」
 いや、子供でも大人でも安全に馬車ぐらい運転してよ。
「十三か……」
 テレフォーンがまた意味深に呟いた。マックはもう睨むことすらせず前を向いている。どうやら拗ねたらしい。
「テレフォーン、からかうのはよそうよ」
「もうすぐ着きますよ!」
 相当怒っているのか、マックは半ばこちらの方を見ながら怒鳴った。
 目の前にあるのは、僕らの学校何かよりもずっと巨大な黒い建物だった。
「……」
「これが建設百二十年の歴史を持つ我々のライゼエスィヒ。パレットです」
 マックは少し自慢げに説明した。パレットと言うのはこの建物の愛称のような物らしい。なるほど愛称もつけたくなる歴史と巨大さである。
「でか……」
 大理石の階段を上りながら言った。ドアを開け、中にはいると広々とした広間があった。暖炉、大きなソファ、書類やら何やらの積まれた長テーブル。二階、三階へ続く木製の階段。
「でか……」
「ふふ、凄いでしょう?」
 自慢げにマックが言った。
「余計に小さく見えるな」
 またテレフォーンはマックをからかった。マックはぎろっと睨むが、テレフォーンはけらけら笑っている。悪気はなさそうだ。いや、ちょっとあるだろうけど。
「マック、こいつらが今年の?」
 二階から長い髪を頭の後ろで結った赤毛の若い女性が煙草を吹かしながら降りてきた。
「彼らがか。へぇ、頼もしそうだ」
 もう一人。短く切った髪をきっちり分けた爽やかな壮年の男性だ。
「おい、さっさと降りんか。自己紹介は早めに済ませたいだろ?」
 最後は老人だった。殆ど白くなった髪。たっぷり髭を蓄えた男だった。三人とも着こなし方は違うとがライゼが着用する濃い藍色の制服を身につけている。僕は、ついに来た。やっとここまで。
 三人はゆっくりと広間まで降りてくると、横一列にならんだ。
「誰から言うんだ?」
 女性が言った。
「言い出しっぺでしょ」
 壮年が言った。
「歳順で行くぞ。おれはアートムング=フロイント」
 老人が言った。
「えぇ? ……ぼくはヴェンディ=インディン」
「私はメーレン=サナオリア」
「僕はエニモル=ティアです」
「テレフォーン=パピーアです」
 自己紹介がすむと、メーレンとアートムングが一歩後ろに下がり、ヴェンディは一歩前に出た。
「これより、試験の概要を説明する」
 てきぱきとマックがヴェンディに資料を渡す。かなり手つきが慣れている。
「この町から北の方向に抜けた場所」
 ヴェンディの説明。どこから持ってきたのかわからない黒板にマックが白チョークでかりかりと場所を書き込む。すかさず僕は持参した地図に場所を書き込んだ。
「場所で示した山で、変死体が多く見つかっている。君たちには、それを見つけ、見つけ次第破壊して欲しい」
 破壊? と思ったが聞けなかった。
「あの、死因は?」
「崖からの落下による物だ。だが、焼け焦げたあとや、どうも不自然な点が目立つ。エレクトルエベーネ。中でもシューターである可能性が高い」
 エレクトルというのは古代の遺跡から出土するレアエレクトールと呼ばれる無尽蔵のエネルギーを持つ円柱形の物で、それを利用した武器がエレクトルエベーネ。その中の遠距離攻撃に対応する物をシューターと呼ぶ。
「なぜです?」
「もっとも浸透率が高いからだ」
 もっともな答えだった。レアエレクトールの模造品であり使い捨てであるエレクトールタウが登場してから、その使い捨てという特性を大きく生かすシューターは大きく広まった。高威力で弾の値段が安いからだ。それが人に危害を加えることで幸せを感じる山賊などと言った輩に渡った事もあったが、規制はそこまで厳しくない。
「質問はもういいな?」
 僕は頷いた。
「それでは、マック。部屋まで案内してやれ」
「こっちへ」
 ライゼの三人がばらばらに解散する中、僕らは階段を上がり、廊下の奥の手前で右に曲がった。
「ここです」
 部屋は簡素な物で、テーブルとソファ、ベッドがあった。
「トイレは隣です」
 マックは言った。
「となりの部屋はメーレンさんの部屋なので、静かにしてください。何か、質問はありますか?」
 僕は首を横に振ったが、テレフォーンは何かあるようだった。
「飯は?」
「私が持ってきます」
「ふむ。何を食べればこんなに身体が小さくなるのか気になるな」
 またからかった。
「テレフォーン、いい加減にやめようよ。可哀想だし」
 なだめるが、二人の間にはパチパチ火花が飛んでいるように見えた。一触即発というやつだ。
「『かわいそう』? あなたもわりと小さいですよ。エニモルさん」
 喧嘩の矛先はこっちにまで飛んできた。
「き、きみよりかは大きいよ」
「でもベイビーに比べると小さいよね」
 テレフォーンの追い打ち。僕はもうふらふらだ。
「うるッせぇッ!」
 ドアが勢いよく開いた。メーレンがそこには居た。壊れたんじゃないのだろうか。床にドアの破片らしき木片が散乱してる。
 ドアを破壊したメーレンは僕らを一瞥で黙らせると、部屋の中に入ってきた。
「マック、何でこうなったのか説明してみな」
「……ごめんなさい」
「謝れなんて言ってねえよ」
 あんな刃物みたいな目で睨まれれば黙らずにはいられないだろ。けどそれを仲介する勇気もない。
「おちつけ。メーレンさん」
 テレフォーンだった。
 彼女はすまし顔で一歩踏み出した。
「なんだよ。……テレフォーン=パピーア」
 メーレンの眉間の皺が深くなる。
「彼女が悪いわけじゃない。私が悪いんだ。それは謝る。だが、いちいち怒るのもどうかしていると思うぞ」
 飄々と彼女は言った。
 沈黙。メーレンの目が据わった。とその瞬間、メーレンは横に倒れた。そこにいたのはヴェンディだった。どうやら助けてくれたらしい。
「い、ってぇ……。殴るこたねぇだろ! ヴェンディ!」
「こうでもしないと野獣は躾られんからな。お前のせいで怪我人が出たらぼくの責任なんだぞ。それに書類の整理、やれって言ったろ? 終わったのか?」
 メーレンは顔を逸らした。
「終わってないんだな。行くぞ。ほら」
 彼女は渋々ヴェンディのあとを着いていく。
「……メーレン」
 テレフォーンが呼び止めた。僕にはなぜ呼び止めたのかわからなかった。
「お前の腰に下げているそれは、シューターか?」
 たしかに、メーレンの腰にはシューターらしき物が下げられているようだった。
「それがどうした」
 メーレンはそう言うと、壊れたドアを閉め、消えた。シューター。ライゼなのに? ライゼは暗黙の了解としてシューターの装備を禁止とされているはずなのに。
 それにしても――
「――つか、れた」
 僕はふらふらとベッドの中に飛び込んだ。

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