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■レッツ シー イフ ザッツ トゥルー オア ノット 第一章-1

プロローグ

 忘れていたわけじゃないんだ。
 脇でエレクトールが階段の足下を照らしている。それでも静寂と闇は消えず、僕の頭をうろついていた。
 忘れていたわけじゃないんだ。
 反芻した。ようやく足は階段を登り始めた。一段ずつ、次第に速度は上がって、踊り場に出るころはもう走っていた。
 廊下に出た。壁にあるエレクトールが地面を照らしているがやはり暗かった。その奥。廊下の奥。鈍い光を受けて輝く黄金で縁取られた真紅の扉。開くことのない扉をたやすく開けた。
 そこに、きみは居たんだ。世界は一つじゃないと、きみは僕に教えてくれた。
 黒真珠のような瞳。烏羽色の髪が、月明かりをうけて光っていた。彼女はやっぱりニニーよりも美しかった。彼女の褐色の手が、こっちへ伸びた。



fyoushi.jpg





第一章

 夕暮れ時、家の裏庭には赤い陽が差し込んでいた。僕は祖父の形見を手にしていた。ライゼの試験まで残り三日だった。
「……」
 剣を腰の鞘に収めた僕は、地べたに座り込んだ。こめかみの所を汗がつたう。
 僕を養ってくれた祖父が死んだのが八年前。テレフォーンが現れたのが四年前だった。身元のない彼女を、僕は市役所まで連れて行って新住民手続きをしたことを思い出した。それをしないと食べ物が配給されないからだ。
「あのころも今も、偉そうにしてたな」
 僕は独りで笑った。
「だれが偉そうなの?」
 声。僕は驚いて立ち上がった。
 黒真珠のような瞳。烏羽色の髪が、紅い夕日をうけて輝いている。
「エニモル、みんなとの約束は憶えてる?」
「……はい」
 褐色の手が、僕の左頬をつまんで伸ばした。
「いた、いたた痛い。痛いってば! 今から行こうと……」
「じゃあ何で来ないわけ? お陰で私が呼ばされる羽目になったの。だいたい、素振りにどれだけ時間をかければ気がすむの?」
 僕の頬は餅のように伸びる。
「やっぱり家を出るとき、あなたも連れてくるべきだった。だいたい、何で同じ家に住んでるからって……」
 テレフォーンはぶつぶつと呟いている。その間にも僕の頬は伸びている。そろそろ千切れるかも知れない。
 テレフォーンに早く手を放してと言うような目で見ていると、手が放れ、頬が元に戻るのがわかった。
「早く来なさいよ」
 頬をさすりながら僕は頷いた。
「だったら走れ!」
 僕は尻を蹴飛ばされた。
「わかった。わかりましたよ」
 のろのろ歩こうとすると、テレフォーンが両手を構えるので、僕は走らざるを得なかった。 家から中央街道を横切った所にある「バックシートドッグ」という酒場が、僕らの行きつけだった。
 酒場の中で、みんなを捜す。一番奥で巨大な円卓を囲む男女が居た。
「遅かったな」
 酒豪のベイビー=アルコ=オレイカが酒杯片手に僕を呼んだ。
「こっちこっち」
 童顔のエスタ=ノーチェが手招きする。残りの三人は黙っていた。
「ホラ。早く座りなよ」
 後ろから声がした。テレフォーンである。
 円卓に腰掛けた僕は、用意されている酒杯を手に取った。
「素振りしてたんだって? 熱心だな」
 細い体つきのサイモン=ラックスが魚のムニエルをつつきながら言った。
「まあ、もうすぐ試験だし」
「サイモンは努力する事を学んだ方が良いんじゃない? エニモルを見習って」
 サイモンのガールフレンドであるホイテ=アーベントが肘でサイモンを小突きながら言った。
「エスタも、エニモルに剣術習ったら? ライゼだった人からの直伝なんだから、それを習えばエスタも強くなれるかもよ」
 眼鏡をかけたエスタの女友達であるヘルセイ=ヴィフィンダが言った。
「え、でも、もう遅いよ。あと三日だし」
 エスタがうつむき加減に言った。
「そんなことはない。今からでも間に合うさ」
 テレフォーンが酒杯を傾けながら言った。
 するとヘルセイがエスタに何か耳打ちした。静かな店内だが、何を言っているかは聞き取れなかった。ヘルセイが耳打ちを終えると同時に、酔っているのかエスタが顔を真っ赤にしながら立ち上がり、言った。
「じゃ、じゃあ、お、お言葉に、甘えてっ!」
 まったくろれつが回っていない。
「大丈夫? 相当酔ってるみたいだけど」
 僕がそう言うと、サイモンとホイテに失笑が起きた。ただ、ベイビーは机を叩いて爆笑している。何でこんなことになったのか理解出来ない。
「おそろしい……」
 ヘルセイがぼそっと呟いた。
「な、なにが?」
 と聞く前に、会話は変わってしまった。
 二、三時間して、愉快な宴会は終わってしまった。
 自分の飲み食いした分だけを払ってからドアを開けると、閑散とした中央街道にひとりテレフォーンが佇んでいた。
「エスタは?」
「『このあと剣術を習いに来るのか』、と聞いたら顔を真っ赤にして『遠慮します』と叫びながら走って帰っていったぞ」
「ふうん」
 僕はポケットに手を突っ込んだ。
「もうすぐだね」
 テレフォーンは真っ黒の空を見上げながら生返事をした。
「月だ……」
 か細い声が、テレフォーンの口から漏れるのがわかった。彼女はよく夜の空、何もない空に浮く輝くそれを見たがる。
 今日のそれは少しかけていた。
「イザヨイって……言うんだっけ?」
 昔、テレフォーンがよく一人で呟いていたことだった。
「そう。十六夜の月……。十五の月齢をそう呼ぶの」
 僕は訳がわからなくなってそれ以上は何も言わなかった。背中では店から出てきたベイビーやサイモンの声がする。
「帰ろうか。テレフォーン」
 僕が言うと、彼女は僕を見つめ、優しく頷いた。顔が熱くなるのがわかる。
 もうすぐ試験がある。僕やテレフォーンは、憧れのそれになれるのだろうか。
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