■2010年08月

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■Mo12・天満月

昨日夢で見たんだ。三日月に腰掛けて、内緒話でクスクス笑ったの憶えてる?
     (the pillows「Rodeo star mate」)


 宇摩(うま)はいつだって突然だった。
 日曜の朝、深夜までコンビニでバイトをしていた僕は泥のように眠っていた。
『久しぶりだね』
 まどろむ僕の前に現れた女性が誰なのか僕にはもう判らなくなっていた。
『そろそろ行くよ』
 うっすらと消えていく女性を見送りながら目が覚めた。幻覚なんだろうか、と目を開けると薄暗い部屋の外がなにやら騒がしい。僕は扉を開けて外を確認した。
 金髪の女。銜え煙草の煙が目の前にあった。僕は咄嗟に扉を閉めた。チャイム連打。耐えかねた僕は扉を開けてしまう。宇摩を筆頭に山中と代田(しろた)が入ってきた。
「曲作るぞー、曲」
「いぇーい」
「初、作詞作曲・有川ユキト」
 彼らは低いテンションでそんなことを言う。来た理由はわかったけれど、イヤなら来なければいいのに。
「作詞作曲って……。作曲なんてやったことないですよ」
「うそつけ……」
 宇摩が言う。
「……」
 本当は中学から五年間くらいやってた。高校を卒業してからめっきりやらなくなったのだ。
「やるか? やらないか?」
「やります、やりますよ」
 僕はギターをアンプに繋いだ。そうだ。さっきの夢を歌にしよう。そう思うと自然に曲が降りてきた。

「何で音楽辞めたんだ?」
 宇摩はいつだって突然だった。持参したカップ麺をすすっている。
「なんで、って……」
 僕は次に詩を書いていた。
「まあ言わなくてもわかるよ」
 じゃあ聞くなよ。
 彼女はスープまで飲み干すと既に寝ている山中と代田の上に乗っかった。
「本当はちゃんとバンドやる予定だったんですよ。……でも、メンバーの一人が裏切った。いきなり出ないって言い出したんだ……。他のメンバーもそれに乗った。だから僕は一人でステージに立った」
「それは、よく頑張ったね」
「……」
「私達は『遅咲きの花』さ。お前はこの花の中心にやってきた」
 彼女は欠伸をして目を細めた。
「寝れば?」
「そうするよ……」
 初めて来る男の部屋でこんなにも無防備に眠れる女性を見ながらも、僕はなにも出来ない。他の男も居るわけだし。
「居なかったらするんだろうか……?」
 しないだろう。そんなに飢えてないし。
 僕はギターを片手にまた詩を書き始めた。
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■Bite me on the this world

 僕らは夜のローカル線に揺られていた。
「大丈夫かな。補導とか」
「まだ七時だから大丈夫さ」
「何時から始まるの?」
「八時半だよ」
 僕らはナコの兄、次郎さんのバンドのライブに招待された。というもののチケットが余ったらしい。
「……どうして、あの子も一緒に?」
 僕が指差したのは向かい側の座席に座り、制服姿でうとうとする宮田だった。僕もナコも着替えている。
「ヨータ。考えてみたまえ」
「なにを?」
「キミは一本釣りの漁師だ。今日は大物がかかったぞ。しかしその大物はあまりにも強い力で漁師を引っ張る。……すると、漁師はどうなるかな?」
「落ちるね」
「それが今の彼女の状態なのだよ」
「……うわあ……。可哀想」
 つまり無理矢理連れてきたって事か。帰ればいいのに。
「可哀想は女性にとってステータスだよ」
 ナコは偉そうに胸を張った。
「聞いたことねぇ!」
「さらに可哀想なポイントを教えてやろう。彼女は自転車を漕ぐ私の目の前に滑り込んできた。猛ダッシュで」
「猛ダッシュで?」
「猛ダッシュでだ」
 すごいな……。なんて言う体力なんだ。
「すると、どうなる?」
「……轢かれるね……。って、まさか……?」
「そう。ぶつかって気を失った彼女をそのまま連れてきたんだよ」
「許可無しかよ!」
 ナコとは電車の中で落ち合い、そのときは既に彼女が乗ってうとうとしていた。
「それより……、やばいんじゃない? それって」
「うむ。けど息はしていた」
「いやいや、そう言う問題じゃなくってね」
「ん、んん……」
 このタイミングで宮田が起きてしまった。
「……あぁーッ!」
「おいおい宮田君。電車の中では静かにしてくれたまえ」
 紳士のような大根芝居でナコが言う。
「……電車?」
 宮田が後を向くと、そこには走る風景があるはずだ。
「……拉致?」
「きみがその言い方で落ち着くのならそうだろう」
「えー……」
「驚くかい? そうだろうそうだろう」
「とりあえず、降ろして……」
「無理!」
 宮田は泣きそうだった。
「降ろした方が良いんじゃない……?」
「謝るから……、謝るから降ろして……」
 駅に着き、電車が止まった。
「降ろしてください……。お願いします……」
「宮田、降りて良いよ、もう」
「……そうだな。悪いことをした」
「お前ら早すぎだよ」
 聞き覚えのある声だった。金髪。ナコの兄、次郎さんである。楽器のケースを背負っていた。
「次郎さん?」
「俺はバイト帰りで行こうと思ってたんだけど……、その子なに? ……泣いてんじゃん! 渡辺くん何してんのさ」
「いや、これはナコが……って、宮田、はやく降りないと……」
 宮田の方を見ると、宮田の視線は次郎さんに釘付けだった。
「JIROだ! GLAYの!」
 宮田はGLAYファンだったらしい。たしかに、似ている。
「いやー、ちがうよ。似てるって言われるけど。あっちも金髪だしね。けど、あっちの方が格好いいよ」
「え? 違うんですか? でも楽器……」
「たしかにベースでポジションも一緒だけど、何ら接点無いよ、俺とは」
「そうなんですか……」
 というやり取りをしている内に電車の扉が閉まった。
「あ……」
 ついに帰るタイミングを宮田は逃してしまった。
「もしかして、降りるつもりだった? っていうか、なんで泣いてたの? 渡辺くんの浮気?」
「違いますよ!」
「んなワケないでしょう」
 一蹴だった。
「拉致られました」
 宮田の説明によって次郎さんの顔はどんどん深刻なものになっていった。
「……奈々子、集合」
「何かな?」
 次郎さんはナコを自分の膝の上に座らせると、ヘッドロックをした。
「いた、いたいいた……ッ、ギブ、ギブ……、ジロー、ぎぼぅ……」
 ナコの全身から力が抜け、それを次郎さんが支えた。
「これでチャラ! ごめんね。うちの妹が……」
「いえいえ……。次の駅で降ります」
「次もう終点だよ」
 宮田の顔が曇った。凄く可哀想だ。
「今日、都合は? 親とか大丈夫?」
 次郎さんが聞くと宮田はすぐ笑顔になった。
「大丈夫です。うち、親遅いんで……」
「じゃあ……、ライブ見に来れば?」
「良いんですか?」
「いいよ。チケットも余ってるし。でも、その格好を何とかしないとな。……でも、宇摩サンにきけば何とかなるよ。あ、宇摩サンって言うのはうちのドラマー。気むずかしい人だけど女性だから大丈夫だよ」
「じゃあ行きます」
 僕は宮田の手のひら返しようよりも、次郎さんのモテっぷりのほうが凄いと思った。
「……あの、私、宮田杏って言います。……お名前は?」
「名乗るほどの者でもない。……って言うのは嘘で、代田次郎。ちなみに長男だから。父さんが太郎なの」
「へぇ……」
 二人は他愛もない話をしていた。僕は次郎さんからナコを受け取り看病していた。ガクガク震えたかと思うと起き上がった。
「ふぉわああ!」
「……おはよう?」
「こら! ジロー! 落とす時は落とすと言いたまえよあぁもうビックリしたなあもう!」
「いったら落としていいのかよ」
 ナコの怒声にしかめっ面をしながら次郎さんは答えた。
「言えば落として構わないよ」
「どんなやつだよ」
 電車が終電に着いた。
「じゃあ行こうか」
 僕らは次郎さんの案内でライブハウスに入った。すぐに楽屋に入らされる。
「宇摩サン、服かしてあげてよ」
 楽屋には髭を剃る男と楽譜をずっと睨む男と、小説を読む金髪の女性が居た。
「あぁ?」
「いやさあ……」
 次郎さんは事情を説明した。髭を剃っていた男が爆笑し、楽譜を読む男は「シャレにならない」と言う顔をしていた。その女性は表情一つ変えずにバッグの中を漁り、Tシャツと黒いパンツを差し出した。
「右の廊下にトイレがあるからそこで着替えてきな。奈々子、知ってるだろ、お前。案内してやれ」
「宇摩さんの命令とあらば聞かねばなるまい」
「いやー、ばかばかしいな、相変わらずお前の妹はよ」
 髭を剃っていた男が顔を拭いてやって来た。
「代田さんに妹が居たなんて知らなかったですよ」
「だろ? こいつの妹濃いキャラしてるんだよ」
「私は昔、手を噛まれたけどな」
 僕はなんだかいたたまれなくなってその部屋を出ようとした。が肩を掴まれ、笑顔の次郎さんに紹介されてしまう。
「あの妹の彼氏……?」
「おまえ、あいつを手なずけたのか……」
「手なずけたって……」
 僕らはそのあと雑談をし、宮田が戻ってきて観客席に向かった。ステージは小さく、人も少なかった。けれど、楽しかった。とくに次郎さんのバンド、「LATE BLOOMERS」は凄かった。
 また来たい。そう思った。

■Bite me or,or……,eehhhhhhh……

懐かしい、かまれたい女の子の話です。
(ゼロッキーの方を見ながら)





 二年生になって、そろそろ進路のことを考えなくならなくなったけれど、僕は相変わらず彼女に言いように使われている。たぶん、恋人。たしか、恋人。おそらく、恋人。できたら、恋人。
「……」
 僕はそんなことを考えながら五月の頭から補習をサボって彼女の愛機を自転車の墓場から引きずり出していた。
「はい。もう奥の方に置くなよ」
「いやあ、毎日すまないねぇ」
「それはどうも。……っていうか、補習くらい真面目に受けさせてくれないかな」
「受けても寝るだろう」
「まあね」
「そのくせ私より成績が良いとは……ッ! 馬鹿なヨータ! カムバック!」
「代田さん……、三年生でしょ。……そんなんで良いの?」
 僕が言うと彼女はふむふむと腕を組んだ。
「なに?」
「敬語だね……。悪い傾向だ。私にした仕打ちを忘れたのッ? 非道いわ!」
 相変わらず非道い大根芝居だ。漫才にしか聞こえないレベルだ。いや、最近の芸人はレベル高いな。
「わかったよ。じゃあなんて呼べばいいの?」
 僕が聞くと彼女はカタリと動きを止めた。
「……あの、代田さーん?」
 石化した彼女に声をかけた。
「うーん……、悩むね……。けれど、代田さんはやめてくれ」
「……わかった。じゃあ、ナナ」
「……」
 彼女は苦い顔をした。
「何だよ……」
「キミはネーミングセンスの欠片もないね! せめてナコとかにしてくれ!」
「それもどうなんだ!」
「それよりも、はやくしてくれ! 今日は私の兄の友人がやって来るんだ!」
 彼女は僕を指差した。
「きいてねえよ!」
 僕も差し返す。
「今言ったからな!」
「畜生!」
「ちなみに今日はローストビーフが良いです!」
「何であんな手のかかるモノを! せめてビーフシチューとかにしなさい!」
「えぇー」
「渡辺ェーッ!」
 やって来たのは見覚えのあるような無いような、よくわからない女子生徒だった。
「誰?」
 彼女がきいてきた。
「わかんない」
 真面目そうな女性は僕の前に立つと凄まじい形相で僕を見た。
「また補習サボるの?」
「え……」
「何だ、委員長か」
 彼女が言った。
「知ってるの?」
「いや、委員長キャラだなって」
「意味がわかりません」
 小さい声でやってるはずの僕らの会話が聞こえたのか聞こえてないのか彼女は胸ポケットから生徒手帳を取り出して僕らに差し出した。
「……『宮田 杏』」
「誰?」
 改めてナコが聞いた。
「僕もわかんないよ」
「渡辺、クラスメイトくらい憶えてよ」
「……」
 僕は頭をフルスロットルで起動させて思い出そうとした。けど無理だった。
「ごめん、ちょっと憶えてないよ」
「それは寝てるからだろう」
「そうかな?」
「このあいだ、超能力研究部が取材しようとしてたらしいじゃないか」
「え? どうなったの?」
「あなたが寝ているので帰りました! 私が学級長になったからには、あなたはもう寝させませんし、帰らせません」
 宮田はそういいながら怒鳴った。
「あれ、ミス狐田」
 そういって角から現れたのはいつかの写真コンビだった。たしか、イブキとレイジ。
「渡辺君、……どうかしたの?」
「良いところに来た! レイジ君、未来の生徒会長、宮田杏の写真を撮ってやってくれたまえ! その大層な一眼レフで! きっと一生モノだ!」
 そう言いながらナコはレイジの首から下がる黒いカメラを指差した。
「え? いいんですか?」
「あぁ、私が許可しよう」
「あの、ちょっと!」
 主にイブキの絡みに飲まれた宮田を確認すると、ナコは僕の方を向いて親指で校門を指差した。
「……鬼畜……」
「何とでも言え! 行くぞう!」
「はいはい……」
 僕らは自転車に乗って学校を出た。後ろの方からはわりとのりのりな宮田の声が聞こえた。

■Mo12・終日

You saved me the day you came alive(あの日、きみが救ってくれた)
(FOO FIGHTERS/COME ALIVE)




 僕は家で延々ギターの練習をしていた。高校時代の僕はめきめきと蘇ってくる。
「……」
 僕の家は奇妙な静けさに襲われていた。あいつはもう随分と出てこなくなったが、それでも部屋は暖かかった。けれど今は違う。冷たい。あの、名前も聞かなかったドラマーのせいなのか。
 彼女はポーリーに似ていた。どこがと言われれば、よくわからない。けれど雰囲気が似ていた。
 手を止めて考えているとニルヴァーナのスメルズライクティーンスピリットがかかる。つまり携帯電話が鳴った。
「もしもし?」
『おい、有川』
「なんですか」
『今から今さっき適当に録音したやつを流すから、勝手に入ってこい。いいな』
「え? いや」
『いいから。ギター持ったか?』
「まあ、はい」
『よし、流すぞ。3,2,1』
 ドラムスティック同士が打ち合う音。エレキベースの重低音。その後、際だつアコースティックギターのアルペジオが始まった。
 僕はギターの横に携帯電話を置き、その展開を見極めてベースの音に近い低音の単純なコード進行をした。ドラムの音が勢いを増し始める。心の中で三つ数え、この後来るであろうサビを支える音を出した。
 予想通りサビはアコギのくせに激しいサウンドで、僕とベースとドラムスがそれを支えた。
 曲が終わり、僕は携帯電話を取った。
「どうでした?」
『ほら、予想通りだろ。じゃじゃ馬よ』
「え? そこ誰か居るんですか?」
『今スタジオ。ほら、コンビニの裏にある』
「あー……」
 実を言うと僕は知っていた。
『お前、高校でもギターやってただろう。有川』
 声が変わった。女性の声だ。
「あ、ドラムの……」
『宇摩』
 彼女は淡々としていた。
「宇摩さん。……僕は、確かに、やってました」
『ニルヴァーナのダムとピロウズのブラックシープを弾いて学校中を哀しい気分にさせたと言う話は聞いている』
 知ってんのかよ。
『え? あの『狐田お通夜伝説』の? 有川が? マジか』
 山中の声が遠くから聞こえる。いつの間にか伝説になっていたようである。やめて。本当にやめて。
『あいつが? 技術のある根性無しだと思ってたけどやるねぇ』
 この声はたしか代田とか言う……、いやちょっとまて。誰が根性無しなんだ。
「で、僕を笑いに来たんですか」
『そうじゃない。……スタジオの場所は判るな。さっさと来い』
「え?」
 電話が切れた。と思うとまたかかり、僕は再び電話を取った。
『ギターももってこいよ』
 また切れた。僕はムスタングをソフトケースに入れて抱えると家を出た。
 スタジオまではすぐであっという間だった。スタジオの前には山中が居てずるずると引きずられるように僕は貸しスタジオの中に入った。
 中には代田と宇摩が居た。
「きたか」
「おぉー」
「早速だが、お前に頼みたいことがある」
 宇摩がやって来て僕に楽譜を渡す。
「……これは?」
 僕は楽譜を見ながらきいた。
「ギターが足りないんだ。歌詞もない。ギターは考えてあるが、歌詞がどうにも。……できるか」
 宇摩は僕に何かを求めていた。答えなんて決まっていた。
「わかりました」
「三人で録音したやつがあるんだ。聞いた方が良いか?」
「お願いします」
 宇摩は自分のポケットの中からアイポッドを取りだし、操作するとイヤホンに繋いで僕に渡した。すこし戸惑いながら僕はイヤホンをつけ、再生ボタンを押した。
「……」
 あの曲だ。彗星のような、一曲目。
「これ、ライブでは一回だけコーラスしてませんでした?」
「あぁ、あれか。……山中がボーカルを連れてくると言うからそのときだけだ。……英詩でも日本語でもどっちでもいい」
 つまり、僕のためだけに? 少しだけ嬉しかった。僕は眼を閉じて集中する。ソングライティングなんて、何年ぶりだろう。そうだ。ギターを辞めてから、もうそんなこともしなくなった。
 ふつふつと歌詞がわき出て僕はメモ帳に書き出す。
 何時間経ったのか、まだ数分なのか、僕の歌詞は完成した。
「……出来ました」
 曲の打ち合わせをしてい宇摩たちは驚いた顔をした。
「もっとかかると思ったぜ」
「今から弾く。お前は出来るだけ弾いて欲しいが……、とりあえず唄え」
「え?」
 歌詞を見せるだけだと思っていた僕は驚いた。いきなり唄わされるなんて。
「いくぞ!」
 彼女はドラムの前に立ち、山中はギターを抱えて肩をすくめた。代田は僕の前にマイクのついたスタンドを持ってきた。
 僕は慌てて持ってきたエレキギターにストラップをかけてアンプに繋いだ。
 ドラムスティック同士が打ち合う。1,2,3。

  サヨナラも言わず、彼女は消え去った
  さよなら彗星。明日には忘れるよ。
  こんにちはも言えない僕は消え去って
  夜明けの庭で遊びたい。

  けど何だっけ。
  あの星の名を教えてよ。

  やあやあ、皆さん。
  思ってもいない台詞。
  さよなら彗星。明日には忘れてよ。
  こんにちはも言えないあのころは
  夜明けの庭で遊んでた。

  それももう終わりさ。
  僕は大人になったんだった。

  今日も僕は思ってもいない台詞を吐いてる。
  あのころの僕はもう忘れてくれ。
  涙が出そうさ。

  君が現れるのはずっと先の話さ
  さよなら彗星。君は驚くよね。
  僕は変わりすぎた。裸足で出歩けなくなった。
  夜明けの庭で遊びたい。

  さよなら彗星。さよなら。

  今日も僕は思ってもいない台詞を吐いてる。
  あのころの僕は忘れてくれ。
  涙が出そうさ。

 ディストーションサウンド。間奏に入った。僕も気づけばギターを掻き鳴らしていた。
 間奏が開ける。

  こんにちはも言えない僕は忘れられ
  消え去った彗星も忘れたころ
  こんにちは彗星。
  夜明けの庭で誘ってくれ。

  言葉が詰まって何も言えないよ。
  そうして僕は庭に飛び出すのさ。

  今日だけ僕は靴を脱いで
  夜明けの庭で遊ぶんだ。
  久しぶりだね。僕も着いて行っていいかい?
  いいよね。

 千切れるようにして音が鳴り止む。曲が終わった。気が付けばもう星が出る頃だった。
「……もう夜なんだ……」
 後ろの方では膨れあがったスタジオのレンタル料金を巡って山中と代田が言い争っている。
「有川……」
 隣で宇摩が星を眺めている。
「なんですか?」
「ボーカルギター、やらないか?」
 結局割り勘で落ち着いた二人の馬鹿騒ぎが自然と静まった。
「……僕は、高校生の時、弾き語りをしました。けど本当はちゃんとバンドのメンバーが居て、ちゃんとした曲をやる予定でした。……けど彼らは現れなかった。もう、ギターなんて、バンドなんてって思ってたけど……。なんだかんだでここまで……」
「で、やるのか」
 宇摩は僕の言葉を切っていった。後ろで山中と代田が目頭に指を当てて首を横に振っている。
「やります」

プロフィール

KANTA

Author:KANTA
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