■2010年05月

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■六月のおだい「潦」

What do you want?(キミは、何がしたい?)
                   (the pillows「ROCK'N'ROLL SINNERS」)


 雨が降っていてひまだった。梅雨ってヤツだ。だから、僕は捨てるはずだったアコースティックギターを取り出した。
「……」
 何年ぶりだろうか、これを触るのは。
 高校生の頃、本気でミュージシャンを目指していた。こいつを一本持って文化祭のステージに上がったこともあった。けど何も変わらなかった。ニルヴァーナのダムなんてだれも知らなかったし、ピロウズのブラックシープなんてもっとしらけた。英詩なだけニルヴァーナがマシだった。
 弦を張りっぱなしで背板の曲がったアコギは、もうろくな音が出なかった。
 ギターを投げ出して、僕は寝転がった。
 そういえば、近くの質屋に、ギターが置いてあった気がする。友達がそこでバイトしていた気がする。
 友達に会いに行くくらい、いいだろ。僕は傘を取ると家を出た。
 そう言えば、今日はあいつが出てこない。そう思いながら質屋に向かう。イヤホンをつけてアイポッドの中にある曲をシャッフル再生した。
 質屋に到着し、ギターのあるコーナーを探した。と、見つかった。
 棚に沢山のギター達がずらっと並んでいる。給料を貰った後だから、そこそこ僕は金持ちだ。
 何が良いかとうろついているところで、見知った男を見つけてしまった。
「有川」
 向こうから話しかけられてしまった。バイト先の同僚、山中である。
「あ、山中さん、こんにちは。……ギター趣味なんですか?」
「趣味じゃねえよ。仕事だよ」
 無精髭の男はジーンズのポケットに手を突っ込んだまま答えた。
「仕事? ……ここでも、バイトしてるんですか?」
「あぁ、ちがうちがう。バンドやってんだ」
「……バンド?」
「あぁ」
「だから、ギターを買いに?」
「いや、昨日こいつを質に出したんだが、売れてるかどうか確認しに来ただけ」
 山中が指差したのは一本の黒いエレキギターだった。
「で、おまえ、買うの?」
 山中が言った。いやな予感がする。
「え、まあ、はあ」
「じゃあ、あれ買えよ。俺が要らないアンプもやるから」
「え? 別に良いですけど」
「よし判った」
 と、僕はあっという間に彼のギターを買ってしまった。財布が随分薄くなった。
「ちょっとついてきな」
 山中は手招きする。
「え?」
「いや、アンプやるって言っただろ?」
「まぁ……」
 言われるがままについていくと、そこは僕の住むアパートと同じくらいぼろぼろだった。けど、立地条件で言うと僕の所より悪い気がした。アパートの入り口でまたされ、彼は一個の黒いアンプを持ってきた。
「ほら」
「あ、ありがとうございます」
 何とシールドもついていた。僕はなんだか恐縮してしまう。
「俺のムスタングをよろしくな。あと、また、コンビニで」
 そうして僕は山中と別れた。
 本当に、ポーリーは一度も現れなかった。
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■レッツ シー イフ ザッツ トゥルー オア ノット第四章・1


第四章

 ニニーと子供達に二つあるベッドを両方奪われた僕は二階の廊下で目覚めた。
「……」
 伸びをして一階に下りた。まだ誰も起きていない。僕は火種入れから火種を入れて火を焚き、外の井戸から水を汲んできてやかんにお湯を沸かした。戸棚から茶葉を持ってきて茶出しに入れた。
 お湯が沸き、茶出しの中にお湯を注いでから少し待つ。後ろの方から物音が聞こえ、僕はふり返った。
「ニニー」
 寝ぼけた顔の少女は頭を掻きながら僕に近づいた。
「……いい香りだ。なんて言う茶葉だ?」
「キームンだよ」
「あぁ……。ロッキーが好きだったやつか……。エニモル」
 いきなり寝ぼけた口調ではなくきりっとした口調になったニニーが言った。
「なに?」
「きみは、テレフォーン=パピーアを救うために、その情報を知るために、私の仲間になったんだろう?」
 そうだ。その気持ちは今でも変わっていない。
「そうか。……一応伝えておく。テレフォーン=パピーアは、おそらく、きみへの負い目があってきみから去った」
 首肯した僕にニニーが言った。
「え?」
「おそらく、ワン=ケーニヒに刷り込まれたか、それとも元々抱いていたか」
「ちょっと、どういうこと?」
「聞け。彼女と、きみの違いはなんだ?」
「……見た目?」
 恐る恐る僕は口にした。
「差別的発言だが、その通りだ。それは、きみにとって魅力でもあった。違うか?」
 ふふん、とニニーは笑った。まるで「きみのことは何でも判る」と言うように。
「それは、相手にとっても同じ事だ」
 僕が押し黙っていると、ニニーは言った。僕は思わずニニーの顔を見た。
「テレフォーン=パピーアは、何かしらの脅しをかけられた。『ライゼを退職させる』と言った類の事かも知れない。そこは判らない。けれど、彼女は、きみを思ってきみのもとを去った……。この話は真実かはわからない、ただの空想だ。けれど、きみはテレフォーン=パピーアに会って話す必要が、訊く必要がある……。それはそうと、紅茶の蒸らし過ぎじゃないか?」
 慌てて紅茶をカップに注ぐ僕に、ニニーはいつの間に取ったのかずいっともう一個カップを差し出した。
「渋いのが好きなんだ」
 と言って笑った。
 僕がニニーの分まで紅茶を注ぐと、ふらふらとマーニとソールがやって来た。二人の分まで注ぐと、ちょうど紅茶はなくなった。
「で、そのヘルセイって人は協力してくれそうなのか?」
 長机を囲んでからニニーが言った。
「たぶん、大丈夫と思う」
「へえ……」
 ニニーは紅茶をすすった。  
 隣ではソールとマーニが仲良くバスケットからパンを取り出して囓っている。
「二人とも、無茶するなよ」
 マーニが呟いた。となりにいたニニーが彼の頭に手を置き自慢げに、にやっと笑っていった。
「大丈夫だ。エニモルがついてるからね」
 快晴のような美しい瞳が僕を見ていた。気恥ずかしさについ目をそらしてしまう。
「さあ、のんびり飯を食っている時間はないぞ。エニモル。出かけよう」
 ニニーは勢いよく立ち上がって言った。
「わかったよ」
 僕は食べかけていたパンを全て口の中に入れて頬張り、出かける準備をした。防風眼鏡、薄い牛皮の手袋、長いマフラー。帽子を被ろうとして、それをニニーに預けたままだと思い出してまあ良いかとどうでも良くなった。
 僕が部屋の隅で準備をしていると、ニニーがマーニに物騒な話をしていた。断片的だが、どうやら、シューターの使い方を教えているようだった。
「……なんてもん教えてるんだよ」
 腰の左右に祖父の形見である剣をぶら下げた僕は言った。
「私達の留守中に、この子達が闇へと消えていたら、きみもわたしも、普通でいられなくなるだろう? どちらかが残るにしても、エニモルが居なければ本末転倒だし、エニモルだけだと何も出来ずに帰ってくるのがおちだからね」
 僕はそれを聞いて、なぜか哀しい気分になりながらもそれを見過ごした。
「……」
 僕が階段に腰掛けてその様子を眺めていると、ソールが横に座った。
「いやなら、やめさせれば良いんじゃない?」
「そうだけど、僕も、君たちが気がついたらどこかに連れ去られてるのは辛いよ」
 ソールが押し黙るので不審に思って、僕は彼女の方を見た。ソールは、耳まで真っ赤にしてなにかを言おうとしているようだった。
「そんなに私達が大切なの?」
 奇妙な沈黙の末に返ってきた答えはそれだった。
 僕は困ってしまった。頭を掻いて少し考えて、それに答えた。
「大切だよ」
「みんな、私を殴ったのに? あの子も……マーニも、沢山ぶたれてた」
 僕らの世界を回す歯車。その大きな歯車の一部となって、この間まで回っていた少女と少年。名前も、与えられず。
「今まできみが殴られてたなんて僕には関係ないよ。ここは違う世界だし、君たちのいた世界も、誰も殴られないような世界にしてみせるよ」
 ソールは立ち上がって、僕を見た。
「……全部が終わったら、私に、戦う術を、教えてくれますか?」
 強い意志を宿した眼が僕を見た。ニニーの空のような瞳とは違う、燃えるような瞳だった。
「全部、終わったら、そうする。約束する」
 そんな約束を取り付けて、外に出た僕はニニーと一緒にリーフェルングに乗った。
「……エニモル、こいつは、ロッキーが使っていた奴だろう?」
 リーフェルングの赤銅色の流れるような形の胴を撫でながら、僕の帽子を被ったニニーが言った。
「うん。アートムングっていう、僕の先輩が、預かっていたものだって」
 僕はマフラーを巻き直し、防風眼鏡をつけた。
「アートムングか……。まだ生きてるの、っかッ、――え、エニモル! 走らせるときは何か言えと言っただろ!」
 ニニーが喋っている途中を狙ってリーフェルングを発進させた僕に、ニニーから避難の嵐が聞こえる。
「あはは、動かすよ。気をつけてね。ニニー」
「もう遅いッ!」
 僕が速度を上げると、ニニーが腰にぎゅっとしがみついてきたのが判った。
「ニニー、ゆっくり走らせようか?」
「そう言う気遣いは動かすときに頼む」
 ニニーは震える声で言った。
 僕が通っていたライゼを育成する学園から右に曲がってすぐの所に、王立図書館はあった。噂では、地下で色んな物と通じているらしい。
 王立図書館の前にリーフェルングを止め、僕らは中に入った。すぐに紙とインクの香りがした。
「うん、いい匂いだ」
 と言いつつもニニーは涙目である。どうやら僕が急発進させたときに座席から落ちかけ、王立図書館に着くまで不安定な姿勢で居たらしい。
「ニニー……ごめん……」
「今さら謝られても困るね。次からの行動にいかしてくれ」
 言葉だけ聞くと寛大だが、冷たくこちらを見ずに言うので、どうしようもない。
「本当にごめん……」
「もう、うるさいな。次から気をつけろと寛大な私が言っているのだからきみは私を信じてその友人の所に連れて行けば良いんだ」
 これはもうだめだ。そう思った僕は早くヘルセイの所に連れて行こうと思った。
 忙しそうに動き回る司書の中から、見慣れた眼鏡の女性を見つけ、声をかけた。
「ヘルセイ」
「エニモル? ……あぁ……。その子が……ニニー……さん?」
 ニニーが少女なのに驚いたようだった。
「私のことまで喋ってるのか。とんだおしゃべりだ」
 気にした様子もなくニニーが言った。
「エニモル、大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ。きっと」
「……『きっと』って……」
 ヘルセイが不安そうに言った。
「大丈夫だ。いざとなったらきみはエニモルに脅されたと言うことにすればいい」
 ニニーが言った。僕は後ろにいるニニーの方を向いた。
「そうなったら本格的に僕は犯罪者じゃないか?」
 ここまで言ってそもそもの論点がずれているような気がした。
「そしてきみは私に脅されたと言うことにすればいい」
「誰も信じないよ。少女に脅されてやったなんて」
「売春でもしてそのネタで私に脅された事にしよう」
「きみの言うことはいつも意味不明で難解だな」
 すると隣で、ヘルセイがぷぷ、と笑った。
「判りました。私は脅されて、見せてはいけないものをあなた方に見せます」
 両手を上げて彼女は言った。
 僕らはヘルセイが案内する先に向かった。目の前にある分厚い辞書の載った本棚を横にずらすと、扉が現れた。その扉をヘルセイが開くと、辺りが妙に騒がしくなった。
「え?」
 ヘルセイが動揺した。騒ぎの原因はすぐにわかった。図書館の天井に煙がたちこめているのだ。
「ヘルセイさん、消火に行ってきたら?」
 ニニーが言うと、ヘルセイは頷いてその場を去った。
 僕らがヘルセイから案内された扉の中にはいると、扉は独りでに閉まり、勝手に明かりがついた。
「最悪壊す」
 ニニーが物騒なことを言った。おそらく、もしも扉が開かなければの話だろう。
 目的の本はなく、目の前にある薄暗く細い通路を一列になって歩いた。ニニーが僕の後ろにいた。
「さっきの火事、どうなったのかな?」
「煙だけだ。小火だよ」
「どうして判るんだ?」
 後ろにいるニニーが何かを耳の後ろからさしだした。それを受け取って眺めると、小さい箱のような物で、箱の側面にはざらざらした物が着いている。
「マッチ?」
「そう」
 ニニーが後ろで意地の悪い笑みを浮かべるのが見えた気がした。
 強い明かりが見えると、数々の本棚があった。その中には色んな本がおさまっている。
 ニニーは僕をはね飛ばし、どこからだしたのか大きな鞄に本を選んでは入れていった。
「何か手伝おうか?」
「きみに読める文字は一つもないだろう」
 ニニーは僕すら見ず、本を盗んでいるようだった。なんだかやるせない気持ちになった僕は床に寝転がった。埃とカビの臭いがした。もう何十年と人が訪れていないらしい。
「ニニー」
「なんだ? 眠くなったら寝て良いぞ。置いていくが」
「僕のお爺ちゃんは……、知りすぎたから、死んだのか?」
 ニニーの手が止まった気がした。少ししてまた動き出す音がした。
「そうだ……。ロッキー=ティアはそれを悟っていた。そしてお前に全てを託した」
「僕が、今、ここできみとこんな事をしているのも、知っている?」
「そうだろうね。彼には、そんな確信があったらしい」
 ニニーの声が急に哀しそうなものになった。
「エニモル、私はね、死ねないんだよ」
 そのときは、ただの冗談だと思った。
 僕がうとうとしていると、脇腹を思いっきり蹴られた。
「ぐふッ」
 自分でも情けない声が出た。
「いつまで寝てるんだ。行くぞ」
「はい……」
 僕は起きあがり、ニニーの後を着いていった。
「エニモル、ここ、お前の愛車は進めそうか?」
 図書館へ戻る途中、ニニーが言った。
 僕は周りを見渡し、
「大丈夫だと思う」
 と答えた。
「よし」
 なぜか満足そうにニニーが言った。
「もうすぐだ。エニモル」
 ニニーは本当に嬉しそうに言った。
 扉が開かなかった何てこともなく図書館に戻るとがらんとしていた。火は止まったらしい。
 僕は扉代わりの本棚を閉ざした。
「火事のせいで臨時休業にでもなったか。さあ帰るぞ、エニモル」
 図書館を出てリーフェルングに跨った。
「エニモル、憶えているだろうな?」
 僕がマフラーを首に巻き直したりしているとニニーが言った。
「判ってるよ」
 防風眼鏡をおろしながら言った。
「……、……、……、……速く出したらどうだい?」
 ニニーもリーフェルングに乗ったようだった。
「え? あぁ、なんて声をかけようか迷ってたんだよ」
「まったく、そう言うのは良いから――ッ! エニモル! 後でお、憶えてろよ!」
 僕がわざとニニーの話している途中でリーフェルングを発進させた。
「え? なんだって?」
 僕は大通りを文字通り右往左往した。後ろでニニーが奇声を発しながらしがみついてくる。
「え、えに、エニモル! あんぜ、安全に、う、んん、うぅ、運転――」
 ニニーの言葉が尻すぼみに消えていった。少しやりすぎたか。僕は声をかける。
「ニニー? 大丈夫?」
 僕はもう道の真ん中をゆっくりまっすぐ走っている。
「――ろす」
 ニニーが言った。ぞくりと背筋が冷たくなる。
「――後で、殺す」
 僕は相手の気を紛らわすために訊いた。
「な、何で今じゃないの?」
「い、今は……、む、り」
 力無くニニーは言った。僕はその後の液体が道路に叩きつけられる音とか「おぇぇえ」とか言う声は聞こえなかったし聞かなかった。
 家に着いて、リーフェルングから降りようとするとニニーが首に手を回してきた。
「な、なんだよ」
 少しどきっとした。だがそれはニニーから漂う酸っぱいにおいにかき消された。
「……ほんとごめん」
 ニニーは答えない。僕はニニーをおぶって家の中に入った。ドアを閉めた瞬間、誰かの怒声が聞こえてきた。
「出ていけッ! 出てけよ!」
 すぐにマーニの声だと判った。
 ニニーもそれに気づいたのか僕の肩を踏んで前に跳躍した。その両手にはシューターが握られている。何丁持ってるんだろうかと思いながら僕もそれを追った。
 居間には見覚えのある女性と、部屋の隅でシューターを構えるマーニと怯えるソールが居た。
「ニニー! エニモル!」
 マーニとソールがニニーを見、その後僕を見て嬉しそうな歓声を上げた。
「……エスタ」
 マーニに近づく女性、エスタはゆっくりと僕の方をふり返った。
「エニモル……」
「何をしに来たんだ」
 エスタは目を伏せた。
「私、今、犯罪者なんだよね?」
「もちろんだとも。この都市のライゼは『面白そう』な顔をして猟犬の如くお前を捜し回っている」
 ニニーが答えた。ニニーの眼は燃えるように輝いている。
「……そっか……。本当は、さぁ、子供達を救いたかった。でも……、もう、手遅れだよね……。みんなみたいに、なれなかったよ……」
 エスタがぽろぽろと涙を流した。
 不意にドアがノックされた。どうやら、この町のライゼが来たらしかった。
「本当は、こんなこと……」
 エスタはうつむいてうわごとのように呟いた。だとしても――。
「だとしても、僕は、きみをゆるせないよ」
 彼女は雷に打たれたように顔を上げ、顔をくしゃくしゃに歪ませた。
「……ぁ」
「この町のライゼが来てるんだ。ニニー、ドアを開けてきて」
 エスタが何かを言おうとしたとき、僕はそれをさえぎった。
 ライゼはニニーと共に早足でやって来て、エスタの両手を前に持ってきて木製の手錠をした。エスタは泣くのをやめ、眉間に皺を寄せて僕を睨んでいる。その視線が、何かに突き刺さった。
「ご協力、感謝します」
 壮年のライゼが言った。

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「……いえ」
「隣の家の人が、家に入っていくあの子を見たんだって、さ」
「へぇ」
 ニニーの報告を、僕は聞き流した。
「……ニニー。僕は、友人を売った。正しい事をやったと思う?」
 ニニーは黙っている。
 すると、目の前の景色が歪み、僕は床に転がったのだと判った。顎が痛い。
 目の前がぐらぐらしていると、目の前に二人の少年と少女が立った。二人とも、僕に向かって手をさしのべている。
「お前はこの子達を救った。それは正しいことだ。違うか?」
「……」
 急に視界が滲んだ。
「例え相手が友人であろうと、お前の行動は正しいよ」
 僕は、嗚咽を漏らしながら泣いた。

■レッツ シー イフ ザッツ トゥルー オア ノット第三章・3






 アウフ・エア・シューティングの集会場から逃亡用の隠し通路を使ってライゼエスィヒに戻った僕はすぐに寝た。みんなそれぞれの部屋でそれぞれ別のことをしているようだった。
 ――明日、夜が明けてすぐ私の家に来い――。
 寝る直前、ニニーに言われたことを思い出した。
「……」
 次の日の夜が明ける前、まだ外が寒く暗いとき、僕は目を覚ました。帽子を被り、手袋をして首にマフラーを巻いた。予備の手袋と防風眼鏡をポケットに入れると、ライゼエスィヒの外に出た。
「どこに行くんだ? エニモル君」
 リーフェルングに跨ったとき、声がした。ヴェンディだった。
「ちょっと、この世の果てまで」
 防風眼鏡をした僕が言うと、ヴェンディは微笑んだ。
「もう五年も一緒に居るんだ。きみの様子の変化くらい判る」
「引き留めないんですね」
 リーフェルングをいつでも発進できるような状態にした僕は防風眼鏡を上にずらした。
「引き留めて欲しいのか? とはいえ、若者の旅立ちは見守るべきだ」
「ちゃんと帰ってきますよ。僕は」
「そうしてくれると嬉しい。きみは敏腕職員だからね。マックもきみに懐いているし。あれでも、昔はもっと暗い子だったんだよ」
 僕はずらしていた防風眼鏡を下げた。
「……それでは、いってきます」
「元気でな」
 リーフェルングは走り出した。
 ニニーの家の前には、一人の少女が居た。長い黒髪に黒いコートを羽織っていた。首には白いマフラーが髪と一緒になびいている。格子縞の短いスカートと革のブーツ。
「時間ぴったりだな」
 どこかうきうきしているニニーが言った。
「足は……本当に大丈夫なのか?」
「まだ信じてたのか。どこまでもお人好しだ、っと」
 言いながらニニーがリーフェルングに跨った。腰に彼女の細い腕がまわる。
「ニニー、寒いからこれ」
 僕は予備の防風眼鏡と牛皮の手袋を渡した。ついでに自分が被っていた帽子を渡した。
「帽子で髪の毛隠しなよ」
「なぜだ? 差別的な事を言ってるのか?」
「ちがうよ。その長い髪の毛が車輪に絡まると大変だろ」
「なるほど。気がつかなかった」
 ニニーは僕の背で髪の毛を帽子の中に入れたようだった。
「よし、もういいぞ。エニモル。首都に向かって出発だ」
 行き先は告げられていなかったのだが、そんなことだろうと思った。
「他に持つものはないの? それだけ?」
「剣しかぶら下げていないきみに言われるとは心外だ」
 ニニーが言った途端に僕はリーフェルングを発進させた。街道の塵を吹き飛ばしながら力強くリーフェルングと僕らは進む。
「え、エニモル! 走り出す前は何か言ってくれないか?」
 ニニーが叫んだ。
「はは、次から気をつけるよ」
 昇った太陽に向かって僕はリーフェルングを走らせた。
「ニニー、教えてくれないか、きみの、知っていること」
 道中、僕が尋ねた。
「……聞かれると思った。……そう言う約束だったからね。……どこから話そうか……。そうだな、まずは、この世界について説明が必要だ」
 僕は少し速度を落とした。
「この世界には、二つの世界があるんだ」
「二つの世界?」
「ふり返るのは良いからきみは運転に専念したまえ」
 ふり返る前に言われてしまった。
「ザシンプルと呼ばれる世界と、ザハードと言われる世界だ。ザシンプルは今きみの居る世界。ザハードはザシンプルより下にある世界だ。ザハードからしてみればきみの居る世界は空に浮かぶ巨大な都市と言うことになる」
 早くも頭がこんがらがってきた。
「どういうこと?」
「質問は後で聞くよ。ザシンプルとザハードはだね、トラウム・ファール・シュトゥールと呼ばれる巨大な柱で繋がっている。見えないけどね」
「では、きみの養父ロッキー=ティアが、なぜ反政府組織を作ったのかを教えよう。……なぜ、世界は二分されていると思う?」
「知らないよ」
「そんなこと知っているよ」
 こんちくしょうと言おうとする前にニニーは話を続けた。
「奴隷……。判る訳無いか。召使いが判るかい? 雑用でも良い」
「そりゃわかるよ。マックもそうだっただろ? 待遇はいいみたいだったけど」
「そうだね、彼女もライゼエスィヒの雑用だった。……そう言う関係なのさ。ザハードとザシンプルは」
「……片方が片方の主従関係って事?」
「もっと強い。もっと凶悪なものだ。……きみは昨日、何を食べた?」
 腰にしがみつくニニーの力が強くなった。
「パンだよ。それが?」
「パンは何から作る?」
「……小麦粉?」
「その小麦粉はどこから持ってくる?」
「……国の、支給品だけど……。どこからって言ったら神さまのくださるものだろう?」
 僕がそう言うと、ニニーは鼻で笑った。
「じゃあ、きみの愛車……」
「リーフェルング?」
「そう、リーフェルング。これは何で動いている?」
「……エレクトール?」
 腰に回されたニニーの手にぎゅっと力がこもった。
「そうだね。ザハードは、エレクトールなんだよ。ザシンプル、君たちがいま生きている世界の人々を生かすための。……テレフォーン=パピーアもそうだった。君らを生かすため。人としての価値なんてない。生まれてから死ぬまで君たちが『神からの贈り物だ』。と思いこんで食べている小麦なんかを作るためにね」
「……言っている意味がわからないよ。小麦を作る? どうやって?」
「木に、桃がなっているのをみたことがあるかい? あれと同じように作るのさ。ザハードの、人とすら思われず、当然だと言われ死んでゆく人々がね」
「冗談だろ?」
 僕の声は震えていた。
「これが嘘だったらあたしは相当なペテン師だ。……みんな、君たちと同じように幸せを願っていたはずなんだ。……この世界は、壊さないくっちゃいけない。あたしは、それをきみの養父から教わった」
「……ニニー、きみなら、それが出来るのか。世界を壊すことが」
 僕が聞くとニニーは即答した。
「エニモル。きみとあたしが、それを成す」
 凛と、力強く、はっきりと、彼女は言った。
 朝も終わり、昼になる手前僕らはアウフに着いた。
「ここがアウフか」
「そうだよ。きたことなかった?」
「一応ある。けれど、こんなに活気ある街では――」
 ニニーの言葉はしりすぼみになって消えていった。
 祖父の家に着くと、早速中に入った。
「綺麗だな。埃がない」
 家の中に入ったニニーは帽子を取り、手袋と防風眼鏡を取ってからあっちこっち見たり触ったりしながら言った。落ち着きがない。
「学生時代の友達が、掃除してくれてるみたい」
「へえ。つまり五年間帰ってきてなかったきみは迷惑かけまくりと言うわけだな」
 棚の中にある皿を掲げて見たりするニニーが言った。
「フフ、『迷惑かけまくり』。というのは撤回しよう。きみは、大いに役立ったよ。これは興味本位ではなくって、確信するために聞く。ライゼになってから、テレフォーン=パピーアの部屋に入ったことはあるか?」
 ニニーの面白がるような顔を不審に思いながら僕は答える。
「ないよ」
「二階には、彼女の部屋だけか?」
「そうだけど……、なんでテレフォーンの部屋が二階にあるって知ってるんだ?」
「簡単だよ」
 ニニーはさっき見ていた皿を取りだしていった。皿の裏。黒い文字。「商品は二階で」。
「どういう、意味だと思う?」
 ニニー特有の人を食うような笑み。
「……まさか……」
 僕は二階へ駆け上がった。二階の廊下。すぐにそれはあった。テレフォーンの部屋。僕は部屋の扉を蹴破った。
「……」
 窓にカーテンでもしているのだろう。薄暗い部屋の中で、誰かが居る。突如開いた扉を見て、驚いているようだった。
「だれだ?」
 徐々に視界がなれていく。
 そこにいたのは、見知らぬ男四人と見覚えのある、少女だった。
「……エニモル?」
 少女が僕の名前を呼ぶ。正しくは、もう少女ではないけれどその童顔から子供に間違われる女性だった。
「ここで、何をしているんだい? ……エスタ=ノーチェ」
 彼女は男四人を手で制すと、僕の方に歩み寄ってきた。
「久しぶり、じゃないよね」
「そんなことを聞いているんじゃない! お前は、ここで、テレフォーンと、僕の家で、何をしているんだ?」
 彼女は肩をすくめた。
「ちょっと借りてただけだよ。そんなに怒るなんて、らしくないなぁ」
「話を逸らすんじゃない。きみは、ここで、何をやっていたんだ?」
「た、たすけ、――」
 声がした。幼い声だ。その声の主は子供だった。エスタに気を取られて気づかなかったが、テレフォーンが使っていたベッドの影で男から口に靴を入れられている。僕がそこに駆け寄ろうとすると、エスタが間に入った。
「……もう一度聞くよ。エスタ。……お前は、ここで、何をするつもりなんだっ!」
 沈黙。
 くすくすと笑う声。
「エニモル……。この世界で生きる私達と、この世界で生きていない人たち。どっちが大切?」
 エスタが笑いながら言った。
「他の世界の人間が死ぬことで、私達の世界が幸せになるのなら、素敵なことだと思わない?」
 僕の右手は剣の柄に届き、かつての友人へ一閃を浴びせようとしたとき、怒号がとんだ。
「エニモル! そんなくずはきみが、その誇り高きヘビー・ザ・サンが糧にして良いような人間じゃない!」
 僕の手はぴたりとそこで止まった。
「……ニニー」
 小さな首領は僕の横に立つと、上着の中から一丁のシューターを取りだした。だがシューターと言うには小さく不器用な出来だった。それでも、使われている素材は最高級らしく、銀色が輝いている。
「私は、アウフ・エア・シューティング首領のニニー=サリヴァンだ。去れ。小物」
 エスタはきょとんとしていたが、男のうち一人が騒ぎ出した。
「お、おい、あれ、本物のマッチロックじゃねぇか?」
「……なに?」
 マッチロックというのは聞いたことがあった。エレクトールではなく、焔の力で弾丸を飛ばす火と鉄のシューター。
「よくみて見ろよ。あの材質、形、間違いない。あんな銃を持ってるのはニニーサリヴァンだけだ。……やばい。にげろ!」
 みるみるうちに逃走する男達。それを追ってエスタも逃げ出した。
 あっという間に静まりかえった部屋の中に入り、必死で僕に助けを求めた少年に近寄った。正しくは、少年と少女だった。
 ニニーがカーテンを開け、部屋に光が満ちた。黒い髪、褐色の膚。焦げ茶色の瞳。二人とも纏う雰囲気は違ったが、その点だけ一緒だった。
「もう、大丈夫だよ」
 声をかけてみたが、二人とも警戒しているようだった。僕が手を伸ばして縄をほどこうとしても嫌がられた。
「わるい人は居なくなったんだよ。名前はなんて言うの?」
 少年の方に声をかけてみたが、反応を示さない。
「……僕は、エニモル=ティア」
「名前なんて、ないよ。俺も、こいつも」
 少年は少女の方を指差した。
「じゃあ、僕がつけても良いかな?」
「……すきにしろ」
 男の子の方はそっぽを向いて言った。
「きみはマーニ。そっちの子はソール。どうかな?」
 二人とも僕の方を見つめた。凝視されると少し気まずい何かがある。
「マーニ……」
 彼は復唱した。
「気に入った?」
 マーニは頷いた。
「なら良かった……。君たちは、ここで、何を?」
 沈黙。部屋の中を漁っていたニニーが呟いた。
「凶悪な人身売買だよ」
「え?」
「ザハードは歯車なのさ。……自分の悪い臓器なんかを、この子のと入れ替えようっていうことだ。世界が違うから、さ」
「……。それ、本当か?」
「ロッキー=ティアが掴んでいた事実の一つだ。……疑ってるのか?」
 用心のためだろう。ベッドの下を漁っていたニニーが顔を上げ、こっちを見て言った。
 視線がぶつかる。
「にわかには信じがたいよ」 
「私もだ。けれど、真実を確かめに行こうとは思わないか?」
「どうすれば、判るんだ?」
 ニニーはゆっくり立ち上がった。
「簡単だ。ロッキーもやった。王立図書館で閲覧禁止の間がある。そこに行こう」
「……何か、策は?」
 ニニーは腰に手を当て、少し考えてから開き直るように言った。
「ない」
「……そんなことだろうと思った。僕に任せてよ」
「何をするんだ?」
 ニニーはこっちの方に寄ってきて、マーニとソールの縄をほどいた。
「協力者を募るんだ。僕の知り合いに、王立図書館につとめてる人が居てね」
「ほう。それは好都合だ」
「僕は今から会いに行く。だからニニーはこの子達を市役所に連れて行って、市民登録しておいて。あと、ここのライゼエスィヒに、相談しておいて」
「わ、わたしが?」
「うん。頼んだよ」
 僕は引き留めるニニーを置いて、外に出た。居るだろうか。居ないかも知れない。そう思いながらリーフェルングに跨った。
 向かった先は勿論バックシートドッグだ。扉を開けると、盛り上がっている四人組を見つけた。ベイビー、ヘルセイ、ホイテ、サイモンだった。
 サイモンはこの間思いっきり殴ったので顔をあわせづらかったが、僕に気づいたサイモンが手招きした。
「本当ごめんな」
 苦笑しながら椅子に座って言われたのはその一言だった。
「いいよ。思いっきり殴った僕も悪かった。何が何かわからなくって……」
「よし、じゃあ、これで解決だな……。それとさ、エニモル。エスタ、見なかった?」
 僕の指がかすかに震えるのが判った。
「あの人は、もう、来ないよ。きっと」
 ヘルセイが怪訝そうな顔をする。
「どういう事?」
 僕は目を伏せ、もう一度あけてから全てのことを喋った。ニニーや、この世界のことを。
「……。じゃあ、お前は、ライゼの任務でここにいるわけじゃないんだな?」
 ベイビーが言った。
「お前は、馬鹿だな」
 誰かが言った。しゃっくりをしながら。サイモンだった。
「別の世界にいる人間なんだろう? そこまで干渉する必要があるか? 今まで知らずにこき使ってたくせに、のうのうと生きていたクセに、どこまでも自分勝手だな」
 僕は思わず立ち上がり、殴ろうとする拳を、やっとのとこで押しとどめた。――途端、サイモンがとなりの机を巻き込みながら転がった。
「お前な……」
 ベイビーが怒鳴った。いつの間にか立ち上がっている。どうやら彼がサイモンを殴ったらしかった。
「……なにすンだッ」
 サイモンが赤く腫れ上がった頬をさすりながら立ち上がった。幸い周りに客は居なかったが、迷惑そうな視線を僕らは受け止めた。
 ――僕のせいだ。
 乱闘が始まるかと思うと、サイモンは唾を吐いてよろよろと店から出ていった。
「ごめ――」
「お前のせいじゃないさ。エニモル」
 僕が言おうとした言葉を、ベイビーは遮った。帰っていったサイモンをホイテが追いかける。そこでようやく僕は、彼女のお腹が不自然に大きくなっていることに気がついた。
「あれで、五人目だと」
 サイモンも、ベイビーも、立派な大人になって、何かを守ろうとしている。
「僕は――」
(――中途半端だ)
「じゃあ、俺は帰るよ。エニモル、ちょっと、人手が居る。ついてきてくれ」
 ベイビーは椅子にかけた上着を羽織り、机の上に紙幣を二、三枚おいた。僕もそれに倣って殆ど手をつけていない酒代を置いた。
「エニモル……」
 外に出てから、ベイビーは僕を呼んだ。着いてこいという意味らしい。言われたとおり着いていくと、見慣れた公園があった。柵と木とゴミ以外何もない殺風景な公園だが、愛着の――僕とベイビーにとっては――ある公園だった。
 ベイビーは太くて長い木の棒を二本取ると、一方を僕に向かって放った。
「五十七勝、五十八敗、三十二引き分けだったな」
 足の健を伸ばしたりしながらベイビーは言った。
「え?」
「いいから、久々に戦おうぜ。学生時代良くやっただろ? よくテレフォーンに止められたけどさ」
 確かに、昔は意地を張り合って喧嘩まがいのことをし、そこから発展して一緒に組み手を組んでいた。
「お前から先攻でいいぜ。いっとくけど、酒が回った俺は強いぜ」
 僕はつい笑ってしまった。
「自分で言うなよ」
 ベイビーもにっと笑った。
 僕は踏みだし、頭への攻撃――と見せかけて胴を突くが、簡単に弾かれてしまう。
 相手の反撃――左下から斜め上。後ろに跳んでかわす。
 頭上からの振り。――本気だ――。僕の持っている木の枝がベイビーのものと合わさった。乾いた音がする。
「くっそ。強いな」
 何かがぎりぎりと音を立てる。どちらの物かはわからないが、木の枝だ。
 僕はベイビーの脇腹を蹴りつけ、うずくまる彼に木の棒を向けた。
「……いてぇ」
「手段を選んでたら、自分が死ぬので……」
 言い訳がましく僕は言った。
 僕が手を伸ばすと、ベイビーはそれを掴んで、立ち上がった。
「もしも、さあ、ライゼじゃなくなったら、どうする? この件でさ。……黙って寝返ったんだろ?」
 ベイビーは服に付いた埃を払いながら言った。確かに、その可能性は無くもない。
「……一応、お前は俺たちの希望だ。今でもな。……自分で決めたんだろ? ザハードって言う、もう一つの世界を、子供達を、守りたいってお前が決めたんならそれを突き通せよ。いつか、何かが拓けるはずだ。……どんなに情けなくなっても、お前は俺達の希望で、親友で、戦友だろ? エニモル。……っと、こんな時間だから俺は失礼するぜ。じゃな」
 ベイビーは駆け足で公園を出て住宅街の中に消えていった。その背中を見送ってから僕はリーフェルングを取りに戻った。
 リーフェルングに跨ると、ちょうどヘルセイが出てきた。
「……じゃあ、明日、僕を仕事場で見かけてもしらんふりしてね」
 僕がいうと、ヘルセイも微笑んだ。
 リーフェルングを発進させ、家に戻った。
「エニモルッ! 遅い! そして報告!」
 玄関で仁王立ちになっていたニニーが言った。
「えっと、とくにめぼしいことは……」
「なに? きみは何をしに言ってきたのか早く言え。それなのに何もないなど――」
「ニニー、素直に『寂しかった』って言えばいいじゃないか」
 すっかり警戒心を解いたマーニが細長い机についてパンを囓りながら言う。ソールがくすくす笑った。
「う、うるさいなぁ! ソールも笑うな」
「すっかり仲良しだね」
 僕が言うとニニーは居心地悪そうに机につき、僕にパンを投げた。
「早く喰って寝ろ! 明日は早いんだから」
 僕も机に着いた。ソールの隣だった。
「……エニモル、エニモルはいつから戦ってるの?」
 戦うという言い方は少し心外だったが、それよりも今まで押し黙っていたソールが話しかけてくれたことが嬉しかった。
「僕はライゼって言う、悪いことをする人が居ないか取り締まる仕事をしていて、それに就いたのが五年前かな。けど、それ以上前から実習で戦ったりはしてたよ」
「……戦うの、痛くない?」
「どうして?」
「だって、人を殴ると自分も痛いし――」
 ソールの言葉は尻すぼみになって消えた。けれど、言いたいことは判った。
「痛いよ。痛いけれど、誰かを守るために戦いたい。誰も傷つかないですむ世界を――」
「私とエニモルが、それを成す。楽しみにしてると良い」
 僕の言葉を遮ったニニーの勝ち誇ったような笑みがそこにあった。















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