■2010年03月

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■イブッキーからのお題で「FIRE ! FIRE ! FIRE ! BURN UP THE UNIVERSE」

 世界は飛んでいる。
 けれど羽ばたく音なんて聞こえない。世界は奇妙なほど静かだった。
 世界の果てに僕は立ってる。何も聞こえない。世界は死んでる。
 昔の世界が見えた。全ては水のそこにある。
 息をすって呟いた。
「くそったれ」
 こんな世界は要らない。僕は世界の羽根を点検する仕事に就いた。長い道のりだった。でも、もうすぐ全て終わらせてやる。
 僕らの世界は飛んでいる。醜く、延々と。世界の真ん中に羽根はあった。羽根の中に入った。悲鳴が聞こえてくる。世界はもう限界だ。
「僕が終わらせるんだ」
 世界の悲鳴が聞こえる。ずっと聞こえる。生まれたときから聞いていた。
 僕が終わらせる。
 灯油の入ったあかい入れ物を羽根に落とした。
 入れ物はばらばらになって消え、中身は薄く伸びていく。
「六つ数えて、火をつけろ」
 ずっと世界は叫んでいた。
「もう、休みたいんだろう?」
 六つ数え終わった。マッチに火をつけて羽根に落とす。羽根が燃える。
 赤く、紅く、朱く。
 炎は世界を黒く変える。燃やしていく。
 歪んで。ねじれて。砕けて。裂かれて。吹き飛ばされた。
 何もない空間に僕が残った。
「きみは生きるべきだ」
 世界が目を覚ました。



 七年ぶりに昏睡状態から目を覚ました彼女は感慨深そうに遠くを見つめていた。
「気分はどうですか?」
 記者が彼女を取り囲む。
「不思議な気分です」
 木漏れ日。陽の光。それらを見ながら彼女は目を細めた。
「と、いうと?」
「夢を見たんですよ」
 彼女は初めて数十人の記者の方を向いた。
「よくは憶えていません。ただ、誰かが、私は生きるべきだ。と」
「それは、だれです?」
「たぶん、私自身だと」
 彼女は言った。
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■レッツ シー イフ ザッツ トゥルー オア ノット第二章・4





 僕は朝、目覚めると着替えるための服を持って外に出た。井戸の水を桶に汲んで制服を脱ぎ、下着だけになると桶の水を頭から被った。寒さで手足が震えるなか、持ってきた服に着替えた。久しぶりの私服だ。
 帽子以外の制服を部屋に持っていったあと手袋とマフラー、防風眼鏡を身につけ、 帽子を被った。
 リーフェルングに跨って発進させようとしたとき、声がかかった。
「本当に行くんだ」
 マックだった。僕は防風眼鏡を上にずらした。
「ついてきたいなんて言うんじゃないだろうな」
「いわないよ。ニニーの世話もあるし」
「じゃあ、僕はもう行くぞ」
 僕は防風眼鏡をつけた。
「頑張ってね」
 僕は何も言わず、リーフェルングは発進した。
 途中で馬車を追い越したりしながら、昼前にアウフに到着した。
 僕は真っ先に祖父の家。ライゼになるまで住んでいた家に向かった。殆どの荷物はベイビーにヴェステンのライゼエスィヒへ送ってもらったが、あの家には祖父との思い出が詰まっているからだ。
 祖父の家に行くと、当たり前だが何もなかった。ただ一つ、ベッドが僕の帰りを迎えてくれた。そのベッドに横たわり、目を瞑ってからあることに気がついた。
 埃が無い。五年も放置していたのだから、たつはずの埃が一つも立たないし、そんな臭いもしない。
 おかしいな。僕は呟いて体を起こした。テレフォーンだろうか。しかし、彼女ならとっくの昔に僕の居るヴェステンまで来るはずだ。それをしないと言うことは、何か理由があるのだろうか。どちらにしろ、夜まで待とう。そう思ってまたまた身体をベッドに寝かせた。
 見知らぬ人の骨のようなベッドでいつの間にか眠ってしまった僕は外を確認し、夜になったと確信した。
 そして外に出て行き慣れたあの道を辿り、見慣れた木製のドアを開けた。バックシートドッグの、扉だった。
「……」
 あの暖かな人たちを捜す。けど、見慣れた酒場の中、見慣れた人間は誰も居なかった。
「……」
 いつもみんなで座っていた円卓を一人で囲む。円卓の上に頬杖をついていると、僕はだんだんうとうとしてきた。
 暖かな時間があった。暖かな人々が居た。今では、もう居ないのか。僕は色んなものを失ってしまったのか。視界が薄く滲むなか、誰かが僕に声をかけた。
「エニモル?」
 入り口に立つ男。長身の男が居た。細身だがしなやかな筋肉を持っているそれは、ベイビーだった。甘さを捨てきったような精悍な顔立ちの青年、ベイビーがそこにいた。
「……ベイビー?」
「やっぱり、やっぱりエニモルか! はは。身長のびたな。お前」
 開口一番がそれとは、ベイビーらしいと思った。
 ベイビーは僕のとなりに座った。
「ライゼはどうだ? 休暇でも取ったのか?」
「うん。そんな感じ。みんなは? やっぱり、もう集まり悪いの?」
 待ち合わせても待ち合わせなくても集まっていたあのころのことを思い出す。ベイビーは哀しそうな顔を隠すように微笑した。それが答えだった。
「全然会えないわけじゃないんだけど、……もう一年は全員集まってないな。みんな仕事してるし、忙しいんだろうな」
「そっか……。ベイビーは? 何してるの?」
「ん? 実家の手伝い。これが結構肉体労働多くってさ……。もう、全然酒がのめねえ。お陰ですっかり呑まなくなった」
 ベイビーはいつもの、冗談でもかますような調子で言った。
「他のみんなは?」
「ん。エスタは養子案内所の役員。ヘルセイは、国立図書館の司書って言ってたかな。他は、よくわからん。そうだ。やっぱ、大変か? ライゼって」
 僕が答えようとすると、いきなり叫び声が聞こえた。
「あーっ!」
 僕は肩をすくめてしまった。その間に懐かしい影が二つ僕らの座る円卓に近寄ってきた。
「エニモル君?」
「ほんとだ。エニモルとベイビーが何も呑まずに居る。珍しい」
 エスタとヘルセイだった。学生時代親友同士だった二人は、今でも親友らしい。二人とも随分と大人びたが雰囲気は変わっていない。
「ベイビー、お酒やめたんだって」
「それ、本当に?」
 エスタの言葉を聞いてヘルセイが目を丸くする。
「まあ、座れ、二人とも」
 ベイビーが二人を椅子に座らせた。
「何呑む?」
 エスタが聞いた。これも懐かしい。彼女はよくこうやって全員の注文を聞いて店の従業員に伝えていた。
「リンゴ酒」
 ヘルセイが言った。
「黒ビール」
 ベイビーが言ってすかさずヘルセイが聞く。
「辞めたんじゃないの?」
「一杯くらい大丈夫だよ」
「エニモルは?」
 エスタが言った。
「じゃあ、僕はキュラソー」
「好きだなぁ」
「エニモルは割とそう言うの好きだったよね」
 ヘルセイとベイビーがもう酔ってるかのように絡む。これも懐かしかった。
「すいません、リンゴ酒と黒ビール、キュラソーを二つお願いします」
 エスタが店員に向かって叫んだ。
「エスタは、いっつもエニモルと同じもの頼むよねぇ」
 円卓に置かれたそれぞれの酒杯を全員が一口呑んでから、ヘルセイが言った。
「へ、ヘルセイ!」
 もう酔いが回ったのかエスタの顔は真っ赤になっていた。
「そうだったっけ?」
 僕がエスタに聞くと、エスタは顔を逸らしてから、
「ぐうぜんだよ」
 と言った。
「偶然ねぇ」
 久々のお酒を嗜んでいるらしいベイビーが言った。ベイビーはお酒をあまり呑むことが出来なくなったせいか、量を呑むタイプから味を楽しむタイプになったようだった。五年前のベイビーが見れば間違いなく「じれったい」という飲み方を今の彼はしている。
「偶然かぁ……」
 ヘルセイもベイビーににやにやしながら同調した。彼女は元々味や香りを楽しむ飲み方をする人で、お酒の減りは遅い。
「え? 違うの?」
 そんな二人と同じような飲み方を僕もしてみる。いつかヘルセイが話していた、香りを楽しみ、味を楽しみ、喉越しを楽しむとか何とか。
「……違うよ! 偶然だよ。偶然!」
 エスタは円卓をばしばし叩いた。
「それより、どう? ライゼの仕事は」
 エスタが言った。
「『どう?』って聞かれてもなぁ。でも、楽しい所ではあるよ」
 僕は一口酒を呑んだ。
「どんな人が居るの?」
「最近引退しちゃったんだけど、アートムングさんって言うお爺ちゃんや、色々指示を出すヴェンディさん。けんかっ早いメーレンさんに、色々雑用をしてるマック」
「それだけ? ヴェステンのライゼエスィヒはだだっ広いってきいたけど」
 それを聞いて僕の顔が苦笑するのが判った。
「うん。広すぎて、使ってないところがあるくらいだよ」
 事実二、三階あるうちの三階は殆ど使っていない上に二階はただの居住スペースである。あの人数であの広さはただの無駄だ。
「今度、いってみようかな……」
 エスタが呟いた。
「おぉ、名案じゃねえ? 今度行こうぜ。案内してくれよ」
「いいですね。みんなで行きましょう」
「いいけど、本当になにもないよ」
 そこには、人数は揃っていなくても暖かいあのころの空間があった。
「エニモルは、どこかに泊まるの?」
 もうすぐお開きになるとき、エスタが僕に聞いた。残りの二人はもう夢の中だ。僕らは途中から酒を呑まなかったので酔いつぶれることはなかった。
「昔の家に泊まるよ。あ……、もしかして、テレフォーン帰ってきてる?」
 エスタの柔和な微笑が凍り付くのが判った。
「どうしたの?」
「い、いや。何でもない。……どうしてそう思ったの?」
「家がやけに綺麗だったから、帰ってきてるのかな、って」
「ごめんなさい、それ、わたしなの」
 エスタは申し訳なさそうに言った。
 僕は聞き返した。
「きみ? きみだったの? でもどうして?」
「えっと、エニモルがいつ帰ってきてもいいように綺麗にしておこうかなって」
 僕は納得して一、二回頷いた。
「ありがとう、エスタ」
 酒で赤いエスタの頬がさらに紅潮した気がした。
「じゃあ、みんな明日も仕事があるんだろ? そろそろ二人とも起こそう」
 エスタも頷いた。僕はベイビーを、エスタはヘルセイを起こした。
 ベイビーは二、三度身体を揺さぶられて目を覚ました。
「エニモル? どうした?」
 ベイビーはかなり寝ぼけているようだった
「起きないと。明日も仕事あるだろ?」
 僕がそう言うと、ベイビーはすっくと立ち上がった。
「そ、そうだった。じゃあ、俺、帰るわ」
 ベイビーは酔っていておぼつかない足取りで酒場の扉を開けて出ていった。
「じゃあ、私も。あしたは蔵書点検なの。じゃあね」
 ヘルセイは平静を装いたかったようだが、やはりふらふらしながら壁にぶつかり、早足で酒場から出ていった。
「僕が払うから、エスタももう帰ったら?」
「え、あ、えぇと」
 エスタは迷ったようだったが、酒場の機械時計を確認して時間が相当遅いことを確認すると、頷いた。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
 エスタを見送ってから机の上に残った紅茶を飲み干して、僕は席を立った。
 外は想像以上に寒く、僕は身震いしながら家に帰った。祖父と僕。僕とテレフォーンのいた家へ。
 今、彼女はどこにいるのだろうか。
 寒空へ、白い息と共に呟きを送った。

■四月のおだい「桜」

 『I want some help(俺には助けが必要だ)
  To help myself(自分を救うためにな)
     (NIRVANA「Polly」)』



 今年の春は凄く寒かった。
 本当に桜が咲くのか。そんなことを思っていた。
 就職先が見つからなかった僕は親に意地を張って仕送りを断り、アルバイトだけで生活することになった。要らないものは捨てたり、売ったりするために部屋の整理をしていた。
「咲くよ。ぜったい」
 ポーリーは頭の中で言った。
 金髪の女の子は学生時代に買ったキャラクター小説の山に腰掛け頭の左右で結った髪を揺らしながら僕が売ろうと決めたギターをいじっていた。
 そうかなぁ?
「そうだよ。咲くね。絶対に」
 陶器のような顔は勝ち気な笑みを浮かべた。
 桜なんて咲かない。こんなに寒いんだ。咲くわけがない。
 アコースティックギターが鳴る。
 ポーリーが鼻歌を歌う。

  I want some help
  To help myself

 ニルヴァーナのポーリーと言う曲の一小節だった。僕はこの曲が好きだった。だから、彼女の名前にしたんだ。
 金髪の女の子がガールフレンドなんて幻想だ。だいたい金髪碧眼っていうのがもうナンセンスだ。あり得ない。こんな女の子は、僕しか知らない。僕しか見えない。僕しか触れない。
 鼻歌はまだ続いていた。

  She caught me off my guard
  It amazes me, the will of instinct

「なあ、その歌がどういう意味か、判ってるのか?」
 つい声に出して言ってみた。虚空に向かって。
「知ってるよ?」
 ポーリーはにやりと笑う。
「こんな事しないでね?」
 僕の妄想のくせに。
「でも幸せでしょ?」
 否定は出来なかった。そんな僕を見てポーリーはにたりと笑う。
 僕が顔を逸らすと、窓から、外にある桜の木が見えた。
 枝についている、大きな蕾を見た。
 誰かに押し倒された。そんなばかな。
「けどやっちゃもんね」
 ポーリーの重さを感じる。あと、熱も。そんなわけない。
「けど私はここにいるもんね」
 いや、だからそんな――。
「ほら、蕾が大きくなってるでしょ?」
「……」
「咲かない花は、無いんだぜ……?」
 なんだよ、それ。
「とにかく、ユキトには必要でしょ?」
 なにがだよ。
「自分自身を救うための、助けがサ……」
 部屋はしんと沈黙した。
 なんだよ。急にだま――。
 ポーリーが僕の首に手を回した。暖かい。いやばかな。
「私が助けてあげるよ」
「……妄想のくせに……」

■Happy through friend 紹介


  I'm so happy
  Cause today I found my friends
  They're in my head

     (NIRVANA「LITHIUM」)


 アルバイトをしながら、ぼんやりと夢を探す主人公。
 孤独な彼はある日頭の中で友達を見つける。

有川 ユキト
 アルバイトで生計を立てる青年。
 孤独。

ポーリー
 ユキトの頭の中のガールフレンド。





これは「MO12」という企画での作品です。
mo12_88_31.gif
MO12

お題内容

4月/桜
5月/子ども
6月/潦(にわたずみ)
7月/ほうき星
8月/終日(ひねもす)
9月/天満月(あまみつつき)
10月/行楽
11月/落葉
12月/柚
1月/七草粥
2月/福は内
3月/卒業

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■実験小説 「I only sugar in tea 」

 僕が何をしたって言うんだろう。
 僕は喫茶店のオープンテラスで紅茶を飲もうと思ってた。大通りを通る車や人を見ながら紅茶を飲む気分だったのだ。だからそうしようと思った。
 だが予期せぬ出来事が起こってしまった。
 僕を黒い怪物が睨む。
「これ、どうするの?」
 マサイ族みたいな体色。ボサボサで黄ばんだ髪の毛。しかし服装は女子高生その物である。最近の留学生はマサイ族らしい。
「ねぇきいてるの?」
 化け物が言った。
 僕はどう答えようか迷ってたんだ。まさか町中でマサイ族に出くわすなんて思わなかった。しかも日本語を話している。
 化け物は僕の外見で悪いところをでっち上げた。
「髪の毛がボサボサだ」
 これは天然だ。おまえだって髪の色が黄ばんでる。
「顔が白くて今にも死にそう」
 おまえは黒すぎる。
「身体がもやしみたい」
 おまえは熊みたいだ。
「そのTシャツ、絵柄がださい」
 おまえの存在よりマシだよ。
「そのジーンズ、ぼろぼろじゃん。お金無いの?」
 おまえのその黒い制服のスカートはおまえのその黒い脚と一体化してコンニャクに大根が生えたみたいだよ。
「だいたい、あんたの紅茶が私のスカートに飛んだんですけど」
 しかし、まあ確かに言われるとそんな気はしてくる。
 僕は髪の毛がボサボサ。
 もやしみたいな身体。
 絵柄のださいTシャツ。
 そしてお金がない。
 その上就職しそこねてもう全て、全体的に、お先真っ暗だ。
 何事にも弱気で意欲がないし、頭が悪い。
 でくの坊でうどの大木。
 そのくせ誇りは人一倍。
 女の子とは喋れないし、友達も居ない。
 未来なんて知ったこっちゃない。
 昔のことは思い出したくない。
 今は今暮らし。
 ホームレスのお爺ちゃん一歩手前。
 むしろホームレスのお爺ちゃんの方が綺麗。
 老い消えていくなら燃え尽きた方がマシだと銃をとる勇気すらない。
 唾を吐いたらその場から全力疾走。
「おまえ迷惑なんだよ」。言えたは良いが相手は壁。
「君が好きだ……」。言えたは良いが相手はスズメ。
「きみは美しい……」。言えたは良いが相手はカラス。
「きみのためなら死ねる!」。言えたは良いが相手はハト。
「キミの瞳は百万ボルト」。地上に降りた最後の天使。
 気がつくと、化け物を誰か説得していた。
 店の制服を着ていると言うことは、店員らしい。
 絹のような体色。黒く艶のある長い髪。清楚な店の半袖、スカートと相まって清楚な印象。
 化け物はどこかへ退散し、彼女はこちらを見た。
「彼女、随分怒ってましたけど、どうしてですか?」
 僕はいきさつを説明するべく事の発端を話そうと思った。
「僕は、ただ――」
 相手の顔を見れず、つい俯く。

「僕はただ、紅茶に砂糖を入れただけなんだ」




       了
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■レッツシーイフザッツトゥルーオアノット第二章・3




 トンチョクに行った旅の話をあらかた話し終えた頃には、もう日は完全に暮れていた。
「……」
「もうこんな時間だね」
 マックは悪気など微塵もなさそうに言う。もう慣れてしまったので怒ることも出来ない。ライゼになって初めて驚いた事は、試験中のマックと、普段の彼女の性格はひとつも一致しないという事だったのを思い出す
「すみません。沢山話していただいて……この足ですから、外に出る機会もなくって……」
「買いものとか、私が手伝ってるんだよ」
「……歩けないんですか?」
「まったく、というわけでは」
 マックを無視したが、会話は長く続かなかった。
 暖炉の中で火がはぜる音がした。
 最近は配給される穀物が少なくなってきていやが上にも働かざるを得ない環境になってきているが、この店は改築されたようだから物を売りたくてしているのだろう。
「この店も、友人から譲り受けたもので……。たたんでしまおうかと思ったんですが、出来なくって」
 僕は一人頷きながら展示されている骨董品のような品々を見た。ここに来てからすぐ旅の話をさせられたのでまじまじと見たことはなかった。
「商品も、友人から譲っていただいたものです」
 シューターやエレクトールの使えなさそうなものが沢山置いてある。
「へぇ……。これ、メーレンさん喜ぶんじゃないかな」
 と言ってシューターを指差した。
「そうなの?」
 僕の隣でマックが言った。
「え? あの人、色んなシューター集めてるだろ? 知らないのか?」
「しらないよ。あの人にそんな趣味あったの?」
「うん。この間ちらっと見かけたら鼻歌交じりに手入れしてたよ」
「あんまり聞きたくなかった」
「差し上げましょうか?」
 僕らがそんな話をしていると、ニニーが言った。
「いや、悪いよ」
 僕が断ると、マックは意地の悪い笑みを浮かべて言った。
「メーレンさんのご機嫌取れば、今度の休暇でアウフに行けるかもよ」
 この間、五年ぶりに故郷に帰ろうという話をヴェンディにすると、「メーレンからの許可がおりれば行って良い」ということになり、メーレンにその話をすると、しこたま罵声を浴びせられたうえに日に日に威力の上がるシューターで撃たれそうになったのだ。マックは時折、どこから仕入れたのか判らないその話を、僕を茶化す事に使った。
 僕は展示されているシューターの値段と数分にらめっこし、故郷である首都に一度帰りたいという気持ちの勝った僕は、それを買うことにした。
「割引しましょうか?」
「いや、必要ないよ。ね、エニモル」
 ニニーの差し出した救いの手をマックが意地の悪い笑みを浮かべながらうち払ったせいで、僕の財布はすっからかんになった。
「ちくしょう……」
 僕は店の外でぼやいた。買った物はポケットの中だ。ご丁寧に箱までつけてくれた。
「……」
 マックが何か思案するような顔で黙ってこっちを見ているので、僕は不安になった。こいつにそんな真剣な顔が出来るなんて。
「なんだよ」
 心配になってきた僕は言った。
「いえ……。ヴェンディさんやメーレンさんと話すときが私と話すときと随分しゃべり方が違うように思うんだけど」
 そんなことだったのか。僕は心配した自分が馬鹿らしく思えた。
「それは、きみが年下だから。乗って」
「……え?」
 聞き返すなんてマックらしくないな、と思った。
「ほら、帰りも僕に乗せてもらう気満々なんだろ? ったく、きみのせいでアートムングさんの所に行き損ねた」
 僕は手袋をしながら言った。
「今から行く? それくらい付き合うけど」
「メーレンさんにどやされるからやめておく」
 そう言って帽子を被ってから防風眼鏡をつけ、リーフェルングを発進させた。風のせいで聞こえなかったが、マックのいたずらっぽい笑い声が聞こえた気がした。
 ライゼエスィヒの広間には、ヴェンディとメーレンが居た。二人は暖炉の前で暖を取っていた。
「今戻りました」
「おぅ、おかえり。どうだった? ニニーの所は」
 暖炉の前でコーヒーを飲むヴェンディが言った。
「知ってたんですか?」
 僕はヴェンディの言葉に驚いた。僕も暖炉の前にたつ。
「あのね、ぼくは元々経済学の教授だったんだ。この地域の店は全部把握してるよ。面白いシューター、いっぱいあったろ?」
 ヴェンディのその言葉に、メーレンが目を輝かせたのが判った。
「あぁ、そうだ。メーレンさんにおみやげが」
 と言って僕はさりげなく賄賂的なおみやげをポケットから取り出した。
「私に?」
 流石にメーレンも面食らったようだった。手渡した箱を開けると、メーレンの顔はぱぁっと輝いた。
「……グスターヴホルスト・マーズ ザ ブリンガー オブ ウォー モデル……!」
「メーレン、そんなにシューター詳しかったっけ?」
 ヴェンディが言って、我に返ったらしいメーレンは僕のみぞおちを殴ると、襟首を掴んで耳元で囁いた。
「何で知ってるんだよ」
「いえ、この間、暖炉の前で鼻歌交じりに手入れしているのを見て……」
 目をそらしていても見えるメーレンの殺気しかない紅い瞳を必死に視界から外す。脂汗がこれでもかと言うほど頬をつたうのが判った。
「こんな大勢居るところでしゃべってんじゃねぇよ」
「……」
 冷や汗をだらだらかきながら僕はどうすれば生き残れるかを考えていた。
「メーレン」
 ヴェンディが言った。
「早く、情報をまとめよう。最近よく出没する反政府組織、アウフエアシューティングについて」
「わかったよ」
 メーレンは僕から離れた。殺されなくて良かったと僕は安堵した。
「北部での目撃証言があったところをさらってみたが、人が居た痕跡はあった。だが、どの場所にも誰も居ない。全六ヶ所。その全てが廃墟だった」
 メーレンは淡々と報告する。マックはそれを手帳に書いているようだった。
「エニモル」
 ヴェンディが言った。僕は一歩前に出て報告する。
「こちらも同様でした。人が居たという痕跡は残っていましたが、誰も居ませんでした。全五カ所。全てが廃墟です」
「……わかった」
 ヴェンディは腕を組んで何かを思案しながら言った。そして一言
「泥沼だな」
 と呟いた。
「今日は解散しよう」
 手をパン、とならしてからヴェンディは言った。解散と言っても、全員がこの巨大なライゼエスィヒに住んでいるのだから、解散も何もないが、それぞれの部屋へ散らばっていった。
 僕も自分の部屋に戻ろうと思ったとき、呼び止められた。メーレンの声だ。
「なんでしょうか」
 殺されると思って身を強張らせながらも僕は答えた。
「お前、アウフに行きたいって言ってたな?」
 メーレンはマックのまとめた書類を読み直しながら言った。
「は、はい」
「いってこい。この件も泥沼だしな。一回気分転換してこい」
 メーレンとは思えない様な優しい言葉だった。
「あ、ありがとうございます」
 僕はお辞儀をすると部屋に駆け足で戻った。
 五年ぶりの、故郷だ。そう思いながら僕は眠った。

■レッツシーイフザッツトゥルーオアノット 第二章・2




「なんで僕がきみを送らないといけないんだ」
 ライゼエスィヒの前で頭を抱えながら僕はぼやいた。
「いいじゃん」
 早くもリーフェルングに跨っているマックが言った。
「よくないよ……。ヴェンディさんも、何考えてるんだか」
「ねぇ、早く行こうよ」
「そういえば、ニニーさんて、だれ?」
「友達の女の子。何か、意味のわかんないもの売ってる」
「……へぇ」
 僕はリーフェルングに跨っているマックに予備の手袋を渡した。
「寒いから。この時期」
 僕はマックの前に座ると、リーフェルングの電源を入れた。リーフェルングは低く唸って息を吐き出した。そして、ゆっくり走り出した。
 リーフェルングはすぐに馬よりも早くなり、会話も出来ないほど風を感じることが出来た。マックは僕の脇腹を左右につついて指示を出した。右脇腹をつつけば僕は右折し、左の脇腹をつつけば僕は左折する。
 案内されてからしばらくして、大通りから少し離れた所に、小さな家を改造した店を見つけた。そこが、マックの行きたいニニーという少女の住む家なのだろう。
 僕はリーフェルングをその店の前に止めた。
「じゃあ、僕はアートムングさんの家に――」
「あぁ、ニニーもエニモルに会ってみたいって言ってたから、ちょっと話し相手になってやって」
「僕が? どうして」
「あんたは、巷ではちょっと有名なの。自覚ある?」
「ないよ、そんなの」
「私達の中で、旅好きなのはあんただけなの。ほら、ニニーに話をしてあげて」
 無理矢理店の中に入れられながら、なんだよ、それ。と言おうとしてどういう理由か判った。
「あ、いらっしゃい」
 小さな店内で店番をしている少女が微笑んだ。彼女がニニーなのだろう。寒がりなのか頭から足の先まで防寒具を身につけているが、一番目を引くのは木製の車いすだった。彼女は、足が悪いのだ。それで、外に出たことがあまり無い。マックが色んな話をしてやれと言ったのもそう言う理由だろう。
「ニニー、念願のエニモルを連れてきたよ」
「……彼が……?」
 彼女の不審そうな顔を見て、僕は慌てて防風眼鏡と帽子を取った。
「初めまして。エニモル=ティアです」
 彼女の白い顔が微笑んだ。その瞬間はらりと、一房だけ髪の毛が毛糸の帽子からこぼれた。その髪の毛の色は、黒かった。
 テレフォーンだけの色のはずだ。
 声には出なかったが、口がぱくぱく動くのが判った。
「エニモル、どうしたの?」
 マックに言われて、僕は平静を装ったが分かり易かったのか、すぐにばれた。
「この髪の色でしょう? 珍しい色だと良く言われます。この国の人は皆、銀か金か赤かの美しい色をしていますから」
 ニニーは一房出た黒髪をなおしながら寂しげに言った。
「え、いや、そういう意味じゃないんだ。えっと」
「テレフォーンさんも、黒い髪だったよね」
 僕が口ごもっているとマックが言った。助け船を出してくれているのだろうか
「テレフォーン?」
「そう。エニモルの幼馴染みだよね。っていうか、恋人?」
「違う違う」
 僕は慌てて否定した。
「僕は黒い髪の人を今まで一人しか見てなかったから、驚いたというか、何というか」
「私も初めて見たときは驚いたよ」
「そうだったんですか」
 彼女は微笑んでいる。どうやら、怒ったりはしていないようで僕は正直安心した。外見的なことで差別するのはタブーなのだ。
「わたしは、ニニー=サリヴァンといいます。初めまして」
 僕はお辞儀をした。
「じゃあ、早速、色んな話してよ。エニモル」
 マックが言うと、ニニーは期待の目をこちらに向けながらも言った。
「そんな、お仕事中でしょう? 邪魔しちゃだめよ」
「いや、それが行き詰まってるんだな」
「最近出回ってる反政府組織の話? だったら、尚更――」
「いや、このエニモルも出かけようとしてたみたいだから、トンチョクまで行かれないうちに、会って貰おうと思って」
 マックがそう言うと、ニニーはくすりと笑った。どうやら、僕が仕事をさぼってリーフェルングに乗って東の端。このヴェステンと逆方向にある最果ての領地、トンチョクまで行った話は結構有名らしかった。マックの言っていたことはこういう事か。
「今日は引退した先輩に会いに行こうと思ってただけだよ」
「ニニー、エニモルがメーレンさんに跳び膝蹴りをくらって気絶する前にいった言い訳。なんだと思う?」
 僕が反論するとマックはもう思い出したくない話を引きずり出してきた。
「なに? なんて言ったの?」
 ニニーも遠慮なしだ。
「『そこにトンチョクがあったから』」
 口調や声色まで真似てマックは言った。ニニーは文字通り腹を抱えて笑っている。そこまで面白い話だろうか。
 僕はただうつむくだけだった。
page2.jpg

■レッツシーイフザッツトゥルーオアノット第二章・1

第二章

 僕は相棒の背中から降りて、ライゼエスィヒに入った。薄い牛皮の手袋を脱いで、防風眼鏡を帽子の上にずらした。
「いま戻りましたァ」
「おぉ、エニモル君、どうだった?」
 専用の書斎からひょこっと顔を出したヴェンディが言った。
「やっぱ、山賊ですよ」
「シューターもってそう?」
「持ってると思います。今はやりの連射できるやつ」
「やっかいだね」
「ですね」
 僕は広間に置いてある自分の机に防風眼鏡と手袋を置いた。
「エニモル君さぁ、ここに来てから何年だっけ?」
 ヴェンディは完全に書斎に引きこもったようだった。声だけが聞こえてくる。
「……五年ですね」
「何歳?」
「二十三です」
 言いながらもうそんなに経つのかと思った。
「老けたね……。僕もきみも」
「そうですね」
 五年。ライゼになってそれだけ経った。なのに、テレフォーンは現れなかった。
「あぁ、マック、探してたよ。きみのこと。『二人で行動するのが常だ!』って」
「あー……」
 僕は無意識に頭を掻いた。
「いつでも女の子の尻に敷かれてるね」
 というヴェンディの声が聞こえたが無視した。
「居たッ!」
 声を聞いて僕はやっぱ帰ってこなけりゃよかったと思った。
「何でそうやっていつも一人で行動したがるんですかァ?」
 銀色の髪を揺らしながら現れたマックは早くもけんか腰だ。
「何かあったら面倒でしょー?」
「何かってなに?」
「さらわれるとか?」
「きみが? だったら尚更置いていこう」
「君たち仲がいいねぇ」
 ヴェンディの声が聞こえた。今頃したり顔でコーヒーを飲んでいるに違いない。
「よく見えますか? これが」
「みえるみえる」
 書斎から出てきたヴェンディはやはりコーヒーを片手に現れた。
「メーレンさんは戻ってきてないんですか? 早く情報の交換がしたいのに」
「きみと違って馬車だから。遅くなると思うよ」
 僕は祖父がアートムングに渡したというエレクトールで動く乗り物を使っていた。僕がライゼになったときに手渡された代物だった。
「メーレンさんにはついていかなかったの?」
「あの人は強いから大丈夫なんです」
 そう言われてあることに気がついた。
「……もしかして、ただリーフェルングに乗りたいだけ?」
 リーフェルングとはエレクトールで動く乗り物の名前である。名付け親はメーレンだった。
「……」
 マックは顔を逸らした。図星だ。
「心配なら迎えに行けば?」
 ヴェンディがコーヒーを傾けながら言った。
「いや、あの人なら大丈夫だと思います」
「だよね」
 メーレンが負けることは無いというのは僕らの共通した見解だった。少なくとも、そこいら辺の山賊相手に負けることはないだろう。
「じゃあ、私はニニーの所に行こうかな」
 マックはちらちらこっちの方を見ている。
「なに?」
「ニニーの家遠いんだよねぇ」
「だから?」
「判れよ」
「いやだよ」
「やっぱきみたち仲良いよね」
 ヴェンディが言った。
「僕は、アートムングさんの所に行こうかな」
「きみも、好きだね」
 アートムングは最近ライゼを引退してしまった。
「祖父の話を聞きたいので」
 ヴェンディは口元に手をあてて考えるそぶりを見せた。
「エニモル君」
「はい?」
「送ってあげなさい」
 上司命令だから。と、ヴェンディは付け加えた。

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