■2009年09月

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■六十頁

「やはり、憶えていませんか。そうですよね。……仲良く、遊んだものですが。」
「……?」
 ルーシルアは不思議な気分になった。こんな少女は、見覚えもない。だが、どこか懐かしいのだ。そしてその気持ちはどんどん大きくなった。
「あ、拾うの――」
 地面に散らばった棒のようなものを見て、ルーシルアはそれを一つ拾うと、見入った。剣だった。鉄剣だった。
「これ、貰っていいか」
 少女は頷いた。
「……ごめん、おれ、行かないといけない。――ごめん」
 少女はしばらくルーシルアを見つめ、頷いた。
 ルーシルアはまた走り出そうとして、足を止めた。
「俺は、ルーシルア。君、名前は?」
「……ファンタン。また、いつか会えるといいね」
 ファンタン――「正義の使者」を意味するその言葉に、ルーシルアは微笑んだ。そして、去った。
 ルーシルアの去った場所で、ファンタンはしばらく雷に打たれたように呆然と立ちつくし、そして、後を追った。



 顔に何かが当たる感触で、目が覚めた。
 さっき見た夢を思い出しながら、何となくため息をついた。
 ルーシルアは石の部屋で寝かせられていた。天窓から朝日が差し込んでいる。いま横になっているベッドも、表面は柔らかいが、中の方は石らしい。
 また、顔に、頬に何かが当たった、湿った感触。そっちの方を見ると、銀狼がルーシルアの頬を舐めている。若い。
 半身を起こして周りを見ると、銀狼達が仲良く寝ている。その中に、サークナヤも混じっていた。
「……」
 どういう夢だろうか、と思いつつ、半身を起こした影響で腹部に激痛がはしり、そこを押さえながらベッドに横たわった。
「……」
「お目覚めですかな」
 天窓から覗く太陽の光を見ていたところに、声がかかった。
「よく、眠れましたか、ルーシルア殿」
 となりにいる銀狼が、おとなしく座っている。気性の荒い狼に至っては、かなり珍しい事と言えた。
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■五十九頁

「ひゅっ」
 ファンタンのうめきが聞こえ、彼女は地面に片膝をついた。
 ルーシルアは身体ごとファンタンの方を向いた。
「……」
 ファンタンは右の脇腹を押さえ、ルーシルアを見ていた。
「……が悪いんだ……! お前達が、悪いんだッ!」
 ファンタンが不意に跳躍したかと思うと、身体の皮膚がすべて裂け、その中から金色の体毛をした狼が現れた。それも、金色の鎧を着たような狼で、鎧からは何枚も刃が突き出ている。
「……私は、悪くない……」
 泣きじゃくったような声だったが、声だけが響いてくるだけで、泣いているかは判らない。
「……来いよ」
 両手を広げるような形でルーシルアは言った。ファンタンも駆ける。大きく口を開いた狼が、ルーシルアの腹に噛みついた。
 よけることもできただろう。だが、狼はルーシルアの腹部に深々と牙を突き立てている。
 ルーシルアはファンタンをやさしく抱きしめた。
「……いつか、本当に、自分が悪くない、と言い張れる時代が来るはずだ。それまで……それまで、ちょっと長いから、俺のせいにしてくれ」
 狼は白い煙のような光を出しながら、人間に戻った。
「あなたは、どうしてそんなにお人好しなんですか」
 ルーシルアは弱々しく微笑んだ。
「それが、俺の罪の償い方だ」
 ルーシルアは卒倒した。



 少年は奔っていた。逃げていた。
 日はもうとくに沈み、押し寄せる虫の群もものともせず、奔っていた。満身創痍で、何もかもがおぼつかなくなる中、ただひたすら奔っていた。
 ふいに、虫で視界が遮られ、それでも奔ろうとすると、ルーシルアは何かに当たった。何かが散らばる音がした。
 少女が、そこで倒れていた。外套で全身を覆い、顔すらも隠していた。
「……す、すまん」
 ルーシルアははっとなって手をさしのべた。
 少女の相貌がルーシルアを受け止めると、少女の顔が上気したようにみえた。
「……まさか、こんな所で、あなたに出会えるとは」
 少女は言った。
「……君は、いったい?」
 少女は、少し微笑んだ。

■五十八頁

こうとも思ったが、サークナヤを置いていけば、自分を捜し、この迷路のような坑道で迷ってしまうだろう。
 そうして、ファンタンを追った。ファンタンは思ったよりもはやく立ち止まった。
 目の前には、聖堂のようなものがある。白い石で作られた石畳を積み重ねて、壇上にし、そこに何本も柱を立て、屋根を置いている。
「……」
 そこから二つの影が出てきたかと思うと、褐色の肌をした少年と、ファンタンだった。
「……お前が……獣使いね」
 もっと違う何かを想像していたため、ルーシルアは少し狼狽した。
「……ファンタン……やってくれるね?」
 少年が言った。
「……えぇ。ムウ。……あなたに仇なす者を、私が、倒してみせます」
 ルーシルアはサークナヤを後に下がらせ、その光景をさもつまらなさそうに見つめた。
「終わったかな、ささっと終わらせたいんだ。そして、サークナヤと一緒に〈碧の国〉に行く」
「……〈碧の国〉……。残念ですね。あなた達二人は、今ここで、私に、平げられてください」
「『平げる』? 随分と野蛮だな。ファンタン。そんなに今の首輪が大事か。もっと自由に生きる事ができないのか」
 ルーシルアは呆れた風に言った。右手は腰に当てている。
「……私は、私の意志で、こ、これを、やっているんです!」
「良いように利用されてるだけだと思うね。知ってる? 『ヴァイス・フント』って。お前、それにそっくり」
 おとぎ話の一つで、白い犬が黒い犬に良いことだと騙されてやったことが、実は悪いことで、白い犬は黒い犬に良いように騙されていた、と言う内容である。
 ファンタンの眉間に皺が寄る。
「その、減らず口も、もう、たたけなくしてあげましょう」
「おぉ、こわいこわい。今のうちにたたいておくか。減らず口」
 ファンタンが跳んだ。四肢はひぐまのように太く、金色の毛で覆われ、巨大なかぎ爪が生えていた。
「あなたのせいだ。あなたのッ!」
 すべての攻撃をひょいひょいよけ、剣も抜かず、そのさまを腕を組んで見ている。
 ふと、いつかの剣術修行の時を思い出した。その頃のムラースも、ルーシルアの攻撃をひょいひょい避け、腕を組んみ、優しい顔で見守っていた。少なくともルーシルアにはそう見えていた。当時ルーシルアにとって、ムラースはある意味母親のようであり、サクナは姉のようであり、レーベンは兄のようであった。
 本来ならここで、ここがこう悪い。だとか言う必要があるが、ルーシルアは黙っていた。そして、攻撃が当たらないことに焦ったファンタンが、大振りの攻撃をした。
 ルーシルアはその瞬間を見逃さず、剣を抜き、柄を片手でもってファンタンの脇腹をえぐった。

■五十七頁

「……わかった。ただし、俺たちが〈碧の国〉へ行けるように、案内してくれ」
 男は殆ど頭を振るようにして頷いた。
「……よし」
 ルーシルアは、目の前にある大きな肉をひょいとつまむと、一気にほおばった。
「まただ! また、あいつが出た!」
 一人の男が飛び込んできた。
 二人はもうすでに食事を終え、うたた寝していた。
「起きてください!」
 頭を叩かれ、目が覚めた。完全に目が覚めているのがルーシルアの常である。
 サークナヤも目覚め、二人で外に出た。
 何匹かの銀狼の中に、銀のクロークを来た女が、居た。緑色の髪。
「……」
 ルーシルアは目を丸くした。それが少女だった、とか言う問題ではなく、その少女は、紛れもなく、ファンタンだった。
「ファンタン」
 強い口調で声をかけた。
 その間にも、狼達は迫っている。
 ルーシルアがちらりと狼達を見た。殺気溢れる狼である
「……お前、自分が、何をしているのかわかっているのか?」
 静かに問うた。
「……誰かと思えば。殺人鬼のあなたに、諭されるなんて」
「てめえの安い正義感につき合ってる暇はないんだ。どけ」
 ――ばちん
 狼達がことごとく情けない声を上げ、地面に伏した。
「……安い?」
 ――ぎらり。とぶ眼光。
「安いな」
 ファンタンの眼光をよけ、ルーシルアは飄々と言った。
「ここであったのが、あなたの運の尽きです。わたしは、あの人のために――」
「赤面症だったやつが言うねぇ」
「……あなたの安い挑発には、のりません」
 ファンタンが両手を掲げると、皮膚が割れ、中から金のふさふさした腕が現れた。
 巨大なかぎ爪が、音を立てる。
「のりのりじゃねえか」
 ルーシルアは剣を抜いた。
「……ですが、ここは分が悪そうです。……ついてこれるのなら、どうぞ」
 ファンタンは、石を投げようとする坑道の住民達を一瞥し、言った。
 そして、疾走した。速くはない。ルーシルアは咄嗟にサークナヤを抱え、奔った。置いてい

■五十六頁

 両壁に松明が連なって燃えている。
「……この場所はもう使われていないはずだが……」
 サークナヤを起こさないよう、話し声が小さくなる
 火打ち石を出そうとした手を引っ込め、そのまま腰に当てて辺りを見回した。
 異様に明るい。
「……燐石も使ってるな。これは」
 燐石とは、明るく発光する石のことで、城などの壁によく埋め込められていた。しかし、消す手段がないことから、次第に使われなくなった。
 その明かりに釣られ、歩を進めると、あまりの明るさに仰天した。まるで昼のように、橙色の明かりが一面に広がっている。
 両壁からは松明が消え、その代わり、石を削って作られた青白く光る家屋が、いくつも並んでいる。
 その幻想的な場所をサークナヤに見せたくなり、起こそうとして――やめた。寝かせておこうと思ったのではなく、周りに人の気配があることを察したからである。
「……出てこい」
 ぞろぞろと出てくる人皆猫背で、紙を丸めたようなくしゃくしゃの肌をしていた。
「あなたを、高貴な旅人と知ってお願いがあります」
 いきなり出てきたしゃがれた声に、びく、っとなった。
「まず、旅でお疲れでしょうから、こちらへ……」
 にこにこ顔の男が言った
 連れられ、入ったのは、どうやら宿であるらしかった。
「あなたが来ることを、我らは石占いで察知したのです」
 目の前に並べられる食べ物の数々。
「さ、どうぞ。お召し上がり下さい」
「……ここまでして、こなして欲しい用件てのが、あるんじゃないのか?」
 にこにこする男の顔が引きつった。
「もう使われていない坑道に、なぜ人間が居る」
「……我々は、この鉱山の入り口の周りに住んでいた者達であります。我々は疫病に冒されながら、この中に逃げ、こうやって生き延びております。……この建物を見れば、その腕前は理解していただけるでしょう」
 そう言われ、確かに、と頷いた。
 机も、椅子も、壁もすべてが石で、細かな彫刻に至るまで精緻で非の打ち所がない。
「……ですが、あいつがやってきてから、。すべてが変わりました」
「あの男は、ここを新たな街として拓こうと準備を進める我々の輪には入り込んだかと思うと、あ、っという間にその獣を操る技で銀狼共を引き連れ、さらには、妖獣までも……とても、我々の手に負う相手ではありません。……どうか、助力をお願いいたします」
 ルーシルアは何度か頷き、目を泳がせ、目を覚まして目の前のご馳走を喰らうサークナヤを見た。

■五十五頁

「……レーベン……」
「……!」
 その光景は、端から見れば、ルーシルアがサクナを殺したようだった。
 芝生に箱が落ち、蓋が開くと同時に、か細い旋律を奏でた。
「……お前……ッ」
「……」
 否定もできないまま、気がつけば一目散に逃げていた。
 背中からは、誰かの、悲痛な、叫びが聞こえた気がした。



「……」
 沈黙――。
「あいつの言うとおりだ。俺は、お前を、利用していたのかも知れない」
 沈黙を破って、ルーシルアが言った。
「ルーシルア、その話は、本当?」
 サークナヤが訊いた。
「あぁ。……お前にだけは、真実を話さないと、いけないだろ」
「……私が、〈碧の国〉に行こうとしたのを、手伝ってくれた理由は?」
「お前が、サクナに見えた。うり二つだった。……本当に、すまん。……俺は、俺は……」
 そう言っていると、頬に何かが当たった。サークナヤの拳だった。どうやら、殴ったらしい。
「……サークナヤ?」
 やはり、失望されたのだろう。自分でもそうする。というルーシルアの思考を、サークナヤが気丈な笑みを持って吹き飛ばした
「昔のことは昔のこと! で、あたしを、〈碧の国〉に連れて行く? 行かない?」
 それにつられてルーシルアも笑った。
「連れて行く。必ず。」
 ルーシルアは、その強い眼差しで、サークナヤを見た。
「〈碧の国〉の近くに通ずる、地下トンネルがあるらしい。そこを、通ってゆこう」
 サークナヤは頷いた。
 真夜中なのにもかかわらず、ルーシルアの周りに動物たちは寄りつこうとしなかった。ルーシルア自身、呪いの存在を忘れていた。

 明け方、ルーシルアはサークナヤを背負いながら、地下トンネルの入り口を見つけた。周りは、さびれ、誰も住み着かなくなった炭坑街である。炭坑から何も出なくなり、それが丁度〈碧の国〉へ伸びていたことから、〈碧の国〉とを繋ぐトンネルをつくったのである。しかし、そのトンネルを囲んでいた街人が、疫病で死滅したことから、誰も寄りつかなくなってしまった。
 サークナヤの寝息をききながら、中に入る。暗いことを覚悟して入ったが、思ったよりも、随分と明るい。

■五十四頁

 サクナの手を引き、木々を指差した。城の庭園にいた。
 鳥が飛んでいる。じゃれ合いながら楽しそうにさえずっていた。
「本当。聞こえるわ」
 さっきまでレーベンがいたものの、どこかへ消えてしまった。
「レーベンはどこに行ったのかしら」
「〈花の国〉の人から貰った音楽を奏でる箱を取りにいったんじゃないかな」
 〈花の国〉。フラウ・ウェアの住む世界。フラウ・ウェアは〈フラウ・ラント〉と呼んでいた。
「へぇ……。じゃあ、ほかには、誰も居ない?」
「うん。僕も、今は居ない方が良いかな」
「いいえ。ルーは、ここにいて……」
 弱々しく言った。
 なぜかそう言われ、力が出た。
「お願いがあるの」
「なんだい?」
 妙に張り切った声。自分でも驚くほどの。サクナに貰った、武魂を打って作った剣を今にも掲げるんじゃないかと言うほどの張り切りようだった。
「……殺して」
 気持ちのいい空に、その言葉は消えていった。
「……え?」
 思わず聞き返す。冗談だ。
「……『碧の名を継ぐ者は完全、潔癖であれ』……。私はもう、誰にも求められていない。」
「そ、そんなこと――」
「あなたにはわからなかったでしょう? みんなの、失望する声が。……私は……私は……もう、誰にも求められていないの」
「……そんな……けど、けど僕は、僕には、サクナが必要だよ!」
 サクナは、笑みを浮かべ、目の前の人物に抱きついた。
 安心するルーシルアにサクナは、冷たく言った。
「もう、何もかも、手遅れだわ」
 ぞっとする声。
 気がつくと腰の剣が抜かれ、サクナの胸に切っ先があった。
「や、やめてくれ……サクナ……」
 半べそをかきながら、ルーシルアは言った。
「わたし、後悔はしないわ。」
 何を、とはきけなかった。剣はサクナの胸を穿ち、彼女は崩れ落ちた。
「……」
 声をかけようと、その虚空をたたえる両目に話しかけようと、口を開いたとき、茂みから、一人の男が現れた。

■五十三頁

たルーシルアは、嫌な予感をひしひし感じ取った。そんなことも顔に出さず、彼が言うのを待った。
「出ろ。そして、あのお嬢様に自慢してきな。その間の警護は、あたし方で何とかする」

 そうして、ルーシルアのかけがえのないものを失うきっかけとなった、事件は起きた。

 少年は奔っていた。
 雨で大会が潰れなくて良かったと思わせる曇天の下、ルーシルアは奔っていた。
 木々を飛び越え、庭園が見えた。庭園に、見覚えのある女性が、ちらりと、だがはっきりと見えた。手にある優勝証書を握りしめ、奔った。
 だが近づくごとに、どうやらもう一人いることが分かった。それを見た時、レーベンかと思ったが、違う。みすぼらしい格好で、サクナを押し倒し、剣を振るおうとしている。
 ルーシルアは一気に駆けた。
 剣が振るわれる瞬間、ルーシルアは男の後に入り込み、剣を抜きざまに胴を真っ二つに切り裂いた。
 男の上半身と下半身がズレる瞬間、ルーシルアは目にした。
 振るわれる前だと思っていた男の剣が、横に一閃、振るわれているのを。
 崩れ落ちる死体など目にもくれず、サクナの所に一直線で奔った。
 右の目尻から左の目尻まで、傷が奔っている。
「サクナッ! ぼ、ぼくだよ」
 つい叫んでいた。
「……ルー? ……よかった……そこに、居るの? 真っ暗で、何も、何も見えない。私、どうしちゃったの?」
 恐怖がはしる。
 サクナはもう、目が、両目が、見えなくなってしまっていた。

「すまない」
 ムラースの第一声だった。
「……」
 ルーシルアは何もできずにいた。王との謁見がすみ、報告が終わり、今回はすべてムラースが責任を持つことになった。
 王との謁見の時、王の失望のため息が聞こえた。絶望ともとれた。国王は子供を作る能力が失われているらしいという噂が、それで確信的になった。
「……ムラースさんは、悪くない。すべて、僕のせいだ」
「いや、俺の責任だ」
 らちがあかない。そう思い、ルーシルアは口を閉ざした。

「あそこに、ほら」
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■五十二頁

「いいや。僕の、呪いについて、……判ったんだ」
 ――きいたことない。そんな物。今まで喋ってくれなかったことに憤りを憶えつつ、それを押さえて質問する
「『呪い』?」
「僕も、初めて知った。僕には、動物を引きつけて、好戦的にさせる呪いが、あるみたいなんだ」
「そんな物、どこで……?」
「判らない。多分、山に捨てられた時じゃないかな……」
 哀しい顔で言う飼い猫を、咄嗟に見た。
「……たぶん、捨てられたんだと思う。それで、呪いをかけたんだ。僕の、母さんが」
「……なんか、ごめん」
「どうして謝るの? 離したのは、僕の方だ」
「……ほかには、どんなことをした?」
「えっと、二人で、山にこもったり、色々」
 サクナの心のどこかにひびが入る音がした。
「『二人』で……?」
 答える間に、ルーシルアが縁の上に立っていた。
「……ルー?」
「ごめん、将軍が、呼んでるみたい」
 そう言われてみれば、ムラースらしき人が手をひらひら振っている。
 ルーシルアは飛び立ち、木々の枝などを足場にしながら、そこに着地していた。
 妙な敵対意識がサクナの中で芽生えた。
 ――ルーシルアは私の猫だ。そう思いながら、サクナもベランダを去った。

「おう、ルーシルア。お嬢様との再会はどうだった?」
「み、みてたんですか」
 現在は男になっているムラースが。けらけら笑う風に言った。性別が変わるだけで、随分と印象がかわるものだ、とルーシルアは思った
「べつに。見えただけさ。ちょっとだけね」
「そうですか……」
「何か、不満があるのか」
 鋭い眼光がとび、腰の剣が何も言わぬ威圧感を放つ。
「それはさておき、明後日ある剣術大会だが……お前、明日で十五らしいじゃないか」
 胸をなで下ろし、ルーシルアはきびきび答える
「そうです」
 多分、それくらいのはずだった。
「……よし」
 にやり、意地の悪い笑み。二年間この人の無理難題につき合わされ、それをこなしてしまっ

■五十一頁

「あのー……、護衛の方も変わったらしいんで、できれば、今のうちに紹介とか……だめですか?」
 誰もいない場所で、呟いた。
 沈黙。
 居るわけないよな……と思っていると、側の屋根の影から何かが跳び、自分の横に着地した。
「……ルー……?」
 黒髪。白い肌。ルーシルアその物だった。
「……」
 少し気恥ずかしそうに、ルーシルアは頭を掻いた。
 大人っぽくなったなー……。そんな所感を吹き飛ばし、サクナは眉間に皺を寄せた。
「……どこにいたの?」
「……つい、昨日、解放されたんです……」
 頭をうつむけぼそぼそ言った。
「昨日? 何で、解放されてすぐ私の所に行かないの? 来ないの?」
「……いえ、もう、昔の話だし、迷惑かな、と思いまして」
「めいわく? へえ。そんな風に思われてたんだ。この私が、たった数年会っていないだけであなたのことを忘れ、捨てるような人間だと? へぇ。そうなんだ」
「あの、その……」
「ごめんなさい」
 ルーシルアがちらりと顔を上げた。その焦げ茶の瞳が、サクナを見た。すぐまた顔をうつむける。
「……顔を、上げなさい」
 ルーシルアの叱責を恐れるような顔。
「許す」
 ルーシルアはホッとしたような素振りを見せ、またもとの影に戻ろうとした。
「ここにいなさい」
 ルーシルアは目線を漂わせ、サクナの傍らに立った。
「強く、なった?」
「判りません」
「『わかりません』?」
「わ、わからない」
 飼い猫を支配する快感を味わいつつ質問をした
「二年間、どんなことを?」
「……えっと、延々と、戦ってた。」
「二人で? 食事は?」
「うん。将軍と。一日に一回。けど、お陰で収穫もあった」
 ――ぴくり
「……強くなった、っていうこと?」

プロフィール

KANTA

Author:KANTA
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