■2009年08月

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■四十頁

も変わっちゃいない。元々孤独だった。サクナに、出会うまでは。
 決壊したことを良いことに、いろんな物が出てくるのを押さえつけ、呪う。呪う。呪う。消えろ。失せろ。
 呪いの言葉を呟き続け、出てきた物をまた閉じこめた。
「畜生……」
 全身が軋むように痛かった。
 それでも立ち上がり、身体の傷など気にせず、雨の中を歩き出そうとした。〈碧の国〉まで。中央街道に戻り、一歩踏み出そうとした瞬間、足が止まった。動かない。何もできない。――いや――。後ろへ踏み出すことは見事にできた。動けた。
「国に……拒絶されているのか?」
 事実、それはあり得ないことだった。国外退去を命じられない限り、国に入れないと言うようなことはありえず、その命令を本人が居ないところで命じるという行為は、犯罪だった。多世界国家の〈碧の国〉において、それはないと言えた。
「……」
 死人のような顔で、森をさまよって、明かりを見つけた。
 宿を探して、見つけた宿の中にはいると、会計の娘が仰天した。そばかすのある娘だった。
「……すまん、酷く疲れてんだ。」
 示された部屋までずるずる水の跡を残しながら部屋にはいると、下半身にのみ肌着を身につけ、ベッドに横たわり、泥のように眠ろうとしたところ、ドアのノックが聞こえた。
「ごめんなさい、服の替えを……」
 何も言わず、会計の娘はずぶぬれの服を回収し、替えの肌着などを置いていった。
 一礼し、娘はそそくさ出ていった。
「……俺は、化け物か?」
 ルーシルアは、呟いた。
 そうして、泥のような眠りについた。

 泥らしく、泥のような目覚めだった。
 部屋を見ると、替えの服が消え、乾いたルーシルアの緋色の服があった。
 無言でそれに手を伸ばすと、ドアが開いて、娘が出てきた。
 一瞬の沈黙が部屋を支配すると、虫のように娘は逃げ去った。
 そんなこと気にせず、服を着た。帯まで締め、腰に一本の鞘と、一本の剣を差そうとして――やめた。
 またノックが聞こえ、適当に返すと、お盆の上に色々乗っけて、娘が入ってきた。
「あの、ご飯……」
「ありがとう。」
「え?」
「服。外は、もう晴れてるのか?」
「え、えぇ」
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■三十九頁

 短い金髪、腰にささった剣。すべてが見覚えのある姿。
「……レーベン」
 滝のような雨になり、全身ずぶぬれになりながら相手の名前を呼んだ。
「憶えていたのか。もう忘れたかと思っていたぞ。殺人鬼」
 哀しく相手を見据えて、隣でサークナヤやファンタンが驚きの声を上げるのさえ無視した。
「……」
「……お嬢さん方、近寄らない方が良い。その男は、自分の親友を殺した男だ。恋人を、自らの剣で、刺し殺した男だ」
 雨が酷く冷たく、激しくなった。
「ッ! そんなの嘘だッ」
 サークナヤが叫んだ。
「……長い金髪……青い目……お前、また同じ事を……。贖罪のつもりだったのか?」
 レーベンの問いに、ルーシルアは黙った。ざぁ、っと雨の音が大きくなる。
「何も知らないようだから、教えてあげよう。お嬢さん方。こいつはね、眼を失った、金髪の、青い眼をした可憐な少女を、何のとまどいもなく刺し殺したのだよ。邪魔だったのだろう? そう言えよ。そうなんだろ? なぁ?」
 その声は悲痛としか言えない。
「……ルーシルア……」
 サークナヤが袖を引っ張る。
「……う、嘘だと言ってくれ。ルーシル――」
「嘘じゃないさ。なぁ。そう言ってやれよ。ルーシルア。」
 雨で、何も見えなくなった。木も、地面も、誰も、自分の足と、袖を引っ張る何かだけが見えた。
「……サクナ……俺は……」
 ルーシルアが言った瞬間、レーベンの眼が怒りで燃えた。白い歯をむき出しにし、一気に駆け、サークナヤを突き飛ばしたかと思うや、ルーシルアを蹴倒し、ふんじばるように胴の上にのった。
 ルラムがかつてはなったような物とは違い、強烈な拳が飛ぶ。そう理解してまた飛んでくる拳を、ルーシルアはただただ受けた。
「お前はっ、貴様はっ、お前はっ……お前はァぁあぁあ!」
 悲痛の叫びが聞こえた。ファンタンがふと視界に入った。
 ――冷たい目。さげすむような目。鋭く刺すような目。ルーシルアの意識はとび、眠った。今度こそ、本当に何も見えなくなった。

 口の中に雨水が溜まり、呼吸ができなくなって目覚めた。全身土砂で埋もれている。横を見ると、ファンタンの仮面が、そこに置いてあった。
「……」
 きっと、サークナヤも居ない。なに、最初に戻っただけだ。振り出しに、戻っただけだ。何
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■三十八頁

してでなく、師として、弟子へ送る言葉だった。
「まぁ、あいてにされてねェみたいだがよ」
 今度は違う意味で宙を舞って道路に叩きつけられるルラムを見て、エネトゥスはわらった。

 汗を拭いて、ひんやりとした石畳の上に座ってくつろいでいるルーシルアに、宿の入り口を開け、ファンタンが出てきた。
「おはよう」
 ファンタンは何も言わず、ルーシルアのとなりに座った。
「一人で行くなんて、薄情ですね。」
 昨日の話である。
「一言くらい、あってもよかったんじゃないですか? それとも、私は、足手まといですか? 邪魔ですか?」
「……」
 ルーシルアは顔を逸らして、雲を見た。そろそろ出発の刻である。
「サークナヤは起きたか?」
 ファンタンは頷いた。
 ルーシルアは宿の中にはいると、サークナヤを連れ、出てきた。
「……まだ、問いには答えて貰っていません」
 サークナヤがきょとんとなる中、ルーシルアは懐から何かを取り出すと、乱雑にファンタンの頭につけた。まるで髪飾りのようにつけられた道化師の仮面を、ファンタンは手にとって見つめた。
「……これは?」
「やる。俺にはもう要らない」
 そう言うとルーシルアは歩き出した。
「さァ、行くか。〈碧の国〉まで」
 随分と進み、門を出たルーシルアは思い出したように歩みを止め、ふり返った。白い要塞のような、活気に溢れたそれはルーシルア達を見ていた。
 また歩き出して、中央街道まで来た。もうすぐ国境である。立ち止まり、一歩踏み出した。
 そのまま立ち止まって空を見ると、今までの天気が嘘のように、曇りだした。今にも降り出しそうな曇天である。
「あァ……やばいな」
 ルーシルアがそう言うと、ぽつぽつ雫がおちだした。
「今日は、これくらいか……?」
「雨を気にするとは、野蛮ではなくなったようだな」
 不意に――声――。
 聞き覚えのある、何年経とうとも忘れる事なんて一生無い、かつて、親友だった、男の声。
 ――思い出が、残像のように木霊し、ルーシルアの頭を穿った。
 嗚咽しそうになるところをこらえ、相手を見据えた。
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■三十七頁

 フードを被った男が笑ったのが判った。後ではルラムが「おいコラ」と罵声を浴びせるのが判る。だが、聞き流す。
「お前の行動のお陰で、我々の求めていた変革が、興った。ありがとう」
 ルラムの罵声が止まった。
 シャンも一礼した。
「私からも、礼を言う」
 腰にリセをぶら下げて、クンファーが言った。人によって大きく態度が変わるこの男は、続けていった。
「シャン殿のお陰で、リセの情報を得ることができた。その上、治療まで……ありがとう。」
 クンファーは一礼した。
「……どんなことがあったか、教えて下さい」
 ファンタンが言う。腰にはリセのまねをしたサークナヤがくっついている。
 ルーシルアは、にや、っと笑った。
「後で教えてやる。」
「よォし。今日は建国の日なんだ。呑もォぜ。」
 ルラムが大声で言った。場が騒ぎ、酒に溺れる場となった。
「明日は早いから、早く切り上げろよ。」
 ルーシルアは二人にそう告げると、部屋の隅で横になった。

 ルーシルアは、早朝、顔に何かをかけられて目が覚めた。
 酒だ。
 においで判断したルーシルアは、目の前にいる人間に、罵声を浴びせようとした。
「オラ、おきたンだろ? ちょっと手伝え」
 ルラムだった。
 舌打ちしながら、顔を拭いた。
 宿の外に出て、舗装された道路にたった。
「もうこの都市から出るんだろ? ちょっと、手伝ってくれ」
 そう言うと、ルラムは剣を抜いた。
 ――そう言うことか。納得して、剣を抜いた。
「あ、あのぴりぴり痛いやつは、ナシな。」
 ルーシルアは頷くと、剣を構える。
 甲高い、金属音が鳴り響いた。

「おォ、やってんな」
 宿の屋根の上から、エネトゥスは言った。三角形の屋根の上で、見事に重心を保ち、立っている。
「……良い好敵手を、見つけたようじゃァないか」
 今も金属音を響かせ、楽しそうに宙を舞い、剣を振るうルラムに、言った。それは、仲間と
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■三十六頁

後ろのクンファーに抱きついた。周りの目など気にしていないようだ。
「クンファー、どこにいってたぁ?」
 子供その物と言える口調。
「言っただろ? 友達を連れてきたんだ。こいつが、ルーシルア。」
 クンファーが指差し、女がこっちを向く。
「……」
 きょとんとした顔。
「……あいさつ」
 クンファーの一言。まるで父親と娘のようだ。
 女がクンファーから離れ、ぴし、っと立つと、きびきび告げた。
「このたびは、ありがとうございます。わたくしは、リセ・ゴドーク・ベビアン・スタースです」
 そう一息に告げると、クンファーの方を振り向く。クンファーはやさしく頷き、リセはうれしそうにまた飛び付いた。その頭を撫でる。飼い主に甘える猫と、その飼い主のよう。
 は、っとしてきがついた。口調が幼いから気づかなかったが、身の丈が、何とクンファーよりも高いのである。口調が幼いので、小さく見えたが、実際はかなり大きいようだ。
「……あなた……」
 不意に、リセの澄んだ声が耳に入った。
 目が合う。哀しい顔。弱々しく微笑む。
「あなたは、なぜ、今、ここにいるの?」
 その問いは、ルーシルアにしか判らず、理解できず、答えられない質問だった。一挙に視線が集まるのを感じた。
「あなたは、本来、もっと、違う場所にいるべきでは?」
 凛とした口調。
「心配は要らないよ。今、向かってるところだ。……今まで、逃げていた、避けてきた、行くべき、俺が本来あるべき場所へ、行くつもりだ」
 強く、弱々しい微笑を浮かべていった。
 リセは頷くと、クンファーの方を向いた。
「いよォ、優男」
 かかる声。ルラムである。
「てめェのために、収容所を襲ってやったんだ。感謝しろよ?」
 今までの気分をすべて吹き飛ばすような強い笑み。
「男装馬鹿が何を偉そうに」
 ルラムの眉間に皺が入った。
「あァ? そこは、『ありがとうございます、ルラムさん。このご恩は忘れません。もう感謝しきれないくらいです』」云々。
 聞き流し、話を遮る。
「エネトゥス、シャン、ありがとうな」
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■三十五頁

「職権乱用だ」
 そう呟いたアダイブの手に持つ紙切れが黄金に輝き、輝きが市長を捕らえ、この場から消した。
 ルーシルアは微笑むが、おそらくその顔は相手には見えていないだろう。
「失礼します!」
 ドアが跳ね退き、一人の兵士が入ってくると、一瞬後ずさった。
「どうした?」
「三人の戦士が現れ、収容所を破壊し、神官二名を脱獄させました!」
 アダイブはほほえみ、やさしく告げた。
「脱獄か。どちらにせよ、彼らは釈放する予定だった。」
「は……?」
 困惑する兵士。
「これより、市の長であったタイランは職権乱用で〈ケージ・プリズーン〉に送り、市長制度を廃止し、市民の意志を尊重する〈銀の国〉をここに建立する!」
 兵士は目を丸くし、しばらくの間つったったあと、一礼し、飛び出していった。
 一端の静寂の後、二人は別れた。

 部屋に戻ると、仮面を取った。
「……戻ってきて……ないのか?」
 もう完全に夜である。サークナヤならもう床についていてもおかしくない時間だった。
「……」
 探しに行こうとしたところ、ドアが開き、見覚えのある神服があった。
「……クンファー」
「いよう。お前が早く来てくれたお陰で、痛い目を見ずにすんだ。お嬢さん二人は、今、別の場所にいる。ついてこい」
 ぶっきらぼうにクンファーは言った。仕方がなくついてゆく。
 プリズーン特有の坂道の頂上に、それはあった。「Inn 2」と書いてあった。
「味気ないのはどこも一緒だな」
 クンファーは答えず、ドアを開けた。すると、見覚えのある三人と、サークナヤとファンタン、そして薄い青紫の神服を着た女性がサークナヤ立ちに同調している。体つきはすらりと、ほっそりとしているのに、行動を見る限り、子供としか言いようがない。物を取ってすこし遊ぶと、放り投げて次の物を取ってまた投げる。テーブルの上にある食べ物を取るが、ぼろぼろこぼしている。だが、そんなことも気にした様子もなく、サークナヤと一緒に小躍りし、ファンタンを呆れさせているようだった。
 ふ、と、その神服を着た女性がこっちを見た。哀しげな瞳。
 ――いや――違う――。ルーシルアは自分の考えを否定した。
 ベビアンだ。彼女が、クンファーの言っていた、リセという人に違いない。
 そんな予測も吹き飛ばす勢いでこっちに駆けてきたかと思うと、ルーシルアを無視し、斜め
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■三十四頁

 エネトゥスが厳粛に問う。
 ――ばりっ
「生まれてきた、その意味をだ」
 ――ばりっ
 そのルーシルアのとがった、磨がれた、喰らい付くような〈ファントム・ペイン〉に、三人が額に脂汗を浮かべている。
「……これを」
 シャンが、一枚の道化師の使う面を手渡した。
「顔がばれると、大変でしょう」
 受け取ると、ルーシルアは駆け去った。

「やあ、アファン君」
 市長は、その顔に鉄の笑みを浮かべていた。
「用件とは、何かな?」
「なぜ、この都市を自分の物かのように扱う?」
 ルーシルアは面を被った。だが、そんなこと市長は気にしてはいないようだった。
 市長の顔が険しくなった。
「……どこの誰にそんな思想を埋め込まれたかは、知らないが、そんな物すぐに捨ててしまえ」
「いいや、こいつはね、俺がこの世界を見定めるために、得た、確固たる情報なんですよ。」
「……それで、私を、どうするつもりかね? 殺すかね?」
「いいや。あんたに問おうと思ってね。……お前が、生まれてきた意味を」
 ――ぴりぴり
「ッ」
 〈ファントム・ペイン〉に焦った市長が、不意に叫ぶ
「アダイブッ」
 強い光が現れ、そこに白銀の騎士が現れた。
「……」
 アダイブは何も言わず、黄金の紙切れを放った。
「問おう。――お前の、お前の正義はどこにあるッ!」
 ――その瞬間――斬った――
 黄金のそれは、ルーシルアの鉄剣によって真っ二つにきれ、輝きを失った。
「てめぇの正義はどこにある、ってんだっ! 危害を加えない人間を、そこにいるやつの言いなりになって、ただの道具と化して、お前の正義は、仲間ですら規則を破れば牢にぶち込む、てめぇの、屈強な正義は、どこにいった!」
 さらに紙切れを取り出そうとするアダイブの手が、止まった。
「……俺の……正義……」
 アダイブは呟くと、紙切れを取り出し、市長の方を向いた。
「ま、まて――」
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■三十三頁

もくもくと白い煙を吐き出している。
「数ヶ月ほど前、一人のベビアンがここに、お前を訪ねたはずだ。」
 市長の身体が震えた。顔の笑みもぎこちない。
「彼女は、その純粋なる瞳で、お前を見たはずだ。そして、こう問うたはずだ。『なぜ、この都市に独裁者が居るのか』と」
 ベビアン。人間の世界から遠く離れた純粋無垢な種族。その藍色のその瞳には、常に自分の真の姿が映る。美しい行いをしていれば、それは美しく映り、醜い行いをしていれば、その姿は醜く映る。それだけで、人を逆上させるには十分な力があると言えた。
「……お前が俺の、リセを、捕らえ、何をしているかは知っている。……はやく、解放してくれ。……あいつ、痛いの苦手なんだ」
 クンファーはやさしく微笑んだ。
 市長は後ずさり、大声で叫んだ。
「アダァアアイブッ」
 どこからともなく、銀色の鎧を纏った男が現れた。
「……まっ――」
 それを止めようとするが遅く、黄金に輝く紙が現れると、その光がクンファーを包んだ。不意に、クンファーが呟いた。
「……」
 細く呟いたその声は、すぐにかき消された。だが、ルーシルアにはちゃんと届いていた。

 ――後は、頼んだ。
 クンファーの、言葉。それを、夜になる前、ルーシルアは宿の部屋でそれをおもむろにとりだした。
「……」
 腰に剣があることを確かめ、腰掛けていたベッドから腰を離した。
 勢いよく飛び出すと、目の前に見覚えのある三人が立ちはだかった。三人とも、叱責するような眼でルーシルアを睨んでいた。
「どこに行くつもりだ」
 エネトゥスの声。いらだちがあった。
「まさか、収容所に一人で行くつもりかァ?」
 半眼のルラムが言う。左手は腰に当ててある。
「無謀です。私達と一緒に行動すれば、いつか、必ずあの男を失脚させ、この都市に改変を――」
「収容所にはいかない」
「あァッ? だったらどこに――」
 ――ばりっ
「俺が、あの男を、跪かせて、問うてやる」
「……何をだ」
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■三十二頁

なっていく呪いなんだ。物を手から離せば重さは戻るが、あいつはそれを何とも思っちゃいない。天性の馬鹿力でな。その強烈な一撃を、衝撃だけで家を吹き飛ばすことのできるあの一撃を、お前は、どんな手品を使って、跳ね返した? そして、なぜ受け止めた? 攻撃方法はいくらでもあったはずだ」
 エネトゥスの質問に、ルーシルアは首を傾げた。
「わからないんだ。戦う時は、殆ど何も考えてない。多分。思考の及ばないところで、剣を振るってるんだと思う」
「……天性の、馬鹿だな。」
 エネトゥスは言うと、立ち上がった。
「あと、お前の流派は、バリギウス系じゃないか?」
「……」
 図星だった。それをさも当たってない風に装った。
「あの、レーベンと同じ流派だ。そうだろう?」
 ルーシルアの答えも待たずに、エネトゥスは宿を去った。

「今日は、週に一度の懇願の日でね」
 壮年の市長は、服装を整えながら傍らにいる二人に言った。おそらく、ルーシルアに向けて言ったのだろう。
 大きな鏡の前で、市長は礼服のゆがみなどを気にしながら、後左右にいるシャンとルーシルアに言う。
「中には、こういう日を狙って、何か企む者も居るようだ。そのときは、頼む」
 鏡に映る市長が、自分を見た。
 何の反応もせずにいると、シャンが睨んだ。
「まぁ、頼むよ、アファン君」
 なぜか背筋に冷たいものがはしった。
 直感が告げる。――こいつと居ると、ろくなことない。
「お時間です」
 シャンが告げた。
「お前達は、隅の方にいなさい」
 市長は、シャンの案内する壇上に上がった。シャンは懇願者から見えないところで立っているらしかった。ルーシルアは目立たないところに立って、暇だな、口笛でも吹こうか。それよりも何か楽しいこと――
 税金を下げてくれ。路上で店を開くことの許可を。規律が厳しすぎる、もっと緩和してくれ。ジャッジが無駄に威張っていて困る。そんな懇願者達の叫びを、鉄壁の笑顔と、氷のような冷たさで次々に弾き飛ばす市長。
「ここに、市の長に問おう!」
 懇願のこと如くを聞き逃していたルーシルアの身体が痙攣したように大きく震えた。聞き覚えのある、声。紅い神服が、近づいてくる。神官とは思えない、口に煙管をくわえたその姿。
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■三十一頁

 エネトゥスは紅茶から目を離して、またルーシルアを見た。
「お前、歳は?」
「十八くらいだ」
 エネトゥスは思案するような顔になった。
「その若さで……」
「言われると思ったよ」
「お前ほどの歳でそのような力を持つ、と言うことは、かの〈碧の国〉一の剣士、レーベンに勝るとも劣らないだろう。」
 レーベン。その名を聞いて、ルーシルアの深く閉じ止めていた物が、決壊しそうになった。
 ――ルーシルア……。
 ――ルーシルア……。
 幻聴だ。そう自分に言い聞かせて、そのこだましては消えゆく大切なものを呪った。
「――ルーシルア?」
 エネトゥスの声だった。
「あ、あぁ、どうした?」
「聞いていたのか? ……体調でも悪いんじゃないのか? 顔が、真っ青だ。」
 唾を、呪いを、決壊したところからはい出てきたすべてを呑んだ。呑み込んで、蓋をした。
「大丈夫だ。」
「ヘッ。まるで顔が深窓の令嬢みたいだぜ。あんたみたいなのに負けたって言うのが、やっぱり、信じられねェ。あんたみたいな、優男にさ」
 エネトゥスの後で腕を組んでいたルラムが言った。
「まるで二人の人間が居るみたいだ。かっこわるいぜ、あんた」
「ああは言っても、心配してるんだよ」
 ルラムがさっきの一言で宿を飛び出した後の、エネトゥスの言葉。どこか、やさしい言い方だった。
「そりゃ、どうも。あいつは、あんたが教えたんだろう? 剣の筋だとか、線とかがそっくりだ。」
 ルーシルアが言うと、エネトゥスは苦笑した。やはり、ばれるか、と言う風だった。
「だろう。ばれると思った。あぁ、そうか。こんなにも容易くばれるとはね」
「一見して違う様に見えるが、その実似通いすぎてる。剣術としては全く逆の方向性にあるのに。」
 それは、エネトゥスが技術や技で敵を倒そうとするのに対して、ルラムが一撃必殺、猪突猛進、そのものといっていいような剣を振るおうとしていると言うことだった。
「癖も、師匠からは受け継ぐんだな」
 エネトゥス、ルラム師弟の一連の癖は、ある一定の周期的な動きを取ると言うことだった。ルラムは踵を上げ下げし、エネトゥスは呼吸がそれだった。
 エネトゥスは恥ずかしそうに頭を掻いた。
「じゃあ、俺からも。ルラムにはある呪いがあって、それは手に持つち続ける物が延々と重く
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Author:KANTA
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