■MO12 「Happy through friend」

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■Happy through friend 紹介


  I'm so happy
  Cause today I found my friends
  They're in my head

     (NIRVANA「LITHIUM」)


 アルバイトをしながら、ぼんやりと夢を探す主人公。
 孤独な彼はある日頭の中で友達を見つける。

有川 ユキト
 アルバイトで生計を立てる青年。
 孤独。

ポーリー
 ユキトの頭の中のガールフレンド。





これは「MO12」という企画での作品です。
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MO12

お題内容

4月/桜
5月/子ども
6月/潦(にわたずみ)
7月/ほうき星
8月/終日(ひねもす)
9月/天満月(あまみつつき)
10月/行楽
11月/落葉
12月/柚
1月/七草粥
2月/福は内
3月/卒業

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■四月のおだい「桜」

 『I want some help(俺には助けが必要だ)
  To help myself(自分を救うためにな)
     (NIRVANA「Polly」)』



 今年の春は凄く寒かった。
 本当に桜が咲くのか。そんなことを思っていた。
 就職先が見つからなかった僕は親に意地を張って仕送りを断り、アルバイトだけで生活することになった。要らないものは捨てたり、売ったりするために部屋の整理をしていた。
「咲くよ。ぜったい」
 ポーリーは頭の中で言った。
 金髪の女の子は学生時代に買ったキャラクター小説の山に腰掛け頭の左右で結った髪を揺らしながら僕が売ろうと決めたギターをいじっていた。
 そうかなぁ?
「そうだよ。咲くね。絶対に」
 陶器のような顔は勝ち気な笑みを浮かべた。
 桜なんて咲かない。こんなに寒いんだ。咲くわけがない。
 アコースティックギターが鳴る。
 ポーリーが鼻歌を歌う。

  I want some help
  To help myself

 ニルヴァーナのポーリーと言う曲の一小節だった。僕はこの曲が好きだった。だから、彼女の名前にしたんだ。
 金髪の女の子がガールフレンドなんて幻想だ。だいたい金髪碧眼っていうのがもうナンセンスだ。あり得ない。こんな女の子は、僕しか知らない。僕しか見えない。僕しか触れない。
 鼻歌はまだ続いていた。

  She caught me off my guard
  It amazes me, the will of instinct

「なあ、その歌がどういう意味か、判ってるのか?」
 つい声に出して言ってみた。虚空に向かって。
「知ってるよ?」
 ポーリーはにやりと笑う。
「こんな事しないでね?」
 僕の妄想のくせに。
「でも幸せでしょ?」
 否定は出来なかった。そんな僕を見てポーリーはにたりと笑う。
 僕が顔を逸らすと、窓から、外にある桜の木が見えた。
 枝についている、大きな蕾を見た。
 誰かに押し倒された。そんなばかな。
「けどやっちゃもんね」
 ポーリーの重さを感じる。あと、熱も。そんなわけない。
「けど私はここにいるもんね」
 いや、だからそんな――。
「ほら、蕾が大きくなってるでしょ?」
「……」
「咲かない花は、無いんだぜ……?」
 なんだよ、それ。
「とにかく、ユキトには必要でしょ?」
 なにがだよ。
「自分自身を救うための、助けがサ……」
 部屋はしんと沈黙した。
 なんだよ。急にだま――。
 ポーリーが僕の首に手を回した。暖かい。いやばかな。
「私が助けてあげるよ」
「……妄想のくせに……」

■五月のおだい「子供」

「With the kids sing out the future(大声で未来を歌おう)
Maybe kids don't need the masters(僕らに支配者なんて必要ないぜ)
Just waiting for the little Busters(ただ待ってるんだ。小さくて大きい奴らを)
(the pillows『LITTLE BUSTERS』)」




 五月になって、少しは暖かくなったと思う。それでも何も変わらない。僕はコンビニでアルバイトを始めた。薄給だけど、何とか生きていける。
 僕に、未来なんて無い。きっとこのままなんだろうな。そう思うと、レジを打つ手が止まる。
「おい」
 同僚の男に声をかけられ、我に返った。そして、またレジ打ちを再開する。
 一通り客が捌け、コンビニの中は静かになった。
「お前、何かぼうっとしてるな。大丈夫か」
 同僚の男が言う。確か山中という男だった。若いのだけれど、どこか他とは違う雰囲気がした。
「いや、大丈夫です」
「ならいいけど」
 また客が入ってきた。小さな子供の群れだった。
 彼らは真っ先にレジの真っ正面にあるカード売り場にたむろし、そして騒ぎ出した。たかが長方形の紙のどこが面白いんだろう。そんな風に思った。
「むかしは、こういうの好きだったよね」
 レジのカウンターにポーリーが腰掛けた。余計なことを。
「何だっけ?『神のカード!』とか、騒いでたよねぇ」
 ポーリーは僕の方を見ながらにやにやしている。
「……」
 忘れてくれよ
「ムリだよ。私はキミだから」
 だったら、もう消えろよ
「勝手に生んでおいて」
 そのセリフは、なぜか胸に突き刺さった。
「まるで、子供みたい。『でろ』とか『きえろ』、とか……」
 でろ、なんて言った憶えはないぞ。
「言ってたよ。ずっと、ずっと、ずっと……」
 灰色の世界の中で、彼女にだけカラフルな色が付く。そんな感覚を憶えた。
「言ってない」
 つい、声に出してしまった。山中が不審そうな顔でこちらを見た。
「キミ、今何歳?」
 言いたくないな……。
 ポーリーは微笑んだ。とん、とカウンターから降りて、こちらの方にくると、僕と無理矢理肩を組んだ。

With the kids sing out the future
Maybe kids don't need the masters
Just waiting for the little Busters

 不思議な歌だった。どこかで、聴いたことがある。
 アルバイトが終わり、僕は何かに取り付かれたように家に戻った。捨てようと思って捨てられなかったCDの山をかき分けて、一枚のCDを見つけ、かけた。
 いつの間にか、大声で歌っていた。
 何を。歌だ。歌だよ。
「大声で、未来を歌おう」
 ポーリーが、僕の横で呟いた。

■六月のおだい「潦」

What do you want?(キミは、何がしたい?)
                   (the pillows「ROCK'N'ROLL SINNERS」)


 雨が降っていてひまだった。梅雨ってヤツだ。だから、僕は捨てるはずだったアコースティックギターを取り出した。
「……」
 何年ぶりだろうか、これを触るのは。
 高校生の頃、本気でミュージシャンを目指していた。こいつを一本持って文化祭のステージに上がったこともあった。けど何も変わらなかった。ニルヴァーナのダムなんてだれも知らなかったし、ピロウズのブラックシープなんてもっとしらけた。英詩なだけニルヴァーナがマシだった。
 弦を張りっぱなしで背板の曲がったアコギは、もうろくな音が出なかった。
 ギターを投げ出して、僕は寝転がった。
 そういえば、近くの質屋に、ギターが置いてあった気がする。友達がそこでバイトしていた気がする。
 友達に会いに行くくらい、いいだろ。僕は傘を取ると家を出た。
 そう言えば、今日はあいつが出てこない。そう思いながら質屋に向かう。イヤホンをつけてアイポッドの中にある曲をシャッフル再生した。
 質屋に到着し、ギターのあるコーナーを探した。と、見つかった。
 棚に沢山のギター達がずらっと並んでいる。給料を貰った後だから、そこそこ僕は金持ちだ。
 何が良いかとうろついているところで、見知った男を見つけてしまった。
「有川」
 向こうから話しかけられてしまった。バイト先の同僚、山中である。
「あ、山中さん、こんにちは。……ギター趣味なんですか?」
「趣味じゃねえよ。仕事だよ」
 無精髭の男はジーンズのポケットに手を突っ込んだまま答えた。
「仕事? ……ここでも、バイトしてるんですか?」
「あぁ、ちがうちがう。バンドやってんだ」
「……バンド?」
「あぁ」
「だから、ギターを買いに?」
「いや、昨日こいつを質に出したんだが、売れてるかどうか確認しに来ただけ」
 山中が指差したのは一本の黒いエレキギターだった。
「で、おまえ、買うの?」
 山中が言った。いやな予感がする。
「え、まあ、はあ」
「じゃあ、あれ買えよ。俺が要らないアンプもやるから」
「え? 別に良いですけど」
「よし判った」
 と、僕はあっという間に彼のギターを買ってしまった。財布が随分薄くなった。
「ちょっとついてきな」
 山中は手招きする。
「え?」
「いや、アンプやるって言っただろ?」
「まぁ……」
 言われるがままについていくと、そこは僕の住むアパートと同じくらいぼろぼろだった。けど、立地条件で言うと僕の所より悪い気がした。アパートの入り口でまたされ、彼は一個の黒いアンプを持ってきた。
「ほら」
「あ、ありがとうございます」
 何とシールドもついていた。僕はなんだか恐縮してしまう。
「俺のムスタングをよろしくな。あと、また、コンビニで」
 そうして僕は山中と別れた。
 本当に、ポーリーは一度も現れなかった。

■七月のおだい「ほうき星」

  眩しい世界の扉が開いた
  もう一度何かを始められそうなんだ
   (the pillows「ザ・サードアイ」)


「どうだ?」
 山中は左手をわきわき動かした。「ギター触ってる?」みたいな意味だと僕は思った。事実そうだろうし。
「まあ、おかげさまで」
 無精髭面の男は微笑んだ。この男が笑うと本当に怖い。
「あぁ、そうだ。これ」
 山中が取り出したのは紙切れ一枚だった。
「……なんですか、これ」
「俺、バンドやってるんだけど、今度来ないか?」
「え……」
 正直、気が引けた。ライブのチケットというものは高価だし、そういうものを貰うのは、どうなんだろうか。
「一応言うが、もともと一枚千円するかしないかだ。そんな気にするなよ」
 顔に出ていたらしい。
「でも……」
「いいから、来い。先輩命令だ。オーケィ?」
 無精髭の悪そうなお兄さんを前にすると、答えは一つだった。

 彼らのライブは土曜日に行われた。かなり小さいライブハウスで、人もそこそこだった。出演表を見て事前に山中から教えられたバンドの名前を探す。あった。「LATE BOOMERS」。彼らは前座でやるらしかった。
 山中はチケットを渡すときになにか言っていたが、まずは楽しもう。
 会場は薄暗く、出演者を照らすライトだけの簡素な作りだった。
 真ん中の一番前を何となく陣取った。人もまばらだし、まあ迷惑もかけてないだろう。
 照明が完全に落ちて、出演者を照らすライトだけが残った。微かな声援と共に、現れたのは三人の男女だった。
 ベーシストは筋骨隆々のがたいのいい男。ギタリストは髭を剃った山中だった。最後に入ってきたドラマーを見て、僕は固まってしまった。日系の顔で、髪は金色に染めているんだろう。どこからどう見ても日本人だ。かけ離れてる。けれど、彼女はポーリーにしか見えなかった。幻じゃない。現実だ。
 僕の硬直はドラマーがスティックをたたき合わせる音で終わった。
 はじけるようなギターサウンド。それを支えるベース。この二つが相まって美しい刺繍のような精緻な織物を作り出す。それを運ぶドラムのテクニック。
 リフが切り替わり、アルペジオへと切り替わる。観客が湧く。ベースの音も静かなものに切り替わった。
「We are fight back you」
 三人のコーラス。と同時に激しいディストーションサウンドへと切り替わった。先ほどの静かなリフは前フリで、この盛り上がりを持ってくるためだったのだ。
 そのサウンドが脈絡もなく切れ、曲が終わったのだと知れた。もう一分くらいあっても良さそうだったが、そこで途切れるのもまた、何か意味ありげだった。
 この後続けてもう三曲披露したが、全てが彗星のように繊細で輝き、そして尾を引いていた。
 数々の歓声を残しながら、彼らは舞台袖へ帰っていった。
 そこで、僕は山中の言っていたことを思いだした。自分たちの演奏が終われば、すぐに来て欲しい、とかそんな内容だった。
 僕はそこから出て出演者用の楽屋に向かった。随分簡単に通してくれて、すぐに入った。そこにはすでにあの出演者達がくつろいでいた。
「来たか」
 山中が言う。
「早く出ようぜ」
 ベーシストが言う。
「そうだな」
 二人は自分たちの楽器を持った。ドラマーだけが自分のスティックを持った。
 僕は何も聞かされないまま三人に着いていき、居酒屋に入るとすぐ彼らは酒盛りを始めた。
「……あの……」
 見知らぬ人にカウンター席で挟まれた僕は隣にいる山中に助けを求めた。
「ん?」
 答えてくれたのはなんとベーシストの方だった。
「いや、あの、今日、山中さんに来て欲しいって言われてきたんですけど」
「そうなのか? おい、山中!」
「んあ?」
 僕の頭越しに会話が始まった。
「んあじゃねェ。お前、今日新しいボーカル連れて来るって言ったろ?」
「なんだよ。もう居るだろ」
「どこにだよ」
「お前の隣だよ」
「えぇ……?」
 そう言ったのは僕とベーシストだった。
「……」
 僕とベーシストは顔を見合わせた。
「……聞いてないですよ」
「おい、山中! 本人にも事情説明してないのかよ!」
「代田、ウルサイ」
「ウルサイじゃねぇ!」
「じゃあごがつばえい」
「そういう屁理屈がうるさいよ!」
「おいお前ら一旦黙れ」
 と言ったのはドラマーだった。
「おい店員、マイク」
 ドラマーはちょいちょいとアイコンタクトで店員にマイクを持ってこさせた。おそらくカラオケである。僕はマイクを持たされ、聞き覚えのあるリフが始まった。知ってる曲だ。っていうかちゃんと断ってくれよ。けれどきつい、ドラマーの眼光の前では唄うしかなかった。
「……」
 歌い終わった。まさか、この曲が今の自分にフィットするなんて思ってなかった。きっと、随分新しい世界の扉は開いていたんだと思う。
 そして、三人からの拍手が起こった。

■Mo12・終日

You saved me the day you came alive(あの日、きみが救ってくれた)
(FOO FIGHTERS/COME ALIVE)




 僕は家で延々ギターの練習をしていた。高校時代の僕はめきめきと蘇ってくる。
「……」
 僕の家は奇妙な静けさに襲われていた。あいつはもう随分と出てこなくなったが、それでも部屋は暖かかった。けれど今は違う。冷たい。あの、名前も聞かなかったドラマーのせいなのか。
 彼女はポーリーに似ていた。どこがと言われれば、よくわからない。けれど雰囲気が似ていた。
 手を止めて考えているとニルヴァーナのスメルズライクティーンスピリットがかかる。つまり携帯電話が鳴った。
「もしもし?」
『おい、有川』
「なんですか」
『今から今さっき適当に録音したやつを流すから、勝手に入ってこい。いいな』
「え? いや」
『いいから。ギター持ったか?』
「まあ、はい」
『よし、流すぞ。3,2,1』
 ドラムスティック同士が打ち合う音。エレキベースの重低音。その後、際だつアコースティックギターのアルペジオが始まった。
 僕はギターの横に携帯電話を置き、その展開を見極めてベースの音に近い低音の単純なコード進行をした。ドラムの音が勢いを増し始める。心の中で三つ数え、この後来るであろうサビを支える音を出した。
 予想通りサビはアコギのくせに激しいサウンドで、僕とベースとドラムスがそれを支えた。
 曲が終わり、僕は携帯電話を取った。
「どうでした?」
『ほら、予想通りだろ。じゃじゃ馬よ』
「え? そこ誰か居るんですか?」
『今スタジオ。ほら、コンビニの裏にある』
「あー……」
 実を言うと僕は知っていた。
『お前、高校でもギターやってただろう。有川』
 声が変わった。女性の声だ。
「あ、ドラムの……」
『宇摩』
 彼女は淡々としていた。
「宇摩さん。……僕は、確かに、やってました」
『ニルヴァーナのダムとピロウズのブラックシープを弾いて学校中を哀しい気分にさせたと言う話は聞いている』
 知ってんのかよ。
『え? あの『狐田お通夜伝説』の? 有川が? マジか』
 山中の声が遠くから聞こえる。いつの間にか伝説になっていたようである。やめて。本当にやめて。
『あいつが? 技術のある根性無しだと思ってたけどやるねぇ』
 この声はたしか代田とか言う……、いやちょっとまて。誰が根性無しなんだ。
「で、僕を笑いに来たんですか」
『そうじゃない。……スタジオの場所は判るな。さっさと来い』
「え?」
 電話が切れた。と思うとまたかかり、僕は再び電話を取った。
『ギターももってこいよ』
 また切れた。僕はムスタングをソフトケースに入れて抱えると家を出た。
 スタジオまではすぐであっという間だった。スタジオの前には山中が居てずるずると引きずられるように僕は貸しスタジオの中に入った。
 中には代田と宇摩が居た。
「きたか」
「おぉー」
「早速だが、お前に頼みたいことがある」
 宇摩がやって来て僕に楽譜を渡す。
「……これは?」
 僕は楽譜を見ながらきいた。
「ギターが足りないんだ。歌詞もない。ギターは考えてあるが、歌詞がどうにも。……できるか」
 宇摩は僕に何かを求めていた。答えなんて決まっていた。
「わかりました」
「三人で録音したやつがあるんだ。聞いた方が良いか?」
「お願いします」
 宇摩は自分のポケットの中からアイポッドを取りだし、操作するとイヤホンに繋いで僕に渡した。すこし戸惑いながら僕はイヤホンをつけ、再生ボタンを押した。
「……」
 あの曲だ。彗星のような、一曲目。
「これ、ライブでは一回だけコーラスしてませんでした?」
「あぁ、あれか。……山中がボーカルを連れてくると言うからそのときだけだ。……英詩でも日本語でもどっちでもいい」
 つまり、僕のためだけに? 少しだけ嬉しかった。僕は眼を閉じて集中する。ソングライティングなんて、何年ぶりだろう。そうだ。ギターを辞めてから、もうそんなこともしなくなった。
 ふつふつと歌詞がわき出て僕はメモ帳に書き出す。
 何時間経ったのか、まだ数分なのか、僕の歌詞は完成した。
「……出来ました」
 曲の打ち合わせをしてい宇摩たちは驚いた顔をした。
「もっとかかると思ったぜ」
「今から弾く。お前は出来るだけ弾いて欲しいが……、とりあえず唄え」
「え?」
 歌詞を見せるだけだと思っていた僕は驚いた。いきなり唄わされるなんて。
「いくぞ!」
 彼女はドラムの前に立ち、山中はギターを抱えて肩をすくめた。代田は僕の前にマイクのついたスタンドを持ってきた。
 僕は慌てて持ってきたエレキギターにストラップをかけてアンプに繋いだ。
 ドラムスティック同士が打ち合う。1,2,3。

  サヨナラも言わず、彼女は消え去った
  さよなら彗星。明日には忘れるよ。
  こんにちはも言えない僕は消え去って
  夜明けの庭で遊びたい。

  けど何だっけ。
  あの星の名を教えてよ。

  やあやあ、皆さん。
  思ってもいない台詞。
  さよなら彗星。明日には忘れてよ。
  こんにちはも言えないあのころは
  夜明けの庭で遊んでた。

  それももう終わりさ。
  僕は大人になったんだった。

  今日も僕は思ってもいない台詞を吐いてる。
  あのころの僕はもう忘れてくれ。
  涙が出そうさ。

  君が現れるのはずっと先の話さ
  さよなら彗星。君は驚くよね。
  僕は変わりすぎた。裸足で出歩けなくなった。
  夜明けの庭で遊びたい。

  さよなら彗星。さよなら。

  今日も僕は思ってもいない台詞を吐いてる。
  あのころの僕は忘れてくれ。
  涙が出そうさ。

 ディストーションサウンド。間奏に入った。僕も気づけばギターを掻き鳴らしていた。
 間奏が開ける。

  こんにちはも言えない僕は忘れられ
  消え去った彗星も忘れたころ
  こんにちは彗星。
  夜明けの庭で誘ってくれ。

  言葉が詰まって何も言えないよ。
  そうして僕は庭に飛び出すのさ。

  今日だけ僕は靴を脱いで
  夜明けの庭で遊ぶんだ。
  久しぶりだね。僕も着いて行っていいかい?
  いいよね。

 千切れるようにして音が鳴り止む。曲が終わった。気が付けばもう星が出る頃だった。
「……もう夜なんだ……」
 後ろの方では膨れあがったスタジオのレンタル料金を巡って山中と代田が言い争っている。
「有川……」
 隣で宇摩が星を眺めている。
「なんですか?」
「ボーカルギター、やらないか?」
 結局割り勘で落ち着いた二人の馬鹿騒ぎが自然と静まった。
「……僕は、高校生の時、弾き語りをしました。けど本当はちゃんとバンドのメンバーが居て、ちゃんとした曲をやる予定でした。……けど彼らは現れなかった。もう、ギターなんて、バンドなんてって思ってたけど……。なんだかんだでここまで……」
「で、やるのか」
 宇摩は僕の言葉を切っていった。後ろで山中と代田が目頭に指を当てて首を横に振っている。
「やります」

■Mo12・天満月

昨日夢で見たんだ。三日月に腰掛けて、内緒話でクスクス笑ったの憶えてる?
     (the pillows「Rodeo star mate」)


 宇摩(うま)はいつだって突然だった。
 日曜の朝、深夜までコンビニでバイトをしていた僕は泥のように眠っていた。
『久しぶりだね』
 まどろむ僕の前に現れた女性が誰なのか僕にはもう判らなくなっていた。
『そろそろ行くよ』
 うっすらと消えていく女性を見送りながら目が覚めた。幻覚なんだろうか、と目を開けると薄暗い部屋の外がなにやら騒がしい。僕は扉を開けて外を確認した。
 金髪の女。銜え煙草の煙が目の前にあった。僕は咄嗟に扉を閉めた。チャイム連打。耐えかねた僕は扉を開けてしまう。宇摩を筆頭に山中と代田(しろた)が入ってきた。
「曲作るぞー、曲」
「いぇーい」
「初、作詞作曲・有川ユキト」
 彼らは低いテンションでそんなことを言う。来た理由はわかったけれど、イヤなら来なければいいのに。
「作詞作曲って……。作曲なんてやったことないですよ」
「うそつけ……」
 宇摩が言う。
「……」
 本当は中学から五年間くらいやってた。高校を卒業してからめっきりやらなくなったのだ。
「やるか? やらないか?」
「やります、やりますよ」
 僕はギターをアンプに繋いだ。そうだ。さっきの夢を歌にしよう。そう思うと自然に曲が降りてきた。

「何で音楽辞めたんだ?」
 宇摩はいつだって突然だった。持参したカップ麺をすすっている。
「なんで、って……」
 僕は次に詩を書いていた。
「まあ言わなくてもわかるよ」
 じゃあ聞くなよ。
 彼女はスープまで飲み干すと既に寝ている山中と代田の上に乗っかった。
「本当はちゃんとバンドやる予定だったんですよ。……でも、メンバーの一人が裏切った。いきなり出ないって言い出したんだ……。他のメンバーもそれに乗った。だから僕は一人でステージに立った」
「それは、よく頑張ったね」
「……」
「私達は『遅咲きの花』さ。お前はこの花の中心にやってきた」
 彼女は欠伸をして目を細めた。
「寝れば?」
「そうするよ……」
 初めて来る男の部屋でこんなにも無防備に眠れる女性を見ながらも、僕はなにも出来ない。他の男も居るわけだし。
「居なかったらするんだろうか……?」
 しないだろう。そんなに飢えてないし。
 僕はギターを片手にまた詩を書き始めた。

■Mo12・行楽

  お互いの欠けた隙間を埋め会った日々。
  あの素晴らしい世界  (the pillows「That's a wonderful world(song for Hermit)」)


 僕らはライブハウスの袖にいた。
「……」
 僕は大変暗鬱な気分だった。宇摩(うま)はいつでも突然すぎる。
「新曲は憶えたな?」
 残念そうな顔で山中(やまなか)がきいてきた。僕は頷き返した。
「音楽を愛してたころのノリを思い出せよ」
 代田(しろた)も今日は優しい。こういうときに限って。
「いくぞ」
 むすっとした宇摩は僕の肩を叩いた。彼女なりの激励なのかもしれない。
 袖から出ると、そのオーディエンスに目眩がした。
「俺たちは前座だ。これから出るムーブメントっつーバンドに、これだけ人が集まってんの」
 山中がギターを抱えながら言った。
「そういうのって、宇摩さんが持ってくるんですか?」
 僕もギターの音階を確認しながらきいた。
「そうだ」
「いくぞ」
 宇摩がスティックを鳴らした。
 僕らはうたを始めた。

 僕たち「レイトブルーマーズ」はもはや打ち上げのためだけにあるようなバンドだと思う。
「あの、結果としてどこに向かってるんですか? このバンドって」
「しらん」
 山中が鉄火巻きを独占しながら言った。すこしは分けろよ。
「俺も実は聞きたかったんだよ。どうなの? 宇摩チャン」
 代田があらびきソーセージを独占しながら言う。どんだけ好きなんだ。
「自分で決めろ、有川(ありかわ)」
 宇摩がビールジョッキ片手に言った。
「僕ですか」
「これはお前のバンドだ」
「……」
 僕は黙ってしまった。どうしろっていうんだ。
「おっ」
 そういう声がした。現れたのは僕たちと同じように楽器を掲げる男、四人だった。
「宇摩さん、おひさしぶりです」
 男女のうち最も身長の高く、黒髪に柔らかくウェーブをかけた好青年が宇摩に声をかけた。
「……もうライブは良いのか、田鍋(たなべ)」
 静かに宇摩が言った。代田と山中と僕は取り残された。
「あいつ、ムーブメントの……」
 代田が言う。
「あぁ……。ギターの?」
 山中が格好いい手つきで目の前にある物を取った。だがそれは鉄火巻きなので格好良さと言っても度が知れてる。というか間抜けだ。
「ムーブメントって、僕らのあとにやるバンドでしたっけ」
「ここいらで一番人気だよ」
 代田が言う。
「終わったあと、お話ししたかったのに……。でも、こうして会えたので良かったですよ」
「あー……」
 宇摩はたいへん面倒臭そうだった。
「すこし、ご一緒させて貰っても?」
「私は構わないが、うちのリーダーが許しはしない。別の席で――」
「有川っ!」
 居酒屋の扉が開き、一人の女性が現れた。その声に僕のウーロン茶を持つ手が震えた。
 顔をうつむけさせた。みちゃだめだ。どてどてと近寄る音がした。またあいつが馴れ馴れしく僕に触れてくる気がした。それは、何としてでも避けたかった。
 だが、そのときは一向に訪れなかった。ちらりとその方向を見ると、隣にいた山中が立ち上がり、机の向こう側にいた代田も立ち上がってあいつの行く手を阻んでいる。
「どいてくれませんか」
「あ?」
 山中の背中越しに、彼の睨む顔が見えた。
「私は、あなた達の、有川ユキトさんに用があるんです」
「ごめんね、いまあいつ、ちょっと気分が悪いみたいだからあとにしてくれないかな」
 代田が優しく言った。
「どいて……」
 あいつは持ち前の強引さで、山中と代田の間に入ろうとする。
「愛野(あいの)、やめろ」
 それを止めたのは田鍋だった。彼はあいつと他のメンバーを引き連れ、居酒屋から出ていった。
「……ふう」
「めんどくさそーな女だったな。美人だったけど」
「ありがとう」
 二人は座敷に戻った。
「いやまあ、お前がつらそーににしてるからな。顔、会わせようとしなかっただろ」
 代田が言う。
「あいつと、どういう関係なんだ?」
 山中が鉄火巻き片手に言った。
「高校の時、僕を裏切った主犯ですよ」
 宇摩はずっと悲しそうな顔をしていた。
「バンドで、ちゃんとした曲をやる予定だった。でもあいつが裏切って、他の奴らも乗った」
「それで、お前、一人でステージにたったのか……」
 山中が目を丸くした。
「だから、バンドをやめたそうだ」
 宇摩がつけくわえた。
「宇摩サン、よくムーブメントのボーカルがそうだってわかったな」
 代田が聞いた。
「ムーブメントのメンバー……、田鍋とは仲が良くて、あいつが新しいボーカルの話をしてたんだ。そして、有田の話も聞いて、ぴんときた」
 宇摩はビールを飲み干した。
「……僕は、僕らは……」
 親友だったはずだ。あの時まで。
 僕が文化祭でバンドをすると言ったとき、彼女は二つ返事で参加してくれた。バンドのメンバーも、彼女目当てで参加した。
 目一杯練習して、本番を向かえた。誰も来ずに、僕は一人でステージに立った。予想とは違うメンバーに客がざわめいた。曲なんて演奏できなかった。
 僕は、ギターを持たなくなってしまった。
「決めましたよ、バンドの方向」
「……」
 三人が静まった。最初から黙っていたが、明らかに「話を聞く」と言うスタンスが見えた。
「ムーブメントを、越えます」

■MO12・落葉

ムーブメントを越えることを目標とした僕らはもっと頻繁に会うようになった。楽器の練習や作詞作曲に対するダメ出しも行われ始めたが、基本的にそれはなく、練習や新曲作りだけだった。
「いや、良い曲書くな。ユキト」
 僕らは開始直前だった。ふいに、山中(やまなか)が言った。
「ありがとう」
 最後のチューニングをしながら答えた。 
 僕らはまたムーブメントの前座として呼ばれていた。僕が今回は引き受けたのだ。
「噂では聞いてたけど、やっぱ広いハコだなオイ」
 緊張したように山中が叫んだ。僕らは調整を終えて袖に戻った。
「ここで、ガツン。と迎え撃ってやる」
 僕は言った。開場が始まって、早めに始まるらしかった。ステージに立つと、向こう側の袖に、見覚えのある女性が居た。
「So long,my comet」
 客に入り交じって、愛野(あいの)の姿が見えた。
「And,――」
僕は山中、代田(しろた)、宇摩(うま)を見た。
「We are ……fight back you!」
 激しいシンバルの音。僕は跳びながらギターを掻き鳴らした。まずは、『彗星』。
 曲が終わり、観客が呆然としているのが見えた。僕は持参のスポーツタオルで汗を拭き、水をほんの少し飲んだ。
「えぇ、――」
 マイクを通して喋った。代田がにやにやしながらこっちの方を見てる。
「今の、急ごしらえにしては上手く行ったよね?」
 客がざわめいた。『彗星』のほうを急ごしらえと勘違いしてるのだ。実際は曲の前のコーラスである。
 それがおかしいのか、山中と代田がげらげら笑った。宇摩の笑い声も聞こえた。僕も、笑う。
 後ろをふり返り、全員の顔をまたみた。そして、そのままイントロを引き始める。シンバルがカツカツカツという音を刻む。
 僕は前を見てマイクに近づいた。みんな僕の方を見ていた。

  一緒にいようなんて言う約束は
  辛い現実に打ちのめされた。
  僕は今、独りでステージに上がる。

 シャン、シャン、シャン、僕は跳んだ。静かな夜から一転して、激しい朝を迎えるような。
 息をすって唄った。

  みんな笑ってた。なんて言おうと笑ってた。
  甘い蜜を吸ってた。
  一緒にいると約束したあれは
  ただの幻だった。
  僕は一人だった。

  幻を見ていた。
  彼女は僕に語りかけて
  彼は僕にギターの音色を思い出させたんだ。
  そして僕は今、光の元に立つ。
  でもね、独りじゃない
  独りじゃない。
  独りじゃない。

 僕は叫び、山中のギターソロが入る。
 ソロが終わり、僕は再びマイクに近づいた。

  幻じゃないな。
  みんな僕に話しかけてくれる。
  みんなで楽器を弾くんだ。1,2,3
  そして僕は光の元に立つ。
  独りじゃない
  独りじゃない
  独りじゃない

 いんいんと楽器の響きが残りながら、僕らは退散した。
 観衆と、あいつに、僕はファックサインを残していった。

■MO12・柚

My girl. My girl. Come back to me.(the pillows「My girl」)

ライブを終えた日の夜、僕は妙な気分になって眠れなくなった。まぶたを閉じると愛野(あいの)の悲しげな顔が見えた。
 頭をふっても、なにをしてもそれは消えなかった。仕方が無くTシャツ一枚で外に出ようとしてその寒さに僕はすっかり眠気を奪われてしまった。
 仕方が無く着込み、外に出た。鍵を閉めてポケットに鍵を手ごと入れると、手は引きこもりになった。
「……」
 マンションを降りて適当に辺りを散策した。人は誰も居らず、世界が滅んだ後みたいな光景だ、と思う。
 陸橋の上に立って下の方を見ていると、不意に人の気配を感じた。
 右を見ると、あの女が立っていた。僕は今まで来た道をふり返り早歩きで来た道を戻りだした。
「ま、まってよ!」
「……」
 ひたすらに僕へ声をかける愛野が居た。
「ま、まてってばぁ……」
 愛野の声がすこし猫なで声になった。そう言うクセが、彼女はなおってない。困ったことがあるとすぐそう言う声を出した。
 僕は立ち止まって、できるだけ声を低くして言う。
「ついてくるな」
 後ろの方でくすくすとした笑い声があった。
「あんまり声変わってないよっ」
 僕はまた歩き出した。
「ついてくるなって言ってるだろ!」
 今度は地声で言った。
「……やっぱり、あのことまだ気にしてるの?」
「気にしてないけど、もうに気してないけど、お前はキライだ」
 僕が言うと彼女の気配が沈むのを感じた。僕は悪くないぞ。
「話くらい聞いてくれたっていいじゃんっ……」
「……」
 その泣きそうな声から僕は必死で逃げた。僕は悪くない。
 とたとた、と駆ける音のして、僕は後ろをふり返った。目の前にあるのは茶色の靴底だった。



 目を覚ますと、やけにかわいらしく、甘い匂いのする部屋に僕は居た。着ていたコートとマフラーは脱がされ、イヤな予感しかしなかった。起き上がると寝ていた場所がベッドの上だと言うことに気づいた。
「……」
 ぼんやりと事の重大さに気づき、飛び退いた。
「おはよう。って言ってもまだ四時前だけどね」
 どこからとも無くやってきたのはロングTシャツにジーンズというラフな格好の愛野だった。
「……拉致!」
「人聞き悪いなあ」
 愛野はむすっと返した。「むしろ助けたことに感謝して欲しい」と言いたげだった。
「なんで僕がお前の部屋で寝てんのさ!」
「有川が倒れるから……」
「お前のせいだろ!」
「大丈夫。その布団去年洗ったばっかりだから清潔だよ」
「清潔じゃねぇ!」
「それにしても有川くん激しかったわ……」
 愛野は両手を頬に当てて言った。付き合いきれない。僕は立ち上がると、愛野の雰囲気が変わった。
「なんだよ」
「話、聞いてくれるまで帰らせないから」
「警察呼ぶぞ」
 僕はそう言って彼女の脇をすり抜けた。
「どうして、話くらい聞いてくれないのよ……」
 鼻声が聞こえた。僕は気にせず出たがすぐに立ち止まり、引き返してしまった。
「コートとマフラー!」
 僕が言うと愛野は目を擦りながら僕のコートとマフラーを持ってきた。
「知ってるよ……。お前が風邪ひいてでれなくなったことくらい……!」
 愛野は意外そうな顔をした。
 僕は愛野からコートとマフラーをふんだくるとそこから出た。

■MO12 七草粥

 ライブ中、突如としてリードギターが消え去った。最初にそのことに気付いた僕はすぐに山中を見た。すると、彼は申し訳なさそうな顔でいたその右手には一筋だけ血が流れていた。
「山中……!」
「大丈夫だよ」
 山中はまた血に濡れる手でピックを握った。
 彼はその後もライブをそつなくこなした。

「ギタリストの爪は慢性的に薄くなるんだよ」
 山中は右人差し指に絆創膏をまいて言った。
「へぇ」
「そろそろ俺もなるかな、って思ってたんだけど……。いてぇな」
「大丈夫なのか?」
「さあ……。まあ、大丈夫だろ」
 山中はぼんやりといった。
「じゃあ、これから二週間は正月休みってことで!」
 そういうと山中は自分のギターを抱えて早々に楽屋から出て行った。
「……じゃあ、解散するか」
 宇摩もそういうと出て行った。
 僕も楽屋から出て家に帰った。
 山中は僕をこの世界に連れ戻してくれた恩人だ。そう思うと、自然に手はギターを抱えた。
「曲、作らないと」
 僕は弦を爪弾いた。

■Mo12 二月分、三月分合併 『LAST SONG !』

 愛野は小さなライブハウスの隅でドリンクを片手に、それを眺めていた。小さなハコに似合う小さなステージ上では四人の男女が楽器を片手に破天荒に動き、それぞれ全く違う音を出しながら共鳴し、一個のバンドとしての音を築き上げていっている。荒く、しかし統制されていた。一見ではわからない、芯のとおった良さがあった。
 いつの間にか曲が終わり、愛野ははっとした。
「Ahhh……」
 ステージの真ん中でギターを抱えた男が呟いた。
「LAST SONG!」

 僕はうんと伸びをした。
「さまになってきたねぇ」
 後ろを振り返ると代田がいた。もうすぐ暖かくなるのだろう。
「今年は桜咲くかなァ?」
 いつの間にか山中もいて、笑っていた。
「おれたちで、今度花見行こうぜ」
「お前飲みたいだけだろ」
「ばれたか」
「山中は飲みすぎだね」
 僕が代田の意見に同調すると山中はやりづらそうな顔をした。
「いやいや、酒は人生の――」
「私も、ギタリストに倒れられちゃ困るから控えてほしいな」
 そういう声とともに現れたのは宇摩だった。
「なにはともかく、明日は派手にやろう」
 僕たちは頷いた。

 端っこの方に、愛野が居ることに気付いた。僕はそちらの方に向かってほほ笑みかけ、そして、言った。
「Ahhh……」
 そういえば今日はどこかの音楽事務所の関係者が来ているらしい。と、宇摩は言っていた。それなのにこれである。本当に可笑しかった。
「LAST SONG!」


 END

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