■実験小説

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■実験小説 「I only sugar in tea 」

 僕が何をしたって言うんだろう。
 僕は喫茶店のオープンテラスで紅茶を飲もうと思ってた。大通りを通る車や人を見ながら紅茶を飲む気分だったのだ。だからそうしようと思った。
 だが予期せぬ出来事が起こってしまった。
 僕を黒い怪物が睨む。
「これ、どうするの?」
 マサイ族みたいな体色。ボサボサで黄ばんだ髪の毛。しかし服装は女子高生その物である。最近の留学生はマサイ族らしい。
「ねぇきいてるの?」
 化け物が言った。
 僕はどう答えようか迷ってたんだ。まさか町中でマサイ族に出くわすなんて思わなかった。しかも日本語を話している。
 化け物は僕の外見で悪いところをでっち上げた。
「髪の毛がボサボサだ」
 これは天然だ。おまえだって髪の色が黄ばんでる。
「顔が白くて今にも死にそう」
 おまえは黒すぎる。
「身体がもやしみたい」
 おまえは熊みたいだ。
「そのTシャツ、絵柄がださい」
 おまえの存在よりマシだよ。
「そのジーンズ、ぼろぼろじゃん。お金無いの?」
 おまえのその黒い制服のスカートはおまえのその黒い脚と一体化してコンニャクに大根が生えたみたいだよ。
「だいたい、あんたの紅茶が私のスカートに飛んだんですけど」
 しかし、まあ確かに言われるとそんな気はしてくる。
 僕は髪の毛がボサボサ。
 もやしみたいな身体。
 絵柄のださいTシャツ。
 そしてお金がない。
 その上就職しそこねてもう全て、全体的に、お先真っ暗だ。
 何事にも弱気で意欲がないし、頭が悪い。
 でくの坊でうどの大木。
 そのくせ誇りは人一倍。
 女の子とは喋れないし、友達も居ない。
 未来なんて知ったこっちゃない。
 昔のことは思い出したくない。
 今は今暮らし。
 ホームレスのお爺ちゃん一歩手前。
 むしろホームレスのお爺ちゃんの方が綺麗。
 老い消えていくなら燃え尽きた方がマシだと銃をとる勇気すらない。
 唾を吐いたらその場から全力疾走。
「おまえ迷惑なんだよ」。言えたは良いが相手は壁。
「君が好きだ……」。言えたは良いが相手はスズメ。
「きみは美しい……」。言えたは良いが相手はカラス。
「きみのためなら死ねる!」。言えたは良いが相手はハト。
「キミの瞳は百万ボルト」。地上に降りた最後の天使。
 気がつくと、化け物を誰か説得していた。
 店の制服を着ていると言うことは、店員らしい。
 絹のような体色。黒く艶のある長い髪。清楚な店の半袖、スカートと相まって清楚な印象。
 化け物はどこかへ退散し、彼女はこちらを見た。
「彼女、随分怒ってましたけど、どうしてですか?」
 僕はいきさつを説明するべく事の発端を話そうと思った。
「僕は、ただ――」
 相手の顔を見れず、つい俯く。

「僕はただ、紅茶に砂糖を入れただけなんだ」




       了
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■実験小説「ウルールズ」

「この、くずッ!」
 一人の少女が叫んだ。夕方の校舎での出来事である。オレンジ色の斜陽が黒いグランドピアノを濡らしている。そのピアノの前に座る少年の前に少女は立ち、顔を真っ赤にし、怒声を発している。その声は教室の外にまで届いているが誰も咎める者が居ないのは、その廊下を誰も通らないからである。
 ピアノのある旧音楽室は一年前まで行われていた音楽の授業で使用されていた教室で、そのピアノの音などを考慮し、部室棟の一番の上の階に備品室と共に置かれていた。故にその音楽の授業が無くなった今、人気は無いに等しかった。
 この二人がこの殆ど廃墟のような音楽室で何をやっていたかというと、文化祭に向けての練習である。
「……」
 西藤というこの少年はただただ押し黙っていた。それにも、彼からすればれっきとした理由あってのことだったが、その理由を言わない。また少女はそれが気にくわないらしく、二人の雰囲気は見る見る険悪なものに変わっていった。
「ちゃんと、符号に従いなさいよ」
 少女――、富田が腰に手をあてていった。その眉間には皺が寄っていた。西藤は彼女が不機嫌であることをわかっていて黙っていることを決めたのだった。
「聞こえてるの?」
 富田の眉間の皺はどんどん深くなってゆく。西藤は、頑固な男であった。
 沈黙が二人を支配してから数十分が経った。あるいは、まったく時間が経っていないかも知れない。それほどこの沈黙は重かった。
「やる気が、無いのなら、帰りなさい」
 富田は絞るようにしてそのことだけを言った。西藤は何も言わず、鞄を取り、教室を出た。
 一人のこされた教室で、オレンジ色の夕日が降った。

 富田が文化祭で一緒にユニットとして歌うことを持ち出してきたのは丁度一月ほど前だった。学校はにわかに文化祭という祭りの色に染められ始め、じわりじわりとそのことを呑み込んでいくようだった。そんななか、富田は西藤に声をかけた。それまでクラスメイトである富田のことを深窓の令嬢の如く思ってきた西藤は戸惑いつつも返事を出し、練習が始まったのだった。
 家に帰った西藤は、着替えもせずベッドに横たわって少しの罪悪感と、勝利の美酒に酔いしれていた。あのごうまんちきで偉そうな女を打ち負かしたぞ。と思う反面彼女の弱い部分をこの一ヶ月で知った分、それがどこか気になっていたのだった。
 そしてそのままぼんやりと西藤は眠ってしまった。
 翌日、目覚めた西藤は身体に、どこかけだるさを憶えた。
 そのけだるさが取れるのを待っていると、西藤は窓から入ってくるオレンジ色の光を浴び、今が何時かを悟った。全ては、あの罪悪感のせいだと知れた。ベッドから起き上がって学校に行こうとすると、身体が金縛ったように動かなくなるのだ。罪悪感が体中を毒の如く駆けめぐるようなそれは、どんどん大きくなっていった。
 そんな状況が何日も続いた。水とたまに取る食事だけで生きているのだ。ただ漠然とベッドの上で過ごす。ただ、それだけだった。
 文化祭の前日の夜、薄い眠りにつく西藤の頭に一つのイメージが浮かんだ。
 白と黒の鍵盤。つやつやの肌触り。
 見覚えのある楽譜。さらさらの肌触り。
 触れたい。あの女の子。逢いたい。
 西藤が覚醒すると、朝になっていた。
 金縛るものは何もなく、まだ寝ぼけた頭には鍵盤の手触りだけがあった。顔を洗い、何事もなかったかのように西藤は家を出た。足取りは重い。それでも、金縛るものなど、もうこの世に存在しなかった。
 西藤が到着すると、教師陣が驚いたような顔で西藤をステージに通した。もうすぐ演奏が始まるようだった。西藤は何事もなかったかのようにピアノの前に陣取った。
 富野はキッと、西藤を睨んだ。西藤が苦笑する。
 メトロノームが鳴る。
 tone……。

 決して、満足な演奏でなかった。それでも、西藤は満足だった。
 幸運な、ひとときだった。

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