■アフター・イメイジ

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■アフター・イメイジ




 なぜ就職しなかったのかと言えばとくに理由はない。パソコン一台でそこそこの収入があることを中学一年生の時に悟った俺に、働く必要なんて無かった。定期的に自分のホームページを更新するだけで良いのだ。高校にも行かずしかし金は稼ぐ。そんな風に生きていくうちに、気がつけば二十六になっていた。世間的にはニートという奴だが、そんなことはどうでも良い。親にも何も迷惑をかけていない。
 俺は迷惑をかけてはいない。インターネットの無料動画サイトでガンダムの動画を漁りながら呟いた。俺は悪くない。金は稼いでいるのだから就職する必要なんてない。自ら社会の家畜になりに行くなんてばかげている。それでも若干の、背徳感というやつから逃れるために、俺は一つのカードに名前を記入した。ドナーカードだった。社会貢献もしている。金も稼いだ。心おきなくプラモデルを買える。
 俺は財布の中にドナーカードと現金が入っていることと服装を確認すると、自分の給料で買ったメーカーも何も判らない――興味もない――安い車の鍵を取って部屋を出た。リビングに出ると妹と遭遇した。大学受験を控える、出来の良い妹である。今日はテスト休みらしい。そんな物があるとは妹から聞かされるまで知らなかった。
「お兄ちゃん、どこかに行くの?」
 妹は単語集をぺらぺら捲りながら言った。顔には乱視用の眼鏡がある。
「あぁ、ちょっと、ビックカメラまで」
 俺の家の近辺にはプラモデルやその他から塗料等々を売っている店が無く、少し遠い家電量販店まで行くことにしている。家電量販店のくせに、割と品揃えが豊富なのだ。
「いってらっしゃい」
「あぁ」
 妹は俺の方を見ようとせず言った。なんだか、珍しいなと思いながら俺は車を止めてある月給駐車場まで歩いていった。
 車のエンジンをかけ、アクセルを踏んで駐車場から出たときに、異変に気づくべきだった。交通量の多い交差点の手前には、大きな下り坂がある。ブレーキを踏んで速度を落とそうとしたとき、スカスカと奇妙な手応えだけがかえってきた。だらだらと脂汗を流しながらどうするかを考えているとき、俺は信号に真っ正面からつっこみ、死んだ。
 作りかけのシナンジュはどうしようか。まだサフすら吹いてないぞ。今さっき死んだにしてはわりと余裕のある事を思っていた。




 私は生まれつき色んな臓器が悪かったらしい。だからいつ死んでもおかしくなかった。それで親は私の生きた証を残そうとしたかったらしく考えたあげく私を芸能界に送った。六歳の時に入ったのだから、もう十年もいることになる。八歳の時に歌を唄ってから、音楽方向で仕事をしていたりする。結構儲かってるらしい。
 それでも神さまは無情で、冷酷で、人がゴミのようだとか普通に思ったりするだろうから、私は今こうやって顔によくわからない、医療ドラマなんかで急患の人がさせられる様なマスクを押し当てられているのだ。そうだ、神さまが悪い。なぜこんなにも冷静なのだろうか。さっき打たれた鎮痛剤やらなんやらのせいだろうか。
 ゆっくりと眠気が襲ってくる。メロンの匂いのする臭いなにか。やたら眩しい。私は眠気もあって目を閉じた。これが、私の見る最期の光景なのだろうか。

 目を覚ました私が見たのは、手を握る姉の姿だった。両親の死んだいまとなっては唯一の肉親だ。
「ハツ? ハツ? 目を覚ましたのね?」
 姉は私の名前を呼んだ。私は何か反応をしようと手に力を込めるが上手く握れない。声をかけようとしてみるが、出てきたのは気の利いた答えなどではなかった。
「シナンジュ……」
 姉はきょとんとした。私もだった。シナンジュってなんだ。シナンジュって。アナハイムエレクトロニクス社が開発した試作モビルスーツでって何で私はこんな事を知ってるんだ。モビルスーツって何。モビルスーツっていうのはガンダムに出てくる……あぁもう何でこんな事知ってるんだ、私は。なに、ガンダムを知らないとな。それはいかん。まずは初代から……。
 私の意味判らない発想の嵐は、医師達の到着によってかき消された。
 説明を聞く限り、最大限に悪くなった私の臓器は、誰かの臓器と取っ替えられたらしい、以上。そんなことを数十分で説明されても困る。理解できるわけがない。
「えっと、つまり俺は死んでいて……」
 口が勝手に喋った。
「俺?」
 姉が怪訝そうに言った。私は慌てて口をつぐんだ。「俺」? なんで?
「あなたは死んでいませんよ。臓器移植によって今、生きているのです」
「そ、そうですか……」
 私は適当に頷いた。
「あの、すいません、臓器を移植してくれたのは、山上 初男という人では?」
 また勝手に口が何かを話した。だれそれ。初男? 変な名前。変な名前言うな。嫌編名前でしょ。小学校の時とかいじめられてそう。よくわかったな俺の古傷を。
 姉の白い目を感じ、私は顔を背けた。医者は目を丸くしている。
「……なぜ、判ったんですか? 提供者の名前を」
「いえ、なんとなく」
 何となくですむわけがない。だが今回はそれで良いことになった。彼の声が聞こえだしたのは、退院してからだった。
 彼は確実に私の中で存在感を増していった。濃く、強く。退院して、芸能活動が一時休止になってから、日に日にそうなっていった。とくに、一人の時。いい迷惑だ。うとうとしていて気がつけば家に訳のわからないプラモデルの箱とスプレー塗料が山住にしてあった。
「もう、なんなのよ、これ」
 ――いやあ、つい……。
「『つい』じゃないわよまったくもう。人が寝てるって言うときに……。迷惑な奴」
 私はプラモデルやガンダムという物がとにかく嫌いだった。
 ――なんだよう。見ろ! この紅い……
「っる、さいわねェ」
「ハツ?」
 ドアの向こうから仕事に行っているはずの姉の声がした。まずい。そう思って何とか取り繕った。気がつくと、彼の気配は消えていた。
 彼が私の知らない合間に何かをしていると言うことは良くあった。例えば、気がつくと部屋のテレビが点いていてガンダムのアニメを映し出していたりする。問答無用で電源を消す。
 ――なにすんだよォ。
「……だいたい、何で馴染んでるのよ……。私の身体に!」
 ――はらわたは俺のだぜ。
「そうかもしれないけど……。けど私の身体でしょう? だいたい、会ってから二週間もしてないのに、なんでそんな馴れ馴れしいの?」
 ――なんでだろうな。俺だってこんな饒舌じゃないさ。身体がないからかな? それとも、俺がきみだから?
 けろっとした口調で彼は言った。
「知らないわよ……」
 ――きみだって、そうだろ? 見ず知らずの男にがやがや口出しするほどきみは面倒見の良いヤツか?
 確かに、言われてみればそうだ。私は、見知らぬ男性にこうまで生意気なことを言える奴だっただろうか。
 ――なんだ、図星か。まあいいよ。俺も可愛い女の子の身体になれて……。何を言ってるんだ。俺は。
「私が知るわけないでしょう」
 数日して、また増えたスプレー塗料をどうするか迷っているとき、彼が話しかけてきた。
 ――なあ、聞いても良い?
「……なに?」
 嫌な予感がした私は少し迷ってから答えた。
 ――何で学校行かないの?
「それは、私が、芸能人だから……。知ってる? ハッツーって……」
 ――あぁ。知ってる! 昔掲示板で叩いた。
 それを聞いて少し嬉しくなっていた私は最期の一言を聞いてこいつに実体があれば殴ってやるのにと思った。
 ――そっか……。あれ、きみなのか。でも、何で行かないの? 今は芸能人休みなんだろ?
「……行かないわよ。行っても、みんな興味本位で話しかけてくれるだけだし……。それでもあなたは、『行け』って言うでしょうね」
 ――どうして、そう思うんだ?
 私は一瞬戸惑った。本当のことを言うかどうか。
「だって、みんなそういし……」
 ――言わないよ。俺は。言えないし。……俺も高校、行ってないよ?
「……ニートだったんでしょ?」
 ――何で判ったの?
「何となく」
 本当に直感的だった。
 ――行かなくっても、お金稼いでたから……。必要ないかなーって。
「……そういう、考え方って、あるんだ」
 ――あるのさ……。
 彼は格好つけた。とても格好良くない無精髭の男が心の中で笑っていた。




 夢を見た。黒い車かなり古くて安っぽい車。その車のフロント部分が開けられて、機械の部分がむき出しになっていて、誰かがそれをいじくっている。若い――。黒髪で――眼鏡を掛けていて――乱視用だ――。ニッパーで何かを見ながら何かを切ってる――。ブレーキ関係――。――ユウ……。お前か――。不意に声。誰……? ――お前だったのか――。
 飛び起きると、私の身体は汗でぐっしょり濡れていた。ゆっくり立ち上がってパジャマを脱いだ。汗を拭いて着替えた。
「……おい」
 私は彼を起こそうとした。それでも、彼は起きなかった。
 今度は冷や汗が出てきた。まさか。そんなことはない。探さないと。どこを? 探そう。まだ居るはずだ。まだ――。
 机の上に紅い完成したプラモデルと、一つの封筒があることに気づくまで、私は長い時間をかけた。封筒を手にとって中にある物を確認した。

 「こうやってきみに手紙を書くのは、恥ずかしいな。また寝不足になったかも知れない。隈を確認しておいた方が良いよ。
  俺はもう、消えることにした。理由は言えないな。けど、きみなら判るだろう? 過ごした時間は少なくとも、俺たちは十分理解し合った。臓器とその主の関係だからな。とにかく俺はもう、きみの身体から出ていくことにする。最期に一つ、きみはそのままで良いと思う。
  ニートに言われたって、困るだろうけどね。
  あと、シナンジュをよろしく。良いヤツだよ。あぁ、最期に、一つだけ。もっと牛乳飲んだ方が良いぞ。育ち盛りなんだから」

 最期のは、余計だ。そう思いながら私は鏡を見た。隈はない。窓から入る朝日がカーテンに遮られて、わずかな光だけを通している。もう冬か。そうぼんやり思いながら紅いプラモデルが、格好良く光った。行くところは、もう決まってるはずだ。そう。決まっている。

 彼の家はなぜかわかった。それはそうだ。私は彼だったんだから。見覚えのあるような無いような家から、黒髪の少女が飛び出してきた。乱視用の眼鏡。
「……山上、優子さんですか?」
 彼女は私を見て驚いたようだった。
「あなたのお兄さんを殺したのは、あなたですね?」
 急に彼女は泣きそうな顔になった。いいや、泣きそうだったのは私だ。
「……はい」
 彼女はゆっくり、そう呟いた。
 殺した理由は簡単な物で、彼がニートで家の顔に泥を塗っていたかららしい。
 そこまで聞いて私は聞くのをやめ、その場を去った。数日して新聞に、彼女の逮捕の記事が載った。それはそうだ。警察だって無能じゃない。
 けれど、そんなことはどうでも良かった。
 とりあえず、生きてみよう。このままで良いと言ってくれた人のために。
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■アフターイメイジあとがき

好評(一人に)だったのであとがきを。

最後にステージに立つ彼女の描写を入れても良かったなと今さら後悔しています。まあいいや
元々はチャットで「ニートのお兄さんが整形して性転換して韓国のトップ子役になった」と言うネタ的会話から。
何がどうなってこうなったのかという話。
誰もあとがきなんてよんでねぇよ。しってますー。
そう言えば小説の国に旅立とうとして居るんですがことあるごとに立ち入り禁止のレッテルを貼られている気がしてならない。どうでも良いけど。
自分の価値は自分で知ってるよ。それがロストマンのロストマンたるなんたら。故にロストマン。
ストレンジャーで良いじゃない!(黙



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