■ペナルティーライフ

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■キャラクター紹介



作品に幅を持たせるため、キャラクター表などは作ってないので、矛盾が多いです。いや、そのはず。なので、ちょっと優しい目で見てあげてね


ルーシルア・アファン
二十一歳くらい。
ミドルネームに罪人の「シンズ」を自ら刻む黒髪の青年。
かつて〈碧の国〉最強の剣士だったが、幼馴染みであり、〈碧の国〉王女、サークナヤ・ラブルーを殺害した罪にとわれている。
腰には一本の鉄剣と一本の鞘がある。
動物を引き寄せる呪いにかかっている。
・作者コメント
ペナルティーライフ、通称ペナライの主人公。かなり悲しい人物です。悲劇のヒロイン級。
彼はサークナヤと必ずまた生きて会う約束をしますが、その約束は結局果たされないままとなります。
悲しい人物。

サークナヤ・ラブラック
十二歳くらい。
〈黒の国〉の王女であったが、母親の虐待にあい、逃走を図ったところをルーシルアに助けられる。
勝ち気な性格の少女である。
髪の毛の色は王族の金
〈碧の国〉王女サークナヤ・ラブルーとは無関係
・作者コメント
ペナライのヒロイン。しかし彼女もまた悲しい人物。
ちなみに大人になると彼女は金髪をばっさり短くしますが、コレはサクナとの差別化を計りたかったもよう。そしてルーシルアにもうアタックする予定でしたが彼は軍人となって色々忙しく、自分も公務があるので、殆ど会えない、会っても殆ど話せなかったようです。

サークナヤ・ラブルー(サクナ)
二十三歳くらい。享年十八歳くらい
〈碧の国〉王女にして謎の死を遂げた。側近で仲の良かったが行方不明となったルーシルアの仕業ともっぱらの噂。
王女なので金髪
愛称がサクナであった。
・作者コメント
正直、ルーシルアと恋人とかじゃないなぁ。
姉と弟みたいな感じかな。ルーシルアもそう思ってるし。
彼女が自害した理由は、父親の完璧主義が原因。上のヒロインとは無関係。念為

バッムン・ノシロア
二十二歳くらい。
ルーシルアが現れるまでは〈碧の国〉最強といわれていたが、少年時代ルーシルアとの対決により負ける。
実はお人好しで〈朱の国〉に立ち寄った際、小さな少女を助けるが売春騒ぎに発展。一転し、負け犬人生を歩むが、〈黒の国〉の女王に拾われ、戦士長となる。
しかし最終的にサークナヤを逃がしてしまい、解雇となる。
・作者コメント
ロリコンで有名(笑)
で、す、が。今回は嵌められたと言う設定に。けど少女好きなのは同じようで。
困った女の子を見つけると助けてあげたいという人なのかな。そのせいで酷い生活を送った時期があったけど。
結構なまとも人間。てか紳士。ジェントルメン。変態じゃないよ。念為!

レーベン・ルクスリエース
二十五歳くらい。
貴族の生まれで金髪。サクナのことが好きで、許嫁だったが、ルーシルアが現れてから良いことがなかった。だがそれでもサクナが幸せならと思っていたが、サクナがルーシルアに殺されたという噂を信じ込み、ルーシルアへの復讐に燃える。
・作者コメント
C,Vは要潤(笑)
幻想の復讐に燃える。ちなみに噂流した張本人。
彼もムラースさん所でせっせと修行した。自ら彼女に弟子入りしたのは彼が初めて。の、はず。

ファンタン・ゴースト・カッツェ
年齢不詳。おそらくルーシルアよりも年上だが、見た目は十三くらいに見える。
妖獣で、髪の毛は緑色。
普段は戦わないが戦闘能力は高い。正義が好きで、悪嫌い。そのためルーシルアの過去が暴かれたさい、ルーシルアのもとを離れた。なお、そのときに彼女の初恋は失恋で終わっている。
普段は人間だが妖獣の姿になると、犬のような狼のような怪物となる。が、その姿は神々しい。
・作者コメント
可愛い(何
いや、脳内ビジュアルがね。うん。
かなり騙されやすい人。ルーシルアからもいろんな面で騙されてる(笑)
上では失恋と書きましたが、未だにちょっと気があるもよう。
ツンデレ? ツンドラか。いや、ツンデレだな。

ムラース・フラウウェア・ロゼ
年齢不詳。おそらく、五,六世紀生き続けている。見た目は二十代。
不老種族であるフラウウェア。
〈碧の国〉の将軍で、ルーシルアに剣術などをたたき込んだ張本人。剣術の鬼
ルーシルアにとって母親のような存在であるらしい。
・作者コメント
ボンキュ
よっちゃんが好きなキャラだったはず。
フラウウェアというのは雌雄一体の種族で、男女を行ったり来たりしている種族。サクナの初恋はこの人に持っていかれました。
一言で言うならばクマノミエルフ。
なんか、俺の中でものすごくえろいイメージあるんだが、何で?(しらんわ)

クンファー・ゴドーク・インケージ
二十代
神官で、腰の剣は決まった時間にしか抜けない。
リセのことが好き
・作者コメント
ロリコンとかじゃないよ。念為。
リセの前では吸わない煙草。
剣術は結構強いらしいね。この子。

リセ・ゴドーク・ベビアン・スタース
実はリセ・ゴドーク・ベビアン・ロッタ・アウォン・ライドン・シューター・スタースが正式な名前。あまりにも長いため、適当に略しているが、種族名、職業名、姓は名前にいれる必要があるため、上の名前で落ち着いている。
純粋な心を持ち、超直感で有名な種族、ベビアンである。ちなみにベビアンが取る歳のスピードは遅い。
クンファーにべっとりだが、どちらかというと恋人より父親のような存在として受け止めている。
身長が高く細いが、出るところは出るという美しいラインの体型のため、ギャップで笑われる事もおおい。
本編では囚われの身となっている。
ちなみに身長はクンファーよりも高い。
・作者コメント
アウォン・ライドン・シューター・スタースは「アイ ウォント ライド オン シューティング スター」から発展。
ベビアンを一言で言えば人間版アホウドリ。誰にでもついていきますよー。ちなみになぜプリズーンで捕らえられたかというと、市長さんを見た瞬間に、こいつイヤなヤツだと悟ったから。それを言って捕まりました。
牢屋でなぜあんな格好(すっぽんぽん)になったかというと、市長(と作者)がいやらしいから。
どういうカミングアウトだよ。

ハーン
十八歳くらい。
ムラースに剣術をたたき込まれた可哀想な青年。
ルーシルアに憧れ、そして失望した人間。
・作者コメント
ムラース将軍に筋を認められて良いことがあった人間は誰ひとりとしていない(笑)
ハーンという名前は時の神・ハーンから来ているそうですよ。ちなみにあっちの世界でハーンは主神らしい。

シャン、エネトゥス、ルラム
シャン(二十代・女)
エネトゥス(四十代・男)
ルラム(十代・女)
法の都プリズーンに自由を求める三人の戦士。
エネトゥスとルラムは師弟関係にある。
・作者コメント
ルラムには持っている物がどんどん重くなるという呪いがあります。そのため結構むきむき(笑)
しかしそれを利用した剣術を使います。破壊力は抜群。
エネトゥスはオッサン(笑)
結構強いらしいですが目立ってません。
シャンは……特筆事項無し!(笑)
式を放つ銃みたいなのを持っている設定だった。が、やはり目立ってない。
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■用語解説

人間。
特筆事項無し! 鏡の前に立てばどんなのかわかるはず。

フラウ・ウェア
主に褐色肌が多い。
三角耳というのはようするにエルフのそれ。
不老種で、雌雄同体。生理的に雌雄が入れ替わる。そのため一目惚れした彼女は……。なんて事がまぁまぁよくある。
あと白髪が多い。白髪というと聞こえが悪いので純白とでも言っておく。ちなみに白は神聖な色で、精霊とか、霊的な物と関わることができる。そんな設定。つまり生まれながらにしてイタコさんだと(黙
あ、魔法使い多いかもね。ムラースは特殊。そう考えると。

妖獣
妖怪。一言で言うと。
狐みたいな存在だから。あるいはタヌキ。
人を化かすので(偏見ですが)美男子、美少女多し。
髪の毛の色は緑とか、非現実なものが多い。
肌の色は褐色から白、黄色白人的なのまで。

ベビアン
赤ちゃん(ベビー)をそれっぽくアンつけて考えた種族、ベビアン。
最も心が綺麗で純粋な種族。警察に雇われて食べていくベビアンは多い模様。
なぜならば! ベビアンと眼を合わせてうそをつける人間はそういない。いたらかなりの大悪党。
ちなみにその純粋な瞳がいやで一部独裁地域では迫害の対象になっている。
本編中でリセが捕らえられていたのはそのため。ベビアンは超直感で何でもお見通しなのだ。

王族の金
髪の毛の色のこと。
金髪の者は王ないし貴族になる資格がある、と言うもの。

神性の銀
髪の毛が銀色のこと。
銀髪は神に認められた証。
神官になる者に多い。

霊媒の白
字のまんま。白い髪の毛の人は精霊に認められていると言うこと。
なので黒髪から白髪になった人は死期が近づいている証だとか酷いこと言われてる(何

奴隷の黒
これはもう撤廃されましたが、かつて黒髪は奴隷の髪の色だった。
国民的な髪の毛の色だが、これは「国民は国の奴隷」であることを示していると言われる。

妖獣の緑(あるいは赤、青、紫など)
妖獣であることはまず、髪の毛の色に出る、ということ。
通りを歩いている紫色の髪をしたおばちゃんは妖獣である可能性が高い(黙

ミドルネーム
ミドルネームには、職業、種族などがつくことが多い。
単純に名前のミドルネームもある。

ゴドーク
神官のミドルネーム。
神の犬であることを示す。

シンズ
罪人のミドルネーム。

呪い
人が人にかけることが主。しかしやり方が本当に面倒臭いので、廃れ、できる人はそう居ない。
もしかするとルラムとルーシルアは兄弟なのかも知れない。


コラム・年を取るあれこれ

皆さん、円柱を想像してみてください。その円柱の中にはそれぞれ層があるのです。それが、それぞれ種族にとっての世界です。
なぜ、フラウウェアは不老不死なのでしょうか。正確に言うと、不老不死ではありません。ゆっくりと、次第に年を取っていっています。それなのに、なぜ不老不死なのでしょうか、それは、彼らの生きる時間(世界)と人間界の世界がずれているからです。要するに精神と時の部屋的なアレです。生きる世界が違うために、寿命が延びるのです。つまり、フラウウェアは自分の世界(レヴラント)に戻れば、八十年くらいで死にます。人間は一分で一歳くらい年取りますが。いや、もっとか。一秒一歳?
ちなみに、シケーダというそれはもう美しい声を出す種族がいますが、人間界では一週間の命です。彼らも自分の世界だと八十年くらい生き続けます。人間は長生き、フラウウェアはもっと長生きですが。
なので、真の不老不死はこの世に存在しないのだ……。少年よ……。
フラウウェアは単体で……二十世紀ですね。5,6世紀で二十代なので(ムラース換算)。二十世紀生き続けてやっと死にます

■一頁

流用。
何も手は加えていません


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■二頁

 ルーシルアが言うと、バッムンは自分を笑うように鼻を鳴らした。
「たしかに、そうだろう。そうなるだろうな」
 ルーシルアは意外そうに目を丸くした。予想外だった。もっと反論してくるかと思ったのに、とルーシルアは心の中で残念に思った。なぜだろうか、そういう気になった。
「おい、いいか。お前は、ここには居なかった。その子は、一人で森の中に逃げ隠れ、俺の眼をごまかした。わかったか?」
 バッムンが何を言おうとしているのかはわかった。
「お前……いいのか?」
 半信半疑だった。不意を打って殴られるかもしれないと思ったが、どこかそれは無いと確信できた。
「行け。俺だって、大切なものは守りたいのさ」
 ルーシルアは少女を肩に抱えた。少女が喚くのは全く気にしていなかった。
「……後悔するなよ」
「しないさ。自分で選んだことだ」
 ルーシルアとバッムンは、しっかりと視線をまじえ頷きを交わすと、ルーシルアは森へ、バッムンは城へ、駆けていった。二人とも、同じ事を呟いた。
「あいつ、変わったな」
 それはまさしく、久しぶりに会った懐かしい旧友同士の言葉だった。 

 日も暮れかけ、森の中ははやくも眠りにつこうとしていた。煉瓦路を通る馬車も次第に少なくなり、ついに途絶えた。
「……」
 森の中の少し場所が開いたところで、黒髪の男が熱心に〈式〉を書いている。円の中に色々な文字とも記号とも判別のつかないものを書き入れ、〈式〉を終わらせる。
 ルーシルアは、ある特定の式の中で寝なければ、自分のある特性を押さえられないからだった。その様子を退屈そうに少女は見つめた。
「よし」
 ルーシルアが手に持った白い円筒形の物を腰に備え付けた小物入れにもどすと、二本ある剣の鞘同士が当たり、音を出した。
 しかし、鉄剣が一本あるのに対し、鞘は二本あった。中身の無いからの鞘は装飾も流麗で美しく、本体もさぞ美しいだろう、と少女はぼんやりおもった。
「なぜ、式を書くんだ? そのままでも寝られるじゃないか。この国は一年中温暖だぞ」
 少女が問うた。
「俺の体質でね。外で寝るときは、これを書かないといろんな動物が寄ってきて、寝れてモンじゃない」
「へえ」
 少女は適当に返事した。
「お嬢ちゃんも、この式の中で寝た方がいい。温暖でも、狼くらいは出るだろ? これは獣よ
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■三頁

けの効果もあってね」
 ルーシルアはそう言うと、式の中に寝ころんだ。
「『お嬢ちゃん』じゃない。私には、れっきとした名前があるんだぞ」
 ルーシルアはひらひらさせながら言う。
「へえ、どんな名前なんだい?」
「サークナヤだ」
 ルーシルアの手が止まった。止まり、震えている
 その手を握りしめ、空を睨んだ。空は木々の葉で隠れ、見えない。しかし、ルーシルアには空が見えた。一つ、月だけが輝いている。ルーシルアには、確かにそれが見えた。
「……『いつか、いっしょに』か」
 ルーシルアが呟いた。
「……サークナヤ……」
 苦い薬をゆっくりかみ砕くようにルーシルアが言った。少女が不思議そうに首を傾げる。
「俺は、ルーシルア……ルーシルア・シンズ・アファンだ」
 男が呟くように言った。
「……なあ、ルーシルア、一つ、私に頼まれてくれないかな?」
 サークナヤが言い、ルーシルアが体を起こした。その顔を見て、サークナヤはぎょっとした。さっきまでの健康的な顔が、青白くなっていたからだ。
「ど、どうした?」
「いや。なんでもない、昔のことを思い出しただけだ。で、なんだい? 頼み事って。」「……私を、〈碧の国〉まで案内してくれ」
 そう言われ、ルーシルアは病的な笑みを浮かべ、空を見た。そこにはもう月が無くなっていた。
 その横でサークナヤは、ああだこうだ思案している。断られると思ったらしい。その光景を見て、ルーシルアはまた別のほほえみを浮かべた。
「ええと、うぅん、何が良いかな……旨い物とかか?」
「おい」
 サークナヤを、ルーシルアは見た。サークナヤもルーシルアを見ている。ルーシルアのこれから言うことに期待しているようだった。
「連れて行ってやるよ。サクナ。」
 いきなり愛称で呼ばれ、サークナヤはどきっとした。サークナヤはするすると頭に手を伸ばし、帽子を取った。頭の上でまとめられていた髪紐を取ると、さらさらとした腰ほど間である髪の毛が現れた。
 その様子に、ルーシルアは笑った。悪い冗談だ。うりふたつじゃないか。俺は呪われているんだ。そうだろう? 笑えない。そんな風に思っていた。
 サークナヤが式の中に入ってくると、ルーシルアは身体を横にして、目を閉じた。

 目覚めると、背筋を伸ばしながら昇ったばかりの朝日を眼にうけた。矢のように鋭いが、や
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■四頁

さしい。今日は良い日になりそうだ、そう思った。
 〈式〉の外に目をやると、野ウサギが一匹倒れている最近いつもそうなのだ。
 式の外に出て野ウサギをひろう。硬直もしておらず、ま新しい。狩ってから数分も経ってない。
「……うれしいけど、気味がわりいなぁ」
 独り言である。しかし、まだ近くにいるはずの顔も、名前も知らない誰かに言っているつもりだった。風が吹いて、背の低いところに生えた木の、葉がかさかさと乾いた音を立てた。
 とりあえず、食える物は食うのがルーシルアの動物に対しての礼儀だった。
 ナイフで捌いて、調理できるような状態までにすると、ルーシルアは腰の火種箱から火の種を出すと、そこにおいた。すると、薪もなしに、火が燃えさかった。そこに兎の肉を放り投げる。
 そろそろ、やけたかな、と思った瞬間、間抜けな声が聞こえた。
 サークナヤである
「お早う」
「おはよう」
 多少は寝ぼけているようだったが、すぐにルーシルアの傍らに座った。
「……暖かい……」
 細い声だった。今にもかき消されてしまいそうだった。本当に、しみこむような声だった。
「……よし、もう、肉が焼けたかな」
 そう言って、指を横に一直線振る。火が、まるで最初から無かったかのように消え失せた。焼けた後もなく、丁度よく焼き目の付いた兎肉があった。
「……友達がくれたんだよ。便利な火種だろ?」
 そう言うと、肉の一つをサークナヤに渡した。
 サークナヤは黙々とそれを食べ始めた。まるで何週間も食べ物を口にしてなかったかのようだった。
 ルーシルアはと言うと、兎の骨やらを加工している。兎の毛皮やら、骨やらが器用に変化していくのをサークナヤが見つめた。
「これを売れば、一日分の宿代くらいは稼げる」
 サークナヤが丁度食べ終わるころにルーシルアの作業は終わった。ルーシルアは兎の肉を一つ口に放り投げると、残った肉片の一つを大きな石の上に置いた。
「……ちゃんと、喰えよ」
 サークナヤが首を傾げたが、ルーシルアは何も答えず、荷物をまとめた。と言っても、外に出している物は少ないし、持っているものも異様に少ない。腰の周りに様々な巾着袋が下がっている。
 びょう、と乾いた風が吹くと、石の上にあった肉片が、消えた。
 サークナヤが目を丸くした。
「いくぞ、サクナ」
 サークナヤが言われて、少しとまどいながらも頷いた。
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■五頁

「……風の、精霊さ」
 説明するようにルーシルアが言った。
 二人の後には、一陣の風が、追いかけるように奔った。

「……ッ」
 サークナヤが何も言わずについてきているのを確認しながら、一行は確実に歩を進めていた。
「休むか」
 ルーシルアがそう言った。もう限界だと、ルーシルア自身感じていた。サークナヤの限界を、だ。 
大きく飛び出した岩や樹の根を椅子代わりに座った。
「なぁ、どこを仲介していくんだ?」
 ルーシルアは答えず、地面に埋め込まれた濃紺の煉瓦を指差した。
「……中央街道……」
 ルーシルアは頷いた。
「ま、ゆっくり行こう。急ぐわけでもないだろ?」
 サークナヤは何も言わず、ただ地面を眺めていた。
 ルーシルアも、それにつられて地面を見た。小さな虫たちが蠢いている。
「すまない」
 ふと、それを誰かの声が遮った。
 紅い神服を着た神官で、腰に差してある剣には鍔と柄の区別も付かないくらいに鍵鎖が何重にも巻かれて、抜剣が出来なくなっていた。
「なんだ?」
「私は宣教神官の、クンファーと言う。この近くで、私と同じ服を着た、女性の神官を見なかっただろうか。名は、リセというのだが。」 
「しらん。」
 ルーシルアはさっぱり言い切った。かなり清々しい言い方で、相手の反論、疑問は一切受け付けない。と言うような言い方だった。
「そうか。では、私は近くの街にいるから、もし見つけたならば、声を掛けてくれ」
「わかった。みつかれば、な」
 クンファーは神服を翻し、獣道とは言えないような、そもそも道なのかすら怪しい偶然その一線だけに草が生えなかったと言うような道を、狼のように走り去っていった。そこだけ見れば、神官には見えなかった。
「……恋仲か」
 ルーシルアは、呟いた。さっきの神官に向けて言った。
 そうしていると、サークナヤの身なりが気になった。泥で汚れた純白のドレスに、ハイヒール。帽子を被っているその姿は、もう少し年を取っていれば、画家から絵のモデルに選ばれそうである。だが、それは旅には向いていない。
「次の村で、金になりそうな仕事を、探そう」
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■六頁

 ルーシルアは告げた。
「次の村? 近くに村が?」
「中央街道から少しはずれたところに、村があると、昔聞いた。」
 ルーシルアは立ち上がった。
 サークナヤも何も言わずに立ち上がり、ルーシルアの後をついていった。

 太陽が一番高く昇る少し前、二人は村にたどり着いた。大きな木製の門には、『エインスの村』と書かれている。今は、ルーシルアが兎の骨やらを売りに行っている。
「結構金になったな。最近、骨が品薄らしい」
 ルーシルアはそう言いながらサークナヤの居るところに戻ってきた。
「……雨が降りそうだな」
 ルーシルアは空を眺めながら言った。
「どうして、毛皮や骨を売る?」
「毛皮は衣類に、骨はスープのだしにするのさ。よく知らないが。まあ、売れた売れた。」 ルーシルアはそう言うと、宿舎を探した。それは、案外はやく見つかった。
『雨上がりに見た幻亭』
 ルーシルアは、その奇妙な名前を一発で気に入った。
 小雨も降り出したので、意気揚々と扉を開け、中にはいると、騒々しい酒場だった。一回は食事場も兼ねていて、二回が宿として泊まれる様だった。
 その不快ではない騒々しさ、店内にたちこめる摩訶不思議な雰囲気も、すぐ気に入った。いい場所に出会った、と思った。
「部屋が、一つ空いてないかな? 人数は二人。」
 カウンターにいるずんぐりとした中年の男に言った。髪は赤毛で、厳粛な雰囲気を纏っているのに、どこか上品なおかしみが感じられた。
「へぇ。珍しいね。兄弟かい?」
「まあね。腹違いだけど」
 さらり、と嘘を吐いたルーシルアをサークナヤが尊敬と微妙な気持ちが混ざり合った眼で見つめた。
「そいつは、大変だね。少しおまけするよ。」
「ありがとう。」
 そう言って店主は、鍵をルーシルアに渡した。
「二階の一番奥。」
 とだけ伝えた。
 部屋の一番奥、伝えられた部屋に入った。
「へえ。結構しっかりしてるな」
 ベッドを押したりしながらルーシルアが言う。
「よし、じゃあ、何か金になりそうな仕事を、聞いてくるかな」
 ルーシルアは、部屋から出た。ついてこようとするサークナヤに、待っていることを告げた。
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■七頁

「お前は、待ってろ。場合によっては、危険な仕事もするからな」
 サークナヤは怪訝な顔をした。
「いいから。待ってろよ。追っ手が居るかもだ」
 そう言うと、一気に外へ駆け抜けた。
 雨もまだ降っているが、気にすることなく、歩き出した。村の中央掲示板へ行き、仕事を確認する
「『妖獣退治・千ウィジ』か。結構いい仕事だな」
 そう言うと、それが書かれた紙を引きはがし、となりの市役所に持っていった。灰色の壁で覆われた、少し寂しい小さな市役所だった。
 手続きを済ませ、情報を得ると、すぐさまそこへ向かう。森の中に、妖獣達が居るらしい。久しぶりの、妖獣退治に少しうきうきし、空に雲がかかっているせいか日が暮れている事を忘れていた。
 日が暮れ、やばい、と気がついた時には既に遅かった。数々の虫、獣がルーシルアを取り囲んでいる。
「くそ、忌々しい呪いめ。」
 剣を抜いたはいいが、さっきから虫ばっかり切っている。肝心の妖獣には全く出会えてなかったし、少しずつ体力が削られ、消えようと地面に沈む太陽によって視界が暗くなるなか、ルーシルアは何もできずにいた。
 一匹の狼が飛び付こうとしたのを避けると、狼は第二撃を放とうとした、刹那――。
 風が、吹いた。一陣の風が。
 それは駆け抜ける様にして、虫と獣たちを追い払うと、妙な静けさをもたらした。それは、ルーシルアにとって恐怖でしかなかった。
 命が危うい。そう本能が告げていた。だが、背中を見せて逃げ出せば、確実に殺されることを悟った。
「……はっ、風の精霊か? それとも、妖獣か? ……姿を、姿くらい見せたらどうだ」 背後に気配を感じ、そこに切っ先を向けた。
 サークナヤよりも少し年の高いであろう少女が、そこにいた。
 短い緑髪。みすぼらしいフード付きのケープ。腕の袖は殆どなく、足も太股の途中から裾が千切れたようになっていて、その美しく白い肌を露出させている。
「……まさか、妖獣の正体がお前だとは。」
 ルーシルアは刃を少女の首筋にに向けたまま言った。首筋に生えた若葉色の鱗がきらりと光った。
「……また、逢えましたね。この時を、私は待ち望んでいました」
 ルーシルアは鉄剣を納めた。
「お前に貰ったこれは、なかなかの逸品だ。」
 少女は照れくさそうに笑った。顔を逸らしてうれしそうにしている。
「……なぜ、また俺の前に現れた」
 ルーシルアの顔が厳しくなった。責めるような顔だった
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■八頁

「……あなたと、旅が、したかったんです」
「旅だぁ?」
 あきれかえったような顔。
「話によるな」
 ファンタンはルーシルアと間を取り、どちゃ、っと音のする巾着袋を投げた。
「……なるほど、どうやら、遊びではないらしい」
 きざったらしく言う。ルーシルアはその巾着袋を取った。
「わかった。わかったよ」
 ルーシルアがそう言うと、ファンタンはふ、っと微笑んで、風になって消えた。まるで、恋人に別れを告げる幽霊のような笑みを浮かべながら。

 ルーシルアが店に戻ると、店主がカウンターに座って、少女のほほえましい寝顔を穏やかな顔で眺めていた。その肩には毛布がかかっている。
 それを見た瞬間、ルーシルアはあぁ、まずいなと思った。店にはもう誰も居らず、隅の台の上で、神性の髪である銀髪の女性が竪琴を弾いている。その美しい響きが、より静寂を引き立たせていた。
「あ、わるいね。マスター。もう、営業は終わりだろうに」
「ブスタといいます。あなた方が私達を求める限りは、眠らないよ」
 ブスタは言った。
「最後に一曲、彼女の歌を聴いてくださらないか? 彼女は、耳が聞こえない。歌を唄うことだけなんだ」
 少し哀しそうな――やさしい髭面で微笑んだ。
「わかりました。……おねがいします」
 ブスタが合図をする。女性が頷く。
 琴が、震えた。
 その瞬間、引き込まれた。呑まれるように。
 女が唇を開いた。歌が響く。
 呪われた身体で、たった二人のために唄う。それは精緻な織物のように混じり合い、重なり合い、そして消えることなく、そこにあった。
 誰もが呪われ、それを祝福に変えることができる……そういう意味の詞で、神代の言葉だった。意味は殆ど理解できないが、それのすべてが流れる河の如く美しくながれていくようで、すべてが完成されたガラス細工のようで美しく、そして触れる事すらできない。
 誰かに似ている、そう思った。
(それが誰か、わかってるくせに)
 ふ、と声がした気がする。気のせいだ。そう思って目を閉じた。
 弦が震え、いつの間にか歌は終わっていた。
 拍手が上がった。それが自分の手だと理解するのに時間がかかった。
 女は微笑むと、一礼した。
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■九頁

「ありがとう」
 ブスタはやさしく微笑んだ。
「私はこの店の主として、当然のことをしたまでです」
「……なんだか、逆に眠れなくなったな」
「まだ月は高く上がっています。すこし、昔話でも聞いてくれないでしょうか」
 ルーシルアは頷いた。
「昔、ある旅人が居たそうです。その旅人は世界に絶望していました。堕落した政治に、二極化する市民。増える争いごと。すべてを彼は、見続けてきました。そして疲れ果て自分が休むための街を探すとき、とあるできたばかりの村にやって来たそうです。雨が降っていました。うるさいほど活力に溢れた街。ですが彼はすぐにその街の闇を見いだしました。孤児の多さに彼は絶望し、その街を後にしようとしたときです。歌声が……」
 ブスタはゆっくり吐き出すように言葉を選びながら言う
「……歌声が、聞こえたんです『Appearance of me who reflects in broken mirror. It was thought that it was the world.……Ah. It is me that it was broken.(鏡に映る自分の姿。それが世界だと思っていた。……ああ、壊れていたのは自分の方だ)』旅人はふり返ってみると、そこには一人の、小さな女の子が居ました。旅人が、その子を抱き上げようとした瞬間、その子は幻のように消え去り、雨もあがっていました。『雨上がりに見た幻』旅人はそう呟き、村に一つの店を作ったそうです。」
 ブスタは懐かしむような顔で笑っていた。
「呪いが、祝福に変わることを祈って」
「……呪い……なぜ、それを?」
 ブスタは笑った。優しい微笑みだった。
「世界に生まれるすべての者が、呪いを背負っているのですよ」
 ルーシルアはやさしいほほえみを浮かべ、サークナヤをやさしく、起こさないように抱くと、部屋に上がっていった。
「呪いが、祝福にならんことを」
 その声は、ルーシルアには届いていなかった。

 ルーシルアは驚愕した。
 古びた木造の宿。今にも倒れそうなカウンター。腐った椅子。虫に食われた机。ブスタや、歌い手の女は居ない。天井の屋根も壊れ、砕け、昨日の雨なんてまるで嘘のように、すっきりと晴れた空がそこにあった。
 サークナヤも驚き、きょろきょろしている。宿から飛び出すと、そこには古びた廃墟の山があった。
「……俺たちの、見ていたものは、一体どこに?」
『呪いが、祝福にならんことを』
 声が聞こえた。
「……」
「……悪い冗談だ」
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■十頁

 そう呟いて、宿だった場所の看板をするりと抜くと、懐にしまった。
「雨上がりに見た幻、か」
 ルーシルアはサークナヤに声を掛けると、中央街道を探すために歩き出した。
「いつか、戻ってくるよ。ブスタ。そのときは、俺の話も聞いてくれ」
 ふと、そこに髭面の優しい笑みを浮かべるずんぐりした中年の男が、見えた気がした。
「じゃあな。」
 二人は歩き出した。

 歩き出して間もなく、紅い神服を来た男を見た。
「いつかの旅人殿」
 向こうの方から寄ってきた。
「……恋人は、見つかったか?」
 神官はぎょっとして、顔を逸らした。
「……この時間帯が、神に許された時間なのか?」
「……あぁ、そうだ。」
 剣に巻かれた鎖が朽ち果てて錆びている。神官は神に定められた時間のみ剣を使うことが許されている。
「鳥の寝る時刻から、鳥の起きるまでが、私の定められた時間だ」
 鎖がどんどん真新しさを帯びてゆく。錆が取れ、白銀の鎖へと戻った。
「あなた方は、これから、どこへ?」
「黒と碧の街道をいって、〈碧の国〉に行こうとしたところだよ日が暮れれば、野宿か、近くの村に泊まる」
「では、昨日は野宿だったろう。この近くに村はないからな」
「まぁ、そうだな」
 ルーシルアは「お前にはわかるまい」と言いたげな顔で答えた。
「では、少し手伝ってくれないか?」
「手伝う?」
「少し行った所にある街に、リセが居る事がわかった。が、少し、厄介な事になっていて、剣を封じられたわたしひとりじゃ、どうにもならない。だから、護衛を頼まれてくれないか?」
「要するにあんたを守り、あんたの言うことをきけ、っていうことか?」
 神官であるクンファーは頷いた。
「そのとおりだ」
「……」
「その少女、その格好で〈碧の国〉まで連れて行くのはむつかしかろうに」
 どきり、こいつは読心術でも使えるのかと思った。
「私のおさがりでよければ、やるし、ちゃんと金も払う」
 ちくしょう、この野郎。そう心の中で毒突く。こいつは、的確に人の要望に応え、俺を犬にしようとしていやがる。
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■十一頁

 だが、それを断るほどルーシルアの財布は安定していない。
「……わかった、わかったよ。何をすればいい?」
「それは、例の街に着いてから話そう」
 そう言うとクンファーは中央街道をはずれた森の中へ歩を進めた。
 渋々、あとを着いていく二人。
「ファンタン」
 クンファーがまだまだ見える程度に遠ざかって、ルーシルアは呟いた。
 風が巻き起こり、地面の土や落ちた葉が浮く。
「なんですか」
「あいつ、どう思う?」
 瞠目するサークナヤを気にせず、ルーシルアはファンタンに尋ねた。
「……神官であることは、間違いないようです」
「ルーシルア! こいつはいったい?」
 サークナヤが叫びながら言う。
「紹介してなかったか?」
 白々しく言う。
「こいつは、俺の……知り合いだ。ちょっと行き先が同じだから、着いてくることになった、風の精の、ファンタンだ」
 また出た白々しい嘘に今度はファンタンが瞠目する。
「……よろしく、ファンタン」
 まんまとだまされるサークナヤに唖然とするファンタン。
「よ、よろしく」
 呆れたように答えた。
「おい、どうした?」
 神官が聞く。その瞬間ファンタンは風となって消え失せた。
「いや、なんでもない。すぐに行く」

「ここが、山岳都市・プリズーンだ」
 鋭角的な崖を背にした白い石壁で囲まれた白い街がそこにあった。階段のように広がる都市の風景。しかし、そのすべてが機械的だ、とおもった。
「プリズーン? 聞いたことあるな。どの国にも属なさい正義と秩序の山岳都市だったか? たしか、宗教的、倫理的、いかなる概念も通用しない『ルール』のみに支配される、機械と鉄壁の心を持った人間しか住めないような場所だ」
「そのとおり。だが、良いこともある。確実にここは安全だし、差別、格差、そんな物は一切ない。都市から言われた仕事だけをやれば、金が貰える。」
「まるで犬だな。白い面を主張する分、裏に潜んだ暗闇は深くて息もできないだろう」
「そのとおりだ。この都市には、闇の面が濃く、ハッキリ存在している」
 二人が顔を険しくさせながら言った。
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■十二頁

「そんな鉄壁の都市だと思われてるところに、旅人は嫌われる。その上、ドレスを着たお嬢さんなんかが入ってきたら、確実に怪しまれる。だから……」
 そう言うと、腰にある大きな袋の中から、布の塊を放ると、言った。
「……それに着替えてきな、お嬢さん」
「ファンタン、見張ってやれ」
 ルーシルアがそう言うと風が吹き、となりにファンタンが現れた。さっきまで被っていたフードが取れている。そのことに気がついて、さっとフードをつける。それを凝視する二人。ファンタンの顔がみるみる紅くなる。
 そうして、疾風の如く走り去っていった。
「あー」
「……妖獣か?」
「そうだよ。なんだ? 神官のくせに、差別か?」
「いいや。良かったな。『妖獣』が人間と同じ知的生命体と認められたのは、つい最近だ。認められてないのに都市に入れば、即刻殺害の対象になる」
「へぇ」
 そう言うと、クンファーは煙管を取り出し、火皿に火をつけた。
「……神官のくせに吸うのかよ」
「ガキの前だったら吸えないだろ。吸うか?」
「いらね。臭いだけだ」
 クンファーは「それもそうだ」と笑った。
「ちゃんと、名前を言っていなかったな。おれは、クンファー・ゴドーク・インケージ」
 クンファーが煙を吐き出す。ゴドークというミドルネームは、神官のみ許された神に仕える者の証だった。
「おれは、ルーシルア・シンズ・アファン」
 そう名乗った瞬間に、クンファーが煙を吹き出したかと思うと、屈託なく笑った。
「『シンズ』? 面白い冗談だな。罪人のミドルネームか。」
「いつか、そうなる予定だ。」
 クンファーがルーシルアを睨む。「まさか」と言いたげである
「……」
 茂みからサークナヤとファンタンが出てきた。
 くすんだ緑色のパンツ、丸首でめりやすの黒いシャツ。金髪を隠すための帽子。裾も丈も袖も、すべてが長く、不格好だった。
「プリズーンじゃ、金髪は目立ちすぎる」
 煙草を消したクンファーの一言。
「たっく、裾が長いな」
 そう言いながら、ルーシルアはしゃがんでシャツとパンツの裾をめくってやった。サークナヤが抵抗する
「サクナ」
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■十三頁

 ルーシルアにめんと向かって言われたうえ、手をしっかり握られたサークナヤは顔を紅くして顔をうつむく。
 袖が、手首より上に来たとき、それはあった。
 蚯蚓の這ったような、青い痣がそこにあった。細長く、“まるで鞭で叩かれたような痣”。ルーシルアは、さして気にした様子もなく、袖をまくった。
「よし、これで大丈夫だろう」
 ルーシルアがいうと、サークナヤは泣きべそをかく寸前のような顔で、ルーシルアを仰ぎ見た。
「いくか。クンファー」
「そうだな」
 ルーシルアはサークナヤの頭に、手を置くと、クンファーに着いていった。ファンタンもそれに着いていく。サークナヤが歩き出さないのに気がついて、ふり返って立ち止まる。
「……どうした?」
 その口調はどこかいらいらしているようにも聞こえた。
「……泣いているのか?」
 サークナヤは答えない。
「……おいて、行くぞ」
 サークナヤは目尻をぬぐうと、髪が帽子の中に入っていることを確認し、小走りでルーシルアのあとをファンタンと一緒に追いかけた。

 石壁の中は、随分と寂しかった。一面真っ白で特徴なんてありやしない。またそれが、特徴とも言えた。
「下手に露店を開くと、市長直属部隊・白い騎士団が黙っちゃいないんだ」
「『白い騎士団』? なんじゃそりゃ」
 クンファーが淡々と説明する。
「この都市の治安維持部隊で、正式名称は「ジャッジ」その圧倒的な力を武器に恐怖で市民を圧迫してる」
「へぇ。」
「それと……」
 クンファーは歩きながら周りを見まわした。
「……市長の『犬』だと、もっぱらの噂だ」
「イヌぅ?」
「声がでかい。市長の言うことだけを聞き、その命令は都市の戒めすら破らせるらしい」
 ルーシルアが難解そうに頭を掻く。「理解できない」、「もう少し分かり易く言えよ」と言いたげである。
「つまりその市長が幅を利かせまくって最早『絶対的な中立治安都市』ではなくなっていると?」
 にゅう、っとクンファーとルーシルアの間に顔を出したファンタンが言った。文字通り首を
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■十四頁

つっこんだ。
 ふふん、と、ファンタンはルーシルアをあざけるように言う。サークナヤも「私もわかった」と言う風にファンタンの腰にしがみついて、同じような感じで笑っている。そこだけ見ると、どこか複雑な関係の姉妹に見えた。
「絶対理解してねえだろ……」
 ルーシルアによる、子供二人へのぼやき。「いつそんなに仲良くなったんだよ……」
「そう言うことだ……っと、着いたぞ」
 ルーシルアのぼやきに対する回答ではなく、ファンタンの補足への回答だった。
 周りの建物と同化しているやはり真っ白い建物。看板には。「Inn 5」と簡潔に書かれている。
 木製に白い塗料で白く塗った扉。
「この中では、一切喋るな」
 クンファーが強い口調で言った。
 ドアを開け、中に入る。
「四人。一つの部屋。半永住が目的でここに来た。部屋を貰いたい。」
 簡潔に述べると、カウンターの店主が鍵を投げた。クンファーはそれを受け取った。
 ブスタとは違うな、とルーシルアは思った。髭もなく、どこか淡々としていて細い体躯をしている。
「ちょっとまてよ」
 部屋へ移動しようとする四人を、ある男の声が止めた。
 白銀の鎧に身を包んだ男で、がっちりとしたその身体は、猪のようだった。
「これは、誇り高いジャッジのかたではありませんか」
 クンファーが言った。
「こいつを、この汚い動物を、この神聖なる都に入れたというのか」
 男はファンタンを指差した。ファンタンの顔が目に見えて暗くなる
「お言葉ですが、〈碧の国〉の定める国際的な条約では『妖獣を人間と同じ知的生物と見なす』とあります」
「知的な生物だからと言って、人間と同等だと? 馬鹿ではないのか、貴様。我ら高貴な人間と、血肉を貪りくらう妖獣とでは、明らかに地位が違うではないか」
「お言葉ですが、〈碧の国〉の定める国際的な条約では、『この世のすべての知的生物はすべて等しい地位にある』とあります」
 淡々と返すクンファー。
「……貴様……そんなにも、〈ケージ・プリズン〉へ行きたいのか? 他人への侮辱は準二級犯罪だぞ」
「……」
 クンファーが大きなため息をついた。すべての者へ聞こえるようなため息だった。
「貴様……」
「まったく、いちいちうるさいくそったれだな」
 神官が言っているとは思えない、罵詈雑言。
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■十五頁

「まぁ、話すのも無意味だろう。……ルーシルア、“やれ”」
 ルーシルアが目を見開いてクンファーを見る。
「こいつは第一級犯罪である人種の差別、準一級犯罪である〈ジャッジ〉の職権乱用。……そうだな、終身刑あるいは、死刑が早急に言い渡されるだろう」
 ますます目を丸くするルーシルア。
「……よし、分かり易く説明しよう。……目の前にいるくそったれをお前の力で後悔させてやれ」
 ルーシルアがふ、っと笑って剣を抜いた。「最初からそういえ」と言いたげである 
「……〈ジャッジ〉への無意味な抜剣は犯罪だぞ!」
 そう叫んで、金色に輝くなにかを掲げる。が、その輝きはあっと言う間に消え失せていった。
「ま、まさか……」
「お前の職権が消え失せた証だ。」
 クンファーが淡々と言う。研ぎ澄まされた氷のような冷たさがあった。
「闘争による殺人は、犯罪ではない」
 ルーシルアが剣を冗談に構える。空気がその瞬間ぴり、っと鋭くなる。肌に針が刺さる様な痛み。幻の痛が〈ジャッジ〉の男を覆った。だが、その男の痛みが一番酷いだけで、この場にいるすべての者がそれを感じていた。
 雷のおちる寸前のような張りつめた空気。
 ――ぴりぴり
――ぴりぴり
 ――ぴりぴり
 ――ぴりぴり
――ぴりぴり
 ――ぴりぴり
――ぴりぴり
――ぴりぴり
――ぴりぴり
――ぴりぴり
 ――――どっ……
 剣を雷の如く振り下ろすその瞬間、声が、それを止めた。
「双方、止め」
 〈ジャッジ〉の男が、あからさまにほっとする。
 二人の間に割って入ってきた男も、ジャッジであることが姿を見ればわかった。無駄な感情を全てそぎ落としたような精悍な顔は、じ、っとルーシルアと〈ジャッジ〉の男をみる。だがそれは睨むに近かった。
「あ、アダイブ、これは……」
「オーラン・ジャッジ・センタムをケージ・プリズンへ。」
 そう言うと、黄金に輝く何かが現れると、センタムと呼ばれた〈ジャッジ〉の男は眩い光に
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■十六頁

呑まれ、消え失せた。そこには、粗末な紙切れが残った。紙切れには、「Judge」と書かれていた。
「……うちのものがすまなかった。お嬢さん、旅のお方。」
 そう一礼すると、その男はきびきびと宿を出ようとする。ファンタンは初めて「お嬢さん」と呼ばれ、顔が上気している
「……あの男は、どこへ消え失せたのだ? 死んだのか? お前が、殺したのか?」
 サークナヤが呟いた。そのつぶやきを、男は聞き逃していなかった。すたすたとした歩調で、サークナヤの目の前へしゃがむと、二人目を合わせたまま黙っている。
「いいや、あの男は、生きているよ、お嬢さん。牢に入れられただけだ。どの判決が下るかは、我らが法のおもむくままに」
 そのまま手の甲に口づけでもするんじゃないかと思われるほど、礼儀ただしかった。
 いったんの間があって、男は立ち上がった。
「それでは」
 一礼するとそのまま男は宿から出ていった。
「……あいつは?」
 男の気配が完全に消えてから、ルーシルアは言った。剣はまだむき出しのままである。
「〈ジャッジ〉の首領、アダイブ・ジャッジ・ジャスティンガーだ。……それよりも、お前、なんだ、あの剣は」
「剣? 変わった剣技だとは言われる」
「『変わっている』どころじゃない。〈ファントム・ペイン〉を生じる剣技。長いこと世界を回ったが、使える者は少ない。希だ。居たとしても、じじいだ。……その若さで……称賛に値する。それと同時に、敵でなくて良かったと思える」
 さっきまで「殺せ」だとか神官らしからぬ発言をしていたとは思えない誉め言葉の嵐。
「〈ファントム・ペイン〉とは?」
 ファンタンが聞く。つくづく首をつっこむのが好きだな、とルーシルアは思うが口にはせず。
「〈ファントム・ペイン〉というのは、自分から事前に戦闘を避ける技術のことで、相手に幻の痛みを与えて逃げさせ、戦闘を回避する」
「へぇ」
 クンファーの説明にルーシルアとファンタンが驚く
「それは、そんなにもすごい技術なのですか?」
「あぁ。〈ファントムペイン〉というのは、幻の痛み、幻の痛みは、剣を振るう者の殺気によって生じる。殺気というものは、下手な剣よりも鋭いものだ。極論でいえば〈ファントム・ペイン〉とは、生命を内側から破壊する。」
 さらり、と言った。
「……へぇ。そんなモンだったのか、知らずに使ってたな」
「なに? 知ってて使っていたんじゃないのか?」
「いや、ぜんぜん。だったら、くそったれな呪いのせいで動物に囲まれても、これでやり過ごせるかもな」
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■十七頁

「そうか……。……ルーシルア、お前の『呪い』というのは?」
「あぁ? 話してなかったっけ?」
「聞いてないです」
 また首をつっこむファンタン
「……じゃあ、まずは部屋に行こう。ここで話し込むのもなんだし」
 そう言って剣を鞘に収める。
 部屋の中は、案の定真っ白で、すべての家具が白かった。荷物を置く長方形の箱と、ベッドがあり、四つあった。
「俺の呪いの話だが……」
「……よくわからないんだ。」
「え?」
 ファンタンが言う
「わからない?」
「あぁ。わかるのは、夜になると動物やら何やらが大量に集まってくるッてことだけ物心着いたときには、もう、おれは数々の動物の死体に埋もれていたらしい。」
「……そうか」
 クンファーが言う。
「では、明日の行動を伝える。」

 深夜、ルーシルアは意味もなく目を覚ました。
 あくびをして、辺りを見回す。薄暗い部屋。クンファーが居ない。ファンタンも居ない。サークナヤは……と探そうとした瞬間、ルーシルアの毛布の中で、何かがもぞもぞ、と動いた。
 吃驚して、 ベッドからおちそうになりそっとそれを押しとめた。
 もぞもぞ、と動くそれ。ルーシルアはそっと毛布をずらした。そこには、金髪の少女がすやすやと寝息をたてている。
「……」
 なぜか笑みが浮かぶ。
「ルーシルア……」
 寝ていると思っていたが、その眼がぱっちり開かれた事に驚きつつ、返答。
「なんだ?」
「ルーシルアは……人を、傷つけた事が……あるのか?」
「あぁ、あるさ」
 サークナヤは哀しそうな顔をする。
「……なぜ?」
「それが、俺の生きる価値だからだよ」
「人を、傷つけることが……?」
「……傷つけた分、人を守れる。傷つけた分、傷つく。……殺したからには、殺されないといけないんだ」
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■十八頁

「……ルーシルア……?」
 それは、はたから見れば死者が最後に見せるような笑みだった。ルーシルア自信、自分がそんな顔をしている事に気がついていない。
「俺は、お前を傷つけやしない。お前は俺の後に居るんだ。後にいる人間に、俺は、剣を向けないよ」
「……」
「だから、安心して眠れ」
「……死なせやしない……」
 うとうとと眠りにつくサークナヤに言った。多分、聞こえてないだろう
「……」
 自分も眠ろう……と、目を伏せかけたとき、
「『死なせやしない』ですか。あなたの口からそんな言葉が出るとは」
 どきり。
「……ファンタン……」
 意地の悪い笑みを浮かべる少女が壁にもたれかかっていた。
「なんだよ……」
「何年ぶりですか? また、逢うのは」
 そんな声が出るのか、と思うほどやさしい声音
「……二年かな」
「二年……」
 ファンタンが顔をうつむかせる。
「一年は俺を追っかけ回してたみたいだけどな」
 意地の悪いやつには意地悪で返す。
「べ、別に追っかけ回していたわけじゃありません! ぐ、偶然行く方向が同じだっただけで……!」
「偶然、ねぇ……」
 小声で叫ぶファンタンを茶化す。おぉ、面白いなこいつと思いながらさらに茶化す。
「“偶然”俺に食料を提供? そんな偶然あるか」
「ぐ、ぐぅ……」
 悔しそうに歯ぎしりするファンタン
「そ、それは……何も食べていないあなたを不憫に思って……め、恵んで……」
 ろれつが回っていないファンタンを、あざけるように笑うルーシルア。
「これで昼、俺を馬鹿にしたことはちゃらだな。ざまあみやがれ」
「……あなたは……だんだん口が悪くなりますね」
 ファンタンが本当に悔しそうに言う
「これが本調子だ。俺はもう寝るぜ。あした早いんでね」
 そう言うと、ルーシルアは目を閉じた。静かに寝息が聞こえる。

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■十九頁

「……まったく、私も、とんでもない男に捕まりました」
 一人で呟きながらルーシルアの眠るベッドへ近づく。
 ルーシルアの寝顔。本当に可愛い顔で眠るやつだ、と思いながら、その頬に左手を伸ばす。頬に触れ、そっと、撫でた。愛おしそうに、頬に触れた。
 このまま、居られたら。
 ルーシルアの頬にそのままそっと口づけをしようとした瞬間、横にいたサークナヤが、寝言をぶつぶつうわ言のように呟いて唸った。それに驚いて顔を遠ざける。
「……本当に、ことごとく邪魔するやつ」
 顔を紅くしながらぶつぶつ呟いた。
「あなたがそうするのなら、あたしだって」
 変な対抗意識をもやしながら、ファンタンはルーシルアのベッドの中に飛び込んだ。

 朝日で目が覚めたルーシルアは、目が覚めたときには完全に目が覚め、頭のぼんやりとしたものが無く、吹き飛んでいる。
 周りを一瞥すると、部屋にいるのが自分だけなのがわかった。
「おきていたか」
 ドアが開き、クンファーが現れた。紅い神服を完璧に着こなしている。腰には、抜くことのできない剣があった。
「よう」
「下の階で食事でもしてきたらどうだ? 今なら、まだファンタンとサークナヤが居るぞ。二人は今日、この街を探索するそうだ」
「……名前教えたっけ?」
「知らないからさっき聞いた。」
「へぇ」
 あくまで無関心。服装の乱れを直し、髪を整える。
 部屋の外にでて階段を下りると、見慣れた二人がテーブルについて朝食をとっている。サークナヤは帽子を被り、金髪を隠している。
 近づいて、声をかけた
「おはよう、サクナ、ファンタン」
 ファンタンがなぜか睨む。
「なんだよ。あ、昨日の話?」
 それを口にしてさらに眼光が鋭くなった。
「ルーシルア、ファンタンったら、フォークの使い方も――」
「つ、使ったことがないんだからしょうがないでしょ!」
 ファンタンが取り乱して叫ぶ。顔が真っ赤になり、ああだこうだと弁解。それをうち砕くサークナヤ。
「まァ、喧嘩すんなよ」
 二人をなだめ、自分も席に着いた。
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■二十頁

「あぁ! もうこんな時間」
 白々しいファンタンの叫び。すべてはサークナヤの暴言を止めるため。今は「皿まで喰おうとするのはおかしい。」と言うことを喋っていた。
「じゃあ、行こ」
 やっと暴言が止まったサークナヤがファンタンに指示。ファンタンもやっと止まったそれに安心し、二人仲良く宿の扉を開けて飛び出していった。
 そ、っと食器を片づけに来た店員が片づけるついでにルーシルアの前に紅茶を置いた。
 紅茶をすすっていると、今度は朝食が置かれた。焼いたパンで何かを挟んでいる。それを口に入れると、野菜の食感、チーズの香りがそこにあった。これは旨い。そう思いながら次々と口へ放り投げた。紅茶も飲み干して、立ち上がった。
 さて、行くか。
 ルーシルアはそこを出た。

 かつかつと、淡々と、そんな歩調で白い舗装された道を行く紅い神服があった。クンファーである。
 腰の抜けない剣に右手を置き、抜けるわけもないのに抜くような構えをしている。口には煙管。水のように薄い青がかった髪を揺らしながら目的地へと歩いてゆく。
 目の前に現れる白く、四角い建物。堂々と「Cage Prison」と掲げられている。面会する手続きをし、案内する男の後をついてゆく。
 ガラスのように透明な空間の中に、彼女は、居た。両腕を鎖で繋がれ、天井からぶら下がっている。
 目隠し、猿ぐつわをされた姿。殆ど全裸に近い身体に無数の鞭が走り、あかく引っ掻いたような傷を残している。
 クンファーは透明の壁を殴った。すぐに男がそれを止める。歯を食いしばり、暴れる。手足をじたばたさせ、口からは悲鳴ともと言葉ともとれぬ叫びが奔っている。
 ――あぁああぁあああ……

 宿を出て、もう太陽が高く昇る頃。
 うきうきと――サークナヤが鼻歌まじりにあっちの店へこっちの店へ。かと思えばやっぱりこっち、と、往復している。
 だらだらと――ファンタンがため息まじりにあっちの店へこっちの店へ。かと思えばやっぱりこっち、と、往復するサークナヤの後をついてゆく。
 同じものを置いているところが全くなく、飽きないのだ。ファンタンはとっくの昔に飽きてしまったが、サークナヤに飽きる気配はない。
「サークナヤ――」
 そろそろ帰ろう、と言おうとしてファンタンは呆気にとられた。蛇のように続く大行列。今、ファンタンが居る場所がほかよりも高かったからか、よく見える。
「わぁ……」
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■二十一頁

 サークナヤが感嘆する。
 ――やば……。
 ファンタンの所感。
「並んでみようよ」
 ――やっぱり……。
 落胆するファンタンをずるずる引きずるようにして列に並ぶサークナヤ。
 完全にくされた心のファンタン。
 ――もう、どうにでもして……

 黒い礼服の女が、ルーシルアを闘技場へと通す。椀を伏せたような形の闘技場の内部。白い砂が吹き、空気が乾燥している。そんな物よりも、ルーシルアは別のことに驚愕した。
 囲むような大群衆の数。
「まだ来ます」
 どんどん増え、闘技場の観客はぎっちり人で埋め尽くされた。
「まずは、あの狼三匹をたおしていただきます」
 女が説明すると、白い狼が三匹、唸りながら奥の通路から現れた。
「これが『正義と秩序の山岳都市・プリズーン』かよ……」
 ルーシルアが呟くと、女が淡々と説明した。
「今の市長が、市民の精神的緊張をほぐすために造られた闘技場です」
 へぇ、そう口には出さず、剣を抜き、切っ先を狼共に向けた。鉄剣の鞘が中身のない鞘と当たり、音を出した。正面、左右から迫る狼
 ――射す。幻の痛み、〈ファントム・ペイン〉。
 それは確実に闘技場にいた全員を包み込んだ。だが、最も強い焦りと痛みを感じていたのは、おそらく狼共であった。
 ――ぴりぴり
 ――ぴりぴり
 ――ぴりぴり
 ――ぴりぴり
 ――ぴりぴり
――ぴりぴり
 ――ぴりぴり
 ――ぴりぴり
――ぴりぴり
 ――ぴりぴり
――――とんっ
 剣で突く。
 一直線に正面の狼を貫いた。矢のように。一点の濁りも、汚れもなく。
 ――おお……
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■二十二頁

 会場が湧いた。小さくも、大きくも、賛嘆の声に包まれた。
 右を向き、下方から上へ――。右に居る狼の上半身と下半身を断裂する。
 前を向いたまま、右手に持った剣を左の腋から通す。
 すぷり、と丁度とびかかってきた狼の眉間を貫いた。そのまま腋から剣を抜く。左腕に遮られた狼の身体が、剣を抜くにしたがって地面に落ちた。
 わずか数秒で、三匹の狼を平然とした顔で返り血一つ浴びず、斬り殺した男。会場が、その男の存在に息を呑んだ。静寂が、その場所を包み込む。
 雷鳴のように轟く音が聞こえたかと思うと、それが足音だとしれた。
 ルーシルアの背丈の倍以上もある巨大な男。熊を思わせるその体躯。上半身は裸で、これもまた大きい斧斤。筋骨隆々の体の中から滲み出る厳しさと優しさ。それを感じて、出会う場所を間違えた、そう思えた。もっと、別の場所で出会えれば、良い友になりえたかもしれない。
「勝敗の決着は、どちらかが死ぬまでです」
 女が言った。
 目を伏せ、歯を食いしばった。
 目を強く開き、そこにあるものを見据えた。
「きっちり、楽に殺してやる」
「宜しく頼むよ」
 男は優しく告げた。
「名は?」
「ウィリディン・グルーベン。お前は?」
「ルーシルア・シンズ・アファン。ミドルネームは趣味だ」
 男は微笑んだ。
 観客席から声が飛ぶ。どうやら待ちきれないらしい。
「それでは、始めよう。どちらが、市の長を守るに値するか、決めよう」
 ルーシルアは頷きもせず、後へ跳んだ。
 剣を構えた。小細工は、この男に通用しないだろう。
 ぶんっ。男が斧を振った。
 鼻の頭すれすれで通り過ぎる。空気が焦げるほどの速さ。苛烈さ。そう感嘆する間に第二隙が来る。
 すべての攻撃を、すれすれで避ける。跳ぶ。しゃがむ。裾を斬らせ、裾を斬らせ、相手に「あとちょっとで当たるのに」という焦りを与える。
 振れば振るほどその攻撃は大振りになっていく。
 避ける。そのことだけに集中する。
 男の斧が、高く掲げられた。
 ――来た……
 その強烈な一撃を避け、踏み込み、斧を持つ方の腕へ通り抜ける。
 ルーシルアが右の二の腕を押さえた。ぱっくりと裂け、赤い血がとめどなく溢れ出る。苦痛に顔を歪ませながら、ふり返った。
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■二十三頁

 男の首筋に、戦慄が奔ると、赤い血が噴き出した。男は、そんな傷は無いと思わせるほど平然と、ふり返った。
 微笑んでいた。やさしく。気丈に。
 ルーシルアの胸になにかが走り、亀裂を生んだ。苦い何かを押しとどめて、強い顔でそれを見据えた。
 男は斧を地面に落とし、さっきまで斧を握っていた手で、空を指差した。
「出会う、場所が、違えば、良き友に、なれたはずなのに……」
 男は、さっきまでルーシルアが思っていたことを口にした。
「もっと、楽に、死なせてくれるんじゃなかったのか?」
 男が笑った。ルーシルアも弱々しく笑いを返した。
「この街は……腐ってる……。すべては……あの男の……市の長の……」
 男が呟いた刹那、数十本の矢が飛んだ。背にそれは刺さり、男はうつむせにたおれた。
「……ウィリディン……」
 男の目は虚ろに空をたたえ、微笑していた。腕を押さえながら歩み寄り、ルーシルアはその目を見つめた。
 砂を踏む音がし、そっちを見ると壮年の男が沢山の兵士を従え、歩いてきた。その格好から、すぐにそれが市長だと知れた。そして、その兵士がウィリディンにとどめを刺したのだとも知れた
「見事だ」
 杖をつきながら男は言った。
「名は?」
 ルーシルアは今にも噛みつきそうな眼で市長を見た。
「ルーシルア・アファン」
 無愛想に答えた。
「アファン君、すこし、いいかな?」
 ルーシルアが頷いた。
「シャン、傷の手当てをしてやれ」
 市長が言うと、さっきの女が近づいてきた。
「腕を」
「いらない」
 手をさしのべる女の手を左手ではじいた。
「……止血だけでも」
 そう言うと、右腕に暖かい精緻な〈式〉が現れ、血が静かに固まり、血が止まった。
「……ありがとよ」
 さらに包帯を巻こうとする女の手から包帯をぶんどった。
「それくらい自分で巻く」
「終わったのなら、こちらへ」
 市長が言った。砂の上をゆっくりと歩いていく。
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■二十四頁

 包帯を巻きながらそれについていった。
 闘技場の中の通路をしばらく歩くと、ニス塗りの扉があった。
 その中に入った。
 靴越しからわかる高級な絨毯、金で縁取られた家具や、肖像画。それを一瞥していると、市長が言った。
「この書類に、サインを」
 そう言って市長は羊皮紙を取り出した。 
 むずかしい文がだらだらとならべられている。
「いや、君のような強い人が私の護衛についてくれるなんて、うれしい限りだね」
 市長が言った。ルーシルアは聞き流していた。
 羊皮紙と一緒に差し出されたインクとペンでさらさらと自分の名前を書いた。
「ふむ。これで君は私の兵士だ。給料の良さは保証する。私は山岳都市・プリズーンの市長、タイラン・プリズーン・ドッコだ。宜しく、アファン」
「……宜しくお願いします」
「今日は、とくに仕事もない。帰って貰って結構だよ」
 タイランがそう言うので、ルーシルアは形だけ一礼すると、そそくさ逃げるようにしてその場を去った。
 ――面倒臭いなぁ

「やぁ、護衛官どの」
 ルーシルアが宿に戻ると、店主が言った。
「どうも」
 そう言いながらカウンターの席に着いた。
「圧倒的だったそうじゃないか。あのウィリディンに」
 圧倒的? 一歩間違えばあの時死ぬのは俺だった。
「どうも」
 ルーシルアが答えると、店主は周りを気にした。何もないことを確認すると、ルーシルアに耳打ちした。
「お強い護衛官どのに、相談が」
 あらたまって言われたので、つい噴き出してしまった。
「なんです?」
「夜、皆が寝静まった頃に、ここに下りてきてください」
 店主の顔は真剣のその物だった。
「……わかりました。いいでしょう」
 そう一礼すると、部屋に向かって歩いていった。
 部屋に入ろうとドアを開けた。
「ルーシルアッ」
 そう言って飛び付いてきたのはサークナヤだった。
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■二十五頁

「……どうした? サクナ」
「腕は、もう大丈夫ですか?」
 部屋の隅にいたファンタンが眉間に皺を寄せながら言った。
「お前達……今日の戦いを見てたのか?」
「ルーシルア……本当に良かった……」
 サークナヤはルーシルアの胸の中で呟くように言った。
「これも、クンファーが考えた計画の内だからさ……。心配は要らないよ」
「でも……もし、死んでしまったら、わたしは」
「大丈夫だ」
 自分にはそれしか言葉が無いのかと自分を呪った。それ以外の言葉を、自分を本当に心配してくれている少女に向かってかけることができなかった。
「ほんとう?」
 サークナヤの透明な瞳がルーシルアを見た。
「あぁ」
 ドアが開くと、クンファーが部屋に入ってきた。
「……」
 クンファーの眼が怒りで燃えていた。虚空を睨み、この世のすべてを憎んでいるような眼。
「……計画通りに、行ったか?」
「まあな」
 サークナヤがルーシルアから離れた。何も言わず、髪の毛を帽子で隠して部屋から出ていった。
「ファンタン」
 ルーシルアがファンタンと眼を合わせると、ファンタンは頷き、風のような速さでサークナヤを追っていった。
「くれぐれも、忘れるなよ」
 クンファーが言った。眼は未だに空を睨んでいる。
「あぁ」
 何があったのか、それは聞かなかった。この男は、今日囚人となった恋人に面会しに行ったはずだから、きっとそこで何があったのだろう。
「身体を、休めておけよ」

 物音がしなくなり、ミミズクがなきやむ頃、ルーシルアはベッドの中で目を開けた。
 起きあがろうとした瞬間、自分の両端に誰かがいるのに気がついた。
 右にはサークナヤが寝息を立て、左にはファンタンがうずくまっている。
 さてどうしたものか、いや、もしかすると俺の呪いは人間の引き寄せるのかも知れないなどと思いながら、右腕を下にして、起きあがろうとした。傷の痛みは無い。
 暗闇の中に、紅い神服を来た男が月明かりに照らされ、居た。
 その光景にすこし驚き、クンファーであることがわかった。
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■二十六頁

「なんだ、おどかすな」
「俺も驚いたな。以外と、色男じゃないか」
 その腰の剣には鎖がない。クンファーが剣が振れる時刻になったことを告げていた。燃えるような赤い剣。
「……今から、稽古か」
「いいや。今から寝る」
 そう言うと、クンファーは剣をおさめ、自分のベッドに横たわった。
「おやすみ」
 ルーシルアが言うと、クンファーがいびきで返した。
「じゃあ、いくか」
 自分をはさんで寝ている二人を起こさないように起きあがると、二人に毛布をかけ直した。
「……」
 何も言わず、部屋を出た。
 一階が光で濡れていた。咄嗟に階段の上で伏せた。
「あの男、本当にくるの?」
 女の声だ。
「部屋で寝てたりしてな」
 男の声。若い。
「確認してこようか?」
 店主の声だ。
「……私が行きましょう」
 女の声
 ルーシアは立ち上がり、階段から飛び降りた。右腕は剣の柄を握り、いつでも抜けるようになっている。
 話していた集団のちょうど真ん中当たりに着地し、剣を抜いた。
 〈式〉か何かでぼんやり明るい部屋の中で、女が一人、男が二人、そして店主がルーシルアを見ていた。
「ふむ、良い空気の持ち主だ」
 男の一人が言った。顔をフードで隠している。
「ンだよ、やンのか? おいこら」
 茶色い髪をした少年が言った。
「あなたのかなう相手ではないよ」
 女が止めた。
「でもよ、むかつかねェ? 剣を向けておいて。三人なら勝てるっしょ」
「〈ファントム・ペイン〉を使われれば、逃げられんぞ。使われなくてもお前にァ勝てん」
「あァ? 使われる前にぶっつぶせばいいんじゃねえの」
 二人の男が言い合う。
「……しょうがないわね」
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■二十七頁

 女が呟くと、少年は嬉々として腰の剣を抜いた。
「でも、自分だけでやりなさい。私達は何もしないわ」
「上等ォ上等ォ」
 ルーシルアは身体から力を抜いた。剣の柄が指に軽く引っ掛かる。
 ゆっくりと、男が踏み込んだ。剣を片手で握り、刃を横に倒している。胴体めがけて迷わぬ一閃。
 ――遅い――ルーシルアの眼に炎が宿った。――その程度か
 一瞬にして、勝負にけりが付いた。
 ルーシルアの鉄剣が相手の首筋に当たり、首を切り落とそうとするところで止まっていた。男の剣はルーシルアの脇腹を通り過ぎ、刃は当たることなく通り過ぎている。
「……」
 少年の目が丸くなった。
「だから言ったろう。お前の勝てる相手ではないと」
 フードを被った男が言った。今にもげらげら笑い出しそうな調子だった。
「……ちぇ。なんだよ、なんだよ」
 少年が今にも剣を投げ出しそうな勢いで地べたに座り込んだ
「あぁー、もう。どうせあたしは弱いですよ」
 ルーシルアは男のその言葉につい反応してしまった。
「あたし?」
 もう一度そいつの服装を見ると、どこからどう見ても男物の服である。
 フードを被った男が今度こそげらげらわらいだした。
「あたしは、女だ。くそぼけ」
 とても女とは思えないような罵詈雑言。
「おいこら、エネトゥスのおっさん、いつまでわらってンだよ」
「良かったな、男装馬鹿」
「ンだとォ?」
 いがみ合う二人をみて、女が咳払いをした。
「こんばんは、アファン」
「……」
 その女が言った。どこか見覚えがある気がして、ルーシルアは首を傾げた。
「今日の戦いは、見事でした。ウィリディン相手にあそこまでやる人間は、そうは居ません。」
「……どこかで、会ったことが?」
「本日の戦いで、あなたを闘技場へ導いた者ですよ」
 そう言われ、合点がいった。
「あの黒い礼服の……」
「あたしならもっと巧く殺せたもンね。甘いよ。首筋に刃を引っかけて殺すなんてさ。姐さんだって、もっと巧く殺して欲しかっただろ?」
 少年もとい少女が話に割り込んできた。おい、こら、どういう意味だくそがき
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■二十八頁

 それが顔に出た。
「いいかい。あんちゃん、あんたが殺した男は、姐さんの兄さんなわけ。わかる? あんな無様な戦いされて――」
「ルラム」
 女の厳しい声。その声の意味は、おそらくべらべら喋りすぎ、と言うことだろう。
「あの場で本当に戦わなァあの戦いの凄さはわからんよ」
 フードを被った男が言った。
「申し遅れました。わたくは、シャン・グルーベン。そっちの男がエネトゥス・エヴァーグ」
 女に紹介され、男が一礼した。
「この子が、ルラム・ウォブニアル」
 少女は無愛想に軽く頭を振った。
「我々は、山岳都市・プリズーンのレジスタンスです」
 ルーシルアは頭を掻き、首をならし、あくびをし、涙をぬぐった。
「……部屋にもどっても?」
「冗談のように感じるかもしれませんが、私達は真面目です。大まじめです」
「それで? 俺に入れと?」
「まとめれば、そう言うことになります」
「おいおい、折角手に入れた職を、みすみす手放せって? 無理だな」
「市長に充実な兵士のふりをしていただければ結構です。そして、いざというときには――」
「戦えと?」
 ルーシルアが言うと、シャンは頷いた。
「あなたはこの街に何の義理もないはずです」
「……断れば?」
 眉間に皺を寄せながらルーシルアが答えた。
「断れないような状況をつくってますから」
 気がつけば、三人の戦士に囲まれていた。エネトゥスは剣に手を伸ばし、ルラムは盲完全に剣を抜き、シャンは右腕に〈式〉を発動させ、それで攻撃を仕掛けようとしている。
「……まるで舞台のようだな。秋の謝肉祭の出し物みたいだ」
「へェ、じゃァ今からあんたは、あたし等を倒す、っていうのかい? それが王道ってもンだろ?」
 ルラムが言った。
 ルーシルアは剣を逆手に構えた。刃は床を向いている。その風情はどこかうきうきしているようにも見える。
「そういうことに、なるな」
 ――下手な剣よりも、鋭い――不意にクンファーの言葉を思い出した。
 やってみる価値はあるな。そう呟き、目を瞑った。
 その場を襲うような感覚。津波、竜巻、炎、一振りの剣。
「なんだァ……? 降参かァ? つま……」
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